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9 深淵と結婚とダンジョンと。

『良いなぁ、俺も温泉楽しみたい』

《でもクトゥルフって詳しくは知らないんですけど、怖いって聞いてますよ?》


『そこは魔王も同じじゃない?』

《あー、まぁ私もコレで大罪ですしねぇ》


「大賢者や、専門家に相談しようと思う」

『だね』

《ですねぇ》


 私、良く知らなかったんですけど。

 深く関わると、それだけ繋がりが深くなるのがクトゥルフ、だそうで。


『鈴木さんの判断は正しかったよ、深淵を覗く者は深淵に覗かれてしまうそうだから』


《でも遠藤さんは平気なんですよね?》

『大賢者は謂わば観測者で伝達枠らしい、都市伝説に関わった全ての者が死滅してしまっては、都市伝説は広まらないからね』

『あぁ、安全な領域の関係者に認定されている、つまりは既に認識されちゃってるんだね』


『確認はしていなけれど、だと思う』


「そうなると、俺が認識されたのは多分、魔王だからだと思う」

『あぁ、神の領域に踏み込んだ小林君と同じく、同一のステージ同士での接触なのかも知れないね』

『となると、その桜木さんって子も、もしかしたら別次元の魔王って事にならない?』


「かも知れないが、メタ表現だとか、物語がどうとか」

『あぁ、向こうの観測者なのか、僕らが物語なのかな』

《えー、今までの苦労が物語だとか何か嫌なんですけど?》

『なら、物語と現実の区別は、どう付けるんだろうか』


《そこ、遠藤さん的にはどう思ってるんです?》

『精神保護の為に、知能を上げるスキル系は全て必ずリミッターが付いているんだ、だから僕は意図的に考えない様にした。多分、君達と同じ考えのままだよ』


《あ、じゃあ、考えるぞって思って考えないといけないんだ?》

『じゃなければ思考の暴走が起き、勇者が平和の為に世界を破壊する事になってしまう筈だからね』

『あー、アレ安全装置が無いからか、成程ね。思考を止められないって、ある意味で病気認定されるしね』

「あぁ、成程」


『鈴木さんは、大丈夫ですか?』

「あぁ、多分、不満が無いからだと思う」

《欲も無いからなぁ、つい構っちゃう》

『食べないでも寝ないでも良いからね、魔王って』


「けれど、切り替えの為にも、やはり人と同じ行為は必要だと思う。俺はあくまでも人だから」

《寧ろもう僧侶っぽいですけどねぇ》

『ね、本当、逆にそこがそそるけどね』


「あ」


『どうしましたか?』

《珍しい、言おうとして悩んでるっぽい》

『だね、何の事だろう』


「その、君達は、式を挙げる気は無いんだろうかと」


『あぁ、いえ、ただ何かしら記念になる事をしようと思ってはいます』

「新婚旅行などは、どうだろうか」

『あ、あぁ、成程。温泉好き?』


『実は行った事が無いんですよ、銭湯も、どうも遠慮してしまって』

《あー、配慮してたんですね》


『はい、後でバレたら嫌だなと思ったんですけど』

「もし、温泉地が有ったら、行きたいと思うんだろうか」


『ですね、個人のプライバシーが保護される場所か、自由な場所なら、ですね』

「それと、式について、どう思う」


『あ、メリッサさんとはまだなんですね』

「あぁ、正直、考えても居なかった、すまない」

《いえ》

《まぁ無戸籍も当然でしたからねぇ》


「しかも、相手が複数となると、どうしても法整備については面倒だ、と思考を放棄してしまう」

『小林君の国と差別化を図るなら、やはり本来の一夫一妻とし、代わりに内縁関係の法整備をすれば良いと思うんですよね。特に鈴木さんの場合ですとメリッサさんが正妻だと言ってらっしゃって、田中さんも妾状態を受け入れていますから。ただ、そうなると』

『僕は良いと思うけどね、皆平等に愛してても、どうしたって序列は必要になる。優先度が同一のモノを複数、しかも問題無く調節するって、機械ならまだしも個体差の有る生き物なんだからさ』

《確かに、病弱な方を好きになったらどうしても差が出ますしねぇ》


「田中君は、それで構わないんだろうか」

『それこそ内縁関係じゃなくても良いよ、どうせ子供は、えっ?』


「勿論、俺に産む覚悟は無いんだが」

『本当に?マジで言ってる?』


「俺意外と繁殖する気が無いなら、早い方が良いとは、思う」

『でも、メリッサさんを差し置いては流石に』

《私とスズキ様の寿命はまだまだ先が御座いますから、どうぞ》


『でも、何で』


「勿体無いと思わない方法は、コレか、と」

《おめでとうございます田中さ、泣いてる》

『僕らは少し、席を外そうか』


《あ、うん、はい》


 飄々としてて頭が良い田中さんが、子供を作ろうって提案されて。

 感涙って。


 分かんないな。

 分かんない、どうして、何でそんなに他者に入れ込めるんだろう。


『ふふふ、驚いてるね、森さん』

《あー、いや、何でそんなに他者に入れ込めるのかなって。多分、私、色々と壊れてるんだとは思うんですけど、その点に全く不満が無くて、どうしたら良いと思います?》


『誰かを好きになったり、性的に欲しいと思った事は?』

《無いですね、性欲もどっちが理由か皆無です》


『僕は専門家では無いから断言は避けるけれど、無性愛者だとかノンセクシャル、アセクシャルって人が居るらしいね』

《ほうほう》


『渡辺さんが詳しい筈だから、相談してみたらどうかな』

《でも、内容は知ってるんですよね、遠藤さん》


『情報収集をしているからね』

《ダメですか?遠藤さんの口から聞くのって》


『知らなければ知識を活用は出来ない、活用しなければ知恵とならない。僕はその事について考え無かったからね、適格者に聞く方が御幣も誤解も少なくて済むと思うよ』

《材料が揃っててもダメなんだ》


『最低限、材料が揃わなければ不正確な予測となる。でも、方程式が有るからって全てを解いてたら大事な問題を考える間が無くなるからね』


《万能じゃないんだなぁ、知能を上げるスキルって》

『教育でも何でも、物事を素直に学び考えたくても、阻害要因が必ず存在する。生かすには複合的なスキルの相乗効果を狙わないと、知能を上げるスキルだけでは限界が有る、それも安全装置なんだと思うよ』


《皆が皆神になったら、自分だけだと思ってた神様は面白く無いでしょうからねぇ》

『でも小林君は神になった。ただ、実際に彼が望んだのか、強制的に神にさせられたのかは別だけれどね』


《そこ、どう思います?》

『全く望んでいなかったら、なっていないんじゃないかな』


《あぁ、催眠術でも嫌な事はさせられないそうですしね》

『らしいね、だから嫌な事を心地良い事に変換させ、嫌じゃなかった事を嫌にさせる。怖いよね、暗示とか催眠術って』


《だから無いんですかね、そうした魔法も称号も》

『なら、ココの世界ちゃんは凄く良い子なのかも知れないね』


《あ、居る派なんですね、神様とは別の存在の世界ちゃん》

『居るとなると少しは世界について考えるからね、良い道徳の一種だと思うよ』


《どうしよう、松本ちゃんみたいな子で、あたふたしたり悲しんでたら苦痛なんですけど?》

『そう共感するのは偶にしておくか、意外と大人で時に面白がってくれてる、僕はそう思っているよ』


《なら良いんですけどねぇ、ココ、クソだから》

『発展途上と言ってあげよう、衰退した形跡は無いからね』


《じゃあ、ココは伸びしろまみれ》

『そうだね、確かに』




 少し、森さんはサイコパスなのかも知れないと思っていたけれど。

 共感能力は存在している、だから多分、ノンセクアセクと呼ばれる分類に入るのかも知れない。


『あの、うん、ごめんね、ありがとう』

《もう良いんですか?》

『気にして頂かなくても大丈夫ですよ?』


『いや本当、もう大丈夫だから、何なら記憶を薄めといてくれない?』

『分かりました、そうしておきますね』

《うん、もうした》


『ありがと』

《はいはい戻りましたよー、それで、なんの相談に来たんでしたっけ?》

「あぁ、クトゥルフと結婚について、だったんだが、出産の事もだな」

『それ、僕も考えてたんですけど、やっぱり少し怖くないですか?』


《あ、遠藤さんが女になるんだ?》

『あ、はい、やっぱり女性を相手には出来なくて』

『痛みも思い出、子育てには必要な事かもって思ってるのと。そんなポンポン産まれたら、周りが大切に扱わないんじゃないかな、と思ってる』


《あー、容易く生み出せるとなると何でも粗末にしますからね、人って》

『いや慣れって悪いばかりじゃないからね、習慣化するのは仕方無いんだよ。常に意識するって事は、緊張を生む事だから』


《つまりは何事も程々に、ですよねぇ》

『そうそう』

『ですね』


「もし不安なら、一緒には、どうだろうか」

《はい天才、流石鈴木さん、良い案だと思いますよ?》

『確かに心強いとは思いますけど』

『無理に親しくさせないから大丈夫、親は親、子は子だから』


『あの、本当に良いんですか?』

「赤信号」

『皆で渡れば』

《怖くない〜》

《ですね》




 全く、想像が付かない。

 異性愛者で、自身を男だと思っている俺には、どうしたらこんな答えになるのか全く分からない。


「相手の子供が欲しいと思うのは分かるんだが、やはり理解に苦しむ」

『本当、ちょっと後悔しそう』

『ですよね、想像はしてましたけど、やっぱり体験するとキツいですね』

《胃も何もかもが物理的に狭まるんだもんねぇ、よしよし》


 彼らは今、男性体のままに妊婦と同じ苦しみを体験している。

 魔道具職人が作った疑似体験機によって、悪阻や腰痛、果ては陣痛までをも体験する事に。


「賢者では無いにしても、分かるだろうに」

『舐めてたワケじゃないんだけどねぇ』

『きっと、可愛い赤ちゃんが産まれるんだろうと思うと、理屈じゃないんですよね』

《分かります》


『ごめんねメリッサさん、次は目一杯世話するから』

《持ちつ持たれつ、ですから》

《良いなぁ、いつか私も思える様になるかな》

「子を成す事が全てじゃないんだ、焦る必要は無い」

『そうですよ、働かない蟻だって、ぅう』


「もう止めても」

『いえ、ダメです、僕らは月経の辛さが殆ど無いんですから』

『そうそう、苦痛を舐めたらアカンって、渡辺さんが、ぅう』

《立ち合い出産って離婚率が上がるそうですし、暫くお外に出られては?》

《謎の洞窟から瘴気が出続けているそうですし、探索をお願い出来ますでしょうか》


『うん、行って行って、本番で罵る人も居るって言うし』

『そう、らしいので、寧ろ、落ち着て下さる方が、助かります』


「すまん、頼んだ」

《はい》

《行ってらっしゃーい》


 そうして既に遠藤さんの夫を含んだ数人が、洞窟周辺を探索している場所へと向かったんだが。


「伊藤君、高橋さん、新しくダンジョンなる物が出来ていたんだが」


『ダンジョン、ですか』

「あー、確かにゲーム的にはRPGや乙女ゲー要素が有るのに、ダンジョン物だけ欠けてましたもんね」

「詳しいな高橋さんは」


「浅く広く、でしたから」

『僕は全く無知なんですが』

「特定の階層毎にボスや宝箱、隠し部屋やトラップが有る」


『あぁ、魔獣が沈静化した事で事象の動きが鈍っていましたからね』

「あー、こう変化し続けるってなると、やっぱり世界ちゃんの存在を考えちゃうよね」


『ただ、僕としては釈迦的な何かだと、思いたいですね』

「クソ性格が悪いクソだったら困るもんねマジで」

「確かに困るが、ダンジョンの中身次第では、更に評価が分かれると思う」


「あー、難攻不落かどうか、ですかね?」

「あぁ、ただ正確に測る為にも、俺は補佐でありたい」

『では編成を行いますね』


「頼んだ」


 準備が整う間、ダンジョンの危険度が分からない為、結界を張っていた。


 そして、その準備とはダンジョン探索は勿論。

 結婚式と、温泉地だ。




《ありがとうございます、スズキ様》


「呼び方を変える気は、無いんだろうか」

《もし子が成せたら、その時にと思っております》


 長寿だからこそ、受胎率は非常に低い。

 しかも、そのせいで長持ちする性奴隷として一時は同族が激変してしまった。


 だからこそ、私達ダークエルフはスズキ様を敬愛して止まない。

 真に平和を齎したのは彼だと、良く理解しているからこそ。


「なら、君の親族にも喜んで貰える様に、努力する」

《程々にお願い致します、情愛が有ってこその行為ですから》


「あぁ」


 私達ダークエルフは、このままでは数が減ると悟り、ドリアードと協力し身を隠す事にした。

 仮死状態となり樹の中に身を隠し、狩られる事の無い世界を待つ事に。


 けれど融合を果たせる樹の大きさ、そもそも融合に時間が掛かる為、逃げ遅れた者が捕まり奴隷とされた。

 そして私は逃げ遅れ、捕まった。


《幾人もお救いになり覚えてらっしゃらないかも知れませんが、私はお救い頂いたんです、スズキ様に》


「すまん」

《いえ、魔獣に襲われた馬車に居た奴隷の1人に過ぎませんから》


「あぁ、後処理が面倒だからと、警備隊に任せて居たんだ、すまない」

《いえ、お忙しかったのですから、仕方無い事かと》


 馬車が魔獣に襲われた事で、私は警備隊へ預けられ、街の奴隷となった。

 けれど性的な奉仕をしないで済んだ、私は尊厳を守れた、けれど。


「だが」

《スズキ様の腕は2本だけ、そして御身は1つ、成すべき事を成されていただけ。感謝と尊敬、敬愛の念以外は、情愛しか御座いません》


 少なくとも、ダークエルフにはスズキ様を恨む者は居ない。

 この腐り切った世界をスズキ様だけで直ぐにも良く出来る、等と甘い見通しをした者は居ないのですから。


「償いを」

《情愛だけが欲しいです》


「出来るだけ長く、幸せで、居て欲しいと思う」

《私も、そう願っております》


 生きているだけで、存在しているだけでも十分。

 だと言うのに、どうして愚か者には。


 いえ、分からない方が良い。

 露払いをしなくてすみますから。




『僕、思ったんだけどコルセットって、コレからコレだけ大変なんだぞって覚悟させる道具でも有るのかなって』

「跡が痛々しかった」


『鈴木さん、偶にコッチを恥ずかしくさせる能力を持ってるよね?』

「あ、すまない」


『まぁ、そこも良い所なんだけどね』


 伊藤君と渡辺さんの結婚式の後、次はメリッサさんと鈴木さん、その次に遠藤君。

 それから山田さんと高橋さん、でやっと、僕と鈴木さん。


 この温泉地での新婚旅行が終わり次第、鈴木さんはダンジョン探索へ向かう。


 敢えて僕が最後になる様に配慮したんだけど。

 やっぱり魔王でも、命の危機が有るかも知れないと思うと、行かせたく無いよね。


「どうなろうとも全員で無事に帰るから、心配しないで欲しい」

『難しいな、妊娠して無かったら一緒に行くってなるよね、コレ』


「だからこそ、今なのかも知れない」


 各地に続々とダンジョンが出現してる。

 それこそ中村君が居る国にも、だから中村君には直ぐに探索に出て貰おうと思ったんだけど。


 病気への偏見が凄くて、そもそも探索の許可が下りなかった。

 汚れた血で汚して欲しくないからって。


 アレ別に性病ってワケじゃなくて、誰でも持ってるヘルペスウイルスなんだけど、噂が先行し過ぎて大病って事になっちゃってるんだよね。

 本当、運が無いよね中村君、鈴木さんの元婚約者だって知らずにハーレムに入れて病気を移されてるんだもん。


 いや、自業自得か。


『はぁ、ダメだ、誰かに人身御供になって欲しい』

「それで犠牲者が出ても、俺が後悔する」


『でも、次は無理だろうね、次の段階になれば必ず犠牲者が出る。犠牲が出なかったから簡単だろう、大した事は無いだろう、俺なら大丈夫な筈だ。無意識の自信過剰、慢心から突っ込むバカが絶対に出るって、渡辺さんも言ってたし。って考えると、やっぱり鈴木さんって凄いよね、そこを単独で生き残ってたんだもん』


「死にたく無かったのと、自信は無かった、今でもレベルが低い時の恐ろしさを覚えている」


『無理を承知で言うけど、相手の為にも敢えてギリギリまで救わないで欲しい、危ないって身をもって体験してもバカは忘れるから』

「そう優しいから悩むんだろうな」


『そうなんだよねぇ、僕は優しいから』

「すまなかった、死んで」


『今そこ謝る?』

「機会が、度胸が無かった、怒られるのは好きじゃない」


『そこかぁ、怒らないよ、僕も臆病で全く表に出さなかったんだし、怒れないよ』


「だが、次は怒るだろ」

『そらね、けど死なないよ、魔王なんだから』


「あぁ、だな」


 それに、佐藤君を殺してでも蘇生させるしね。

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