15 番。
《あぁ、その域まで到達したか、山本君も》
鑑定スキルの自動発動。
制御は不能、ゲームであればスイッチの切り替え1つで出来るんだろうが、私達は単なる人間。
時にスキルに振り回される事も有る。
「渡辺さんも、そうなんですか」
《だから軍師になったんだが、相性が良くてスキルは継続所持のまま。なんであまり見知らぬ者には関わらないようににしているんだ、どうしても反応してしまうからね》
警戒心に反応し、知りたい情報が頭に流れ込む。
勝手に暴いてしまう厄介なスキル。
「コレ、辛くないですか」
《残念、もう既に伊藤君が居たからね、気心知れた者の存在は心強い、安心は強い安定剤になる》
「それで、相手について聞いてくれたんですね」
《まぁ、半々だな》
私は心の安定により、自動発動が切れた。
だが未だに初対面の相手には勝手に発動してしまう、スイッチは警戒心、不安。
「オススメとか」
《竜人かエルフかダークエルフか、真っ直ぐな性質持ちかな》
「竜人、ですか」
《気に入った相手の性別に沿ってくれるんでオススメだ、相対してみると良いよ、凄く楽だから》
「はい、ありがとうございます」
《いえいえ》
七大竜、竜人に相手をして貰うのは、少し気が引ける。
と言うか、物語なら相手をして貰えるけれど、ココは物語じゃない。
相手は記号では無い、しっかりとした人格が有り容姿端麗、しかも知能も十分に高いらしい。
仮に相手にされたとしても、それが本気なのかどうか。
疑うワケでは無いけれど、長寿種の暇潰しに使われたくは無い、遊ばれるのは誰だって嫌な筈。
いや、だからこそ有意義な何かを聞けるかも知れない。
相手にしてみればコチラは赤子同然、例え相手にされなくとも、邪険にされたとしても仕方が無い。
「すみません、失礼します、山本と申しますが。お話をお伺い出来ませんでしょうか」
『はいはいはい、あらあら山本さん、いらっしゃい』
「田山さん、お邪魔します。竜人の方に人生相談をと思ったんですが、今はお忙しいでしょうか」
『そうねぇ、誰かご指名は?』
「いえ、どなたでも構いません、ある意味他愛のない事なので」
『そう、じゃあ五ノ竜様かしらね、あんまりお喋りが上手じゃないからって恥ずかしがり屋なのだけれど、良い子なのよ』
「はい、宜しくお願いします」
驚く様な美人、多分、元鈴木さん越えだ。
と言うか、明らかに浮世離れしている。
《す、好き嫌いが激しぃ》
あぁ、俺の事か。
「ですね」
凄いガサガサな声、見た目とのギャップが凄い。
《こ、この声は、あまり、好きじゃなぃ》
「生まれ付きなんですか?」
《ぅん、て、転生者》
「あ、転生者なんですね」
《け、経歴、鑑定スキルで、見て良ぃ》
「俺のって見れますか」
《な、何となく、分かる。直感の竜、だから》
「あぁ、好き嫌いが激しそうだな、と」
《ぅん》
勝手に発動している鑑定スキルでは、彼女の顔に恥ずかしいと全面にびっしりと、大小様々な大きさで書かれている。
何が、恥ずかしいんだろうか。
「その前に、気になる事が有るので尋ねたいんですが、何が恥ずかしいんですか?」
《こ、声と、どもり、前も、そうだったから》
「変更は、流石に長い一生ですから取っといてるんですかね?」
《そ、そう、長いって、分かってるから》
自分より下が居る。
そう思いたいワケじゃない、でも、自分より大変さを背負っている人は大勢居る。
向こうでも、ココでも。
魔法も精霊も存在しているのに、ココはまだまだ。
「誰か、美声の持ち主と」
《いい、要らない、勿体無い。う、歌とか、読むのが上手い人に、使って欲しい》
「じゃあ、声を気にしている所を」
《いい、ぶ、分相応だと、思うから良い》
勿体無いと思うのは、ある意味で偏見や固定概念が有るからだ。
可愛い声なら顔も可愛い筈だ、なら性格も良い筈だ、と。
そんな規則性が通用しないと分かっているのに、声を気にしてしまう。
「すみません、でしゃばりました」
《ぃや、うん、ぁりがとう、気には、してるから》
「でも変えないんですね」
《そ、そこは、女鈴木と話せば良いと、思う》
「メスズキ?あぁ、元鈴木さんですか」
《それは何か違う、元鈴木だと言ってるけど鈴木さんは鈴木さんのままの筈、ただ問題回避の為の元鈴木で喜んで受け入れたかどうかは分からない、から》
「あぁ、同じ鈴木で何か有れば困るのは両鈴木さんですしね」
《で、でもローズは、多いから、ややこしい》
「確かに意外と多いですよね、ローズさんって方」
《に、似合うけど、違う》
「直感、ですかね?」
《い、いや、コレは、違和感、同姓の弊害を考えなきゃならない世への、不満》
「魔獣だった時の事って、覚えているんでしょうか」
《お、覚えてる、けど鈴木さんには、内緒》
「それは、どうしてなんでしょう」
《い、痛いのも、どうしようも無かったのも、覚えてるから、どうしようも無い、事だから》
「じゃあ、渡辺さんにも言って無いんですね」
《は、初めて。わ、私と、こう話そうとするの、居ないから》
「他の転移転生者もですか?」
《お、男は、声を聞くとガッカリして帰る。お、女は、大丈夫だけど、全部、内緒にしてる》
「結構、重要な事だと思うんですけど、どうして俺に言ったんですか?」
《言わない、アナタは言わない人》
あぁ、渡辺さんは、最初からこの人に会わせる為に。
いや、多分、知らない筈で。
じゃあ、直感との相性ってだけで、この人と引き合わせたのか。
「アナタが転移転生者なのは」
《だ、誰にも、言って無い、こ、コレ、記憶の事も、説明しなきゃいけなくなるから》
「辛く無いですか?」
《だ、大丈夫、皆優しいから》
何処か、何かに違和感が有ると思った理由は、彼女が浮世離れしているからだ。
それは外見だけじゃなくて、中身が伴っているから。
声に惑わされそうになったけれど、寧ろ、それが精霊や神の神聖性に繋がっている。
ひっそりと耐え、既に有るモノで満足し、受け入れている。
清くて、正しくて、直感的で。
「何か欲しい物は無いですか?」
《お、音楽、こ、ココ、まだまだ、楽器も、無いから》
「個人的に欲しいモノですよ?」
《お、音楽が、す、好き、だから》
ほんの数時間前まで、ほんの数分前まで、人と居る事すら想像出来無かったのに。
また会いたいだとか、喜ばせたいだとか、そう思うだなんて。
「探してみます、また来ても良いですか」
《こ、この姿は、か、借り物だから。き、きっと、いつか、魔法が解けたら、ガッカリすると思う。だから、だから、その、音楽だけで、良いですから》
「借り物、ですか」
《そ、そこも、多分、め、女鈴木が、わか、分かる、筈》
「分かりました、ありがとうございまし、何と呼べば良いですかね」
《五ノ竜で良い、ずっと、そうだから》
本名も聞けないだなんて。
初めて、個人的にスキルを使いたくなった。
「メスズキ、ふふふ」
「あの」
「あ、いや違うんですよ、親族になるんで親し気に呼ぶ際の候補に出て。松本ちゃんは気にしてましたけど、私が良いって言ったんですよ、口の悪い女友達みたいで、凄く良いなと思って」
「良いんですか、メスズキ」
「上手くないですか?メスのスズキ、略してメスズキ、端的に説明がなされてるし、簡潔で良いと思うんですけどね」
「良いなら、構わないんですが」
優しそうな顔だけど、凄い怖い雰囲気がするんだよね、山本君。
精霊使いになってから更に強く感じる様になったんだけど、鬼気迫るって言うか、闇が大きい感じ。
でも、今は何か少し違う感じがする。
何だろう。
あぁ。
「あの容姿に惚れちゃった?」
「容姿も含みますね、声も、性格も気になる存在になりました」
「あの声、ちょっと変えたいよね」
「でも俺達の自己満足になりそうなんですよね、ある種のアイデンティティみたいなんですよ、あの声」
「あぁ、何か分かるな、前もそうだったから」
「拘りとは、少し違うと思うんですが」
「いや、拘りだった。だってさ、評価されるのはそこばっか、成績が良くても悪くても顔。歌が上手くても下手でも顔、お洒落しても何しても顔顔顔。けど顔を変える気は無かった、お金が勿体無いって思ってて、でも勿体無いと思える程度とも言えるんだよね。それに何処かで容姿によって利益を享受してた事を受け入れたく無かった、酷い扱いを受けないで済むって事を手放せなかった、掌返しをされたくなかったんだよね」
瘦せて可愛くなった、ってチヤホヤして遊ぶ遊びとか。
逆に太ったって事で対応が変わるのも見てきた、だからこそ顔を変えるリスクを選べなかった。
普通の、それこそ平均如何の顔になるリスクを、選べなかった。
何処かで天秤にかけて、無意識に無自覚に選んでた。
今か、変えた後の人生か。
しかも、顔を変えてストーカーが減るとも限らない。
ストーカーは顔で選ぶヤツだけじゃない、そもそも何処を、何を良さとして選ぶのかも分からない。
だからこそ変えなかった、変えられなかった。
ストーカーが手術代を払ってくれるなら良いけど、そうじゃないし、どうしても手術だからリスクが有るし。
嫌なら変えれば良いって言われた事も勿論有る。
それこそ嫌味だったり、悪意込みだったり。
でも田山さんは善意だった、整形を否定する世代の筈なのに、敢えて提案してくれた。
それなのに私は。
「あの、俺は転移者なので分からないんですが、生前と違う顔だと、自分だって思うのは難しかったんでしょうか」
「猛烈な、強烈な違和感が有ったの、それこそ自分の顔を見る度に。だから原因は顔だって思って、でも多分、違かったんだと思う。それこそ知り合いも誰も居ない異世界で、見知らぬ人達が家族で、荒れた世界なのに無職の称号でも生きていける。クソみたいな世界で無難に生きられる自分に違和感が有ったのかも知れないし、それこそアイデンティティが揺らいでたのかも知れないんだけど、結婚したからか落ち着いちゃって、今はもう良く分からないんだ」
「新しい、自分が選んだ家族、だからですかね」
「渡辺さん的にはそうなんじゃないかって、私もそう思う。私を私だと知って理解し受け入れてくれる、単にそんな相手が欲しかっただけ、なのか。全てを知って欲しいワケじゃないけど、ある一定数、閾値以上に知って愛してくれる誰かが欲しかったんだと思う」
全てを知られるのは怖い、恐ろしい。
貶され非難され、責められたく無いから。
でも、何も知らないまま、仮初めの自分を愛されても。
多分、虚しさが大きくなるだけ。
一部を過大評価される事には、凄く違和感が有るから。
「転生すると、借り物の人生や姿に思えるんでしょうか」
「だね、その時はそう思ってた、でも今は違う。ただ、勘違いだったからとかじゃなくて、今は状況も何もかもが変わったからね。柱とか、杖が変わったんだと思う、結局本質は変わらないから」
「もし魔法が解けて、以前の容姿に戻されるとしたら、怖いですか?」
「今は平気だけど、嫌な人は凄く嫌だったと思う。掌返しは鈴木さんでも凄い見てきたし、そうだな、周りが変わってしまう事は今でも凄く嫌だね」
「すみません、ありがとうございました、深く立ち入ってしまって」
「いえいえ、ただコレが少しでも役に立ったなら、恩だと思って欲しいな。私が提供出来る事は、そうか、精霊使いだったわ」
「ですね、しかも竜の花嫁。もし何か困った事が有ったら相談には乗りますよ、内容によりますけど」
「あー、じゃあ1つ」
「はい?僕に答えられる事なら、ですけど」
「最高、何回出来る?普通何回?」
「あぁ」
「いや人に当て嵌めるのはお門違いだとは思うんだけど、そこら辺、平均ってどうなのかなと思って」
「そこは寧ろ渡辺さんでは」
「いや知らなくて深く探って伊藤君との不和を起こすのもさ、かと言って遠藤君は、私が神聖視してるから気まずくて聞けないしで」
「あぁ、なら俺が聞いておきますよ、他の用事のついでに」
「ありがとー、うん、チャラにする、コレでチャラね」
「はい、ありがとうございます、ローズさん」
「メスズキで良いよ山本君」
そうなんだよね、さっさと既婚者になってれば。
いやでも、凄い人間不振だったからな、私。
《ほう、見事に竜人に惚れたんだ山本君、超ウケるんですけど》
「渡辺さん、何処まで分かってて紹介したんですか?」
《疑り深い人に幾ら言葉を尽くしても時間が掛かる、なら、直感じゃね?》
「それ半ば勘ですか」
《だね、軍師の勘、統計学的な方。しかも竜人って数が居るし、まぁ、どれかには当たるかな、と》
「じゃあ、そこまで知らないんですね、竜人の事」
《まぁ、相談を受けた内容だけ、ね。彼ら彼女達にもプライバシーが有るから》
「何処まで人に近いんでしょうか」
《あぁ、寧ろほぼ人だと思って良いよ、それこそ精霊も。例のドリームランドで精霊と話したんだけど、まぁ人間臭いんだよね、物だけ渡されると寂しい、話は出来たらしたい。其々人と同じ様に話したがらないのも居るし、お喋りも聞きたがりも居る。多様性が存在してる以上、竜人も神もまた、其々》
「恋愛を怖がるとか、変わる事が怖いと」
《あぁ、蛙化現象だね、妊娠する側の女性に多いんだ。少し前に出た論文なんだけど、再注目されてたね、急に好きだったのに相手の事がダメになる現象だよ》
「あぁ、蛙の王子様の逆ですか」
《そうそう、だから正確に言うとなると逆蛙化現象、だよね。アレは蛙から王子様になるんだから》
「成程、恋の果ては愛、性行為の果ては妊娠ですからね」
《そうそう、でふとした瞬間に冷静に客観的になる、だから急に粗が目立った様に際立って見えて嫌になる。この人との生存戦略では生き残れない、って、ある種の本能だと思うよ》
「男には少ないんですかね」
《寧ろ男の場合はマリッジブルーがそうじゃないかな、急にダメになるには至らないけれど、ふとした瞬間に物凄く不安になる。このまま結婚して良いのか、この相手で良いのか。だから出方は均等では無いだろうけど、数としては正反対の出方をするんじゃないかな。そして結婚寸前で浮気したり、酩酊したり、無意識に無自覚に破滅衝動的な行為をする。ただまぁ、単に図に乗ったバカもする行為だから、一概には言えないし、サンプルが正確には取れないから証明は不可能だろうけどね》
「確かに、正直には言わないでしょうし、逆に言い訳に使おうとする者も出るでしょうからね」
《ね、だから論文を出す前に精査すべきなんだけど、まぁどの国にもアホは居るからね》
「ズバリ聞きますが、渡辺さんには何が起きたんですか?」
《超、良くありがちな事だよね。結婚が遅くて不妊気味で、どうしようかって時に向こうの浮気が発覚、しかも相手は妊婦。ガッツリ金貰って離婚、けど子供は元夫の子じゃない、で向こうは再び離婚。そのまま復縁を迫られてる時に事故に巻き込まれて、だから敢えて帰還は選ばなかった、選ぶ理由が皆無だったからね》
「この世界に、幸せな人は来ないんでしょうか」
《選んでるのかもね、世界ちゃんが。何だかんだココに居てくれる人の方が、ココを良くするのは間違い無いんだから》
「でもクズも来ますよね」
《世界ちゃんに鑑定スキルが無いのかもね、それとか情報開示されている事がどうでも良い事だったり、理解出来ない言語や表記だったり。そもそも、ルールさえも常に不安定なのかも知れないし、クズカードしか無かったのかも知れない。でも、どうにか出来る筈の人材は既に揃ってる、後は私達次第》
「まだ、芸術は早いんですかね、ココでは」
《いや居るよ、そっか、面識を持ちようが無いか。保護してるんだよ、とある地区で、全く戦闘系でも無いし生活に必要でも無いからね。妬みを生む前に最初から隔離してあるんだよ、芸術特区》
「じゃあ、ピアノとか、演奏者とか」
《お、興味が有るの?》
「その、五ノ竜が」
《成程ね、じゃあ手配しておくよ》
「はい、ありがとうございます」
《まぁ、あそこなら安全だろうし、気にしないで》
竜人に引き合わせるのは賭けだったんだけど、こう上手くいくかね。
「あの、それと、竜人の生態についても伺えませんか」
《ほう?》
「その、繫殖期だとか、回数だとか」
《あぁ、オス、男の方は凄いらしいけど、女の方は未知数だね》
「人の女性の場合だと、どう、なんでしょうか」
《程良い丁寧さと器用さによる、が、そこまでか》
「いえ、念の為にと。因みになんですが、男の方は、満足する回数とかって」
《週に3日以上、回数は二桁超えてもまだ満足しないらしい、一と二がミーミルと相談してるらしいが、加わるか?》
「それは、追々で」
《なら、先ずは楽器からだな》
コチラとしても、転移転生者には早く相手を見繕って欲しい。
相手にはアンカーやリミッターとしての機能を期待している、そして安定剤としての作用も、だからこそしっかりした者しか紹介は出来ないんだけど。
山本君はね、少し難しい子だから悩んでいたんだが。
もしかすれば、コレで落ち着いてくれるかも知れないな。




