買い出し
コンコンコン
誰かが戸を叩く音が聞こえる。
――もう、朝?
眠気を追い払いつつ、布団を自分からはがす。ベッドからジャンプして降りると、一緒の部屋で寝ていた夢月を起こしに行く。
「ゆづきぃ! おはよっ」
「ん〜もうちょっと」
そう一言言うと夢月はまた布団をかぶり直す。思っていたよりも朝に弱いのかも。
「あのー。起きていらっしゃいますか?」
扉の向こうから人の声が聞こえる。
――あっ! 忘れてた!
「ごめんなさい! 今行きますっ」
駆け足でドアまでたどり着くと、ドアを押す。
そこにはサラが立っており、今日もにこやかに笑っている。髪型も服もいつものように着ている。早起きなのかもしれない。
「せっかくだし一緒に買い物行かない? 買い物の仕方くらい分かってるほうが良いでしょ?」
「あ、はい!ありがとうございます!夢月起こして、着替えてから行きますね!」
そういうと私はサラから二人分の着替えを受け取る。
「じゃあ、昨日上ってきた階段の前で待ち合わせね」
ドアを閉めて戻ると、夢月はもう起きていた。
事情を説明した後、交互に着替えて出かける支度をした。支度といっても、髪を梳いて結ぶだけだが。
「準備できたよ~」
「オッケー! じゃあ階段のほうに行こー」
扉を押して、外に出る。ちょっと遅くなってしまったので、速足で廊下を歩く。突き当りまで歩くと、サラが階段の方から向かってきていた。
「ちょっと遅いから、迎えに来ちゃいました。迷ったのかと思ってね」
さぁ、と誘われて彼女のほうに歩み寄る。階段を駆け足で降りると、そこにはサラ以外のメイドがいた。
背丈は私たちと同じぐらい。ツインテールにしている女の子とショートの女の子。かわいらしいメイド服を身にまとっている。
「はじめまして。私はアイシャ。よろしくお願いします」
ツインテールのほうがあいさつをするとそれに続いてショートカットでの子も挨拶をする。
「え、あ。私、リローゼです。よろしくお願いいたします……」
言い終わると二人はそろって一礼した。
「この子達がこれからあなたたちを見てくれるわ。仲良くしてあげてくださいね」
話がひと段落すると、私たち五人は外に向かって歩き始めた。
外に出るとまぶしい太陽が地平線からひょっこり顔を出していた。
二人の小さなメイドの髪がさっきよりも美しく見える。
アイシャは白と黒がまじりあった髪で、リローゼは銀色。
サラは買い物したものを入れる用のバスケットをみんなに手渡した。
基本的には彼女達について行き、荷物を持つだけでいいらしい。
「さぁ、まずはこの通りをまっすぐ進んで、二個目の角で左に曲がって」
路地裏のような場所を指示されたとおりに歩いていくと、曲がったところで大きな市場に出た。
人でにぎわっていて、食べ物から装飾までいろんなものが揃っていそうに見える。
お屋敷から五分ほどの場所だ。
お屋敷の徒歩十分圏内には何でもありそうに思えてくる。
「最初にあれを買いに行きましょうか」
「『あれ』とは?教えていただけますでしょうか」
サラの指示にリローゼは疑問を持ったのかそのことを聞くが、サラはにっこりと笑ったあと「その内わかるわよ」といい、歩を進める。
「ついたわよ」
その言葉を聞き前を見ると、小さな扉の前に立っていた。
窓があるが位置が高く中を覗くことはできなかった。
それに、看板がでているがなんて書いてあるのか欠片もわからない。
アイシャが戸を開けると、中には色とりどりの布が並んでいた。
「ここで布を買います。少し待っていてください」
サラは手際よく布を選ぶと会計を済ませて、帰ってきた。
サラのバスケットには桃色の布が入っている。
「次は果物。その後は、お肉かお魚でも買いに行きましょう」
歩いている途中、サラには何度か声をかけてもらっているが、アイシャ達には何一つはなそうとしていない。
――仲良くできるかなぁ?
そんなことを考えていると、夢月がリローゼに話しかける。
「ね、リローゼさんって何歳? 私は十四歳なんだけど」
「……はい。なんで年齢を聞くんですか?」
夢月は話しかけたは良いものの、思っていた回答と違って驚いてしまった。
それと同時にどんな反応をしたらいいか困ってしまった。
私は夢月が困っているのを感じ取り、何かいいことを聞けないかと考える。
そして思い浮かんだものを口にしてみた。
「何色が好き?」
「えっと、青?かな……」
「アイシャさんは?」
「ピンクです。ルビーみたいな色が好きです」
なんだか会話が続かない。リローゼは答えがふわっとしてるし、アイシャは具体的に言ってくれてるけど、会話に興味なさそう。
――何を話したらいいだろう?
「はい、つきましたよ。野菜と果物買うからね」
話しながら歩いているとあっという間に次の目的地についていた。
さっきのは、話していたっていうのに含まれるのだろうか。
売っている場所は屋台に似ているような感じの店構えだった。
「好きな果物そっちで選んで置いてね。私はこっちで野菜何買うか決めておくので」
「かしこまりました」
アイシャが返事をすると果物の方に移動した。リローゼに私たちも一緒に来て、と言われたのでついていった。
店のかごにはおいしそうなフルーツが並んでいる。見たことのない形のものもあれば、日本にあるものに似た見た目のものもあった。
「甘いのがいいですか? それとも酸っぱいのですか?」
リローゼに質問に対して、私はとっさにこたえる。
「えっと、甘いけどさっぱり? みたいなのが良いな」
「かしこまりました。では、これとこれ」
夢月もその様子見ていたが、一つ気なったことがあったようでアイシャに話しかけた。
「この果物はどうかな? おいしいと思うんだけど」
夢月の手には、みかんに似ているものがのっていた。アイシャはそれを見て少し悩んだ後、答えた。
「それは、ごく普通の果物。宿泊されている方々に出したら、自分なことを侮辱しているのかと思われる方もいらっしゃると存じ上げます。なので、今回は買いませんね」
「あ、そっか。あとさっきから思ってたんだけど、同じ年だし敬語使わなくていいよ?」
「確かにね、その方が親近感もあるしいいんじゃない?」
私と夢月の提案に二人は少し話し合って、敬語を使わないようにすると答えた。
それから、選んだ果物を購入し始めた。
「これ五個とこれ二個とこれ三個でお願いします。いくらですか?」
お店にいるおばあさんは紙袋に頼まれたものを分けながら入れながらいくらになるか計算している。
「えーっとねぇ、三百でいいわよ」
そう言われると、アイシャは自分のバスケットから数枚の硬貨を手渡す。おばあさんもそれを受け取り、紙袋を二つ渡した。
「いつもありがとうね。これおつり。あと、おまけ」
おつりを受け取るアイシャの横では、リローゼがバスケットに紙袋を丁寧に入れていた。
おばあさんはその様子を見守りながら座っていた椅子から立ち上がり、店頭まで出てきた。
そして、夢月がほしがっていたみかんっぽいフルーツを手に取りアイシャに渡した。
「ありがとう、ございます」
「ふふっいいのよ」
アイシャは受け取り、自分のバスケットに押し込む。
そして、店を去り、隣の店にいたサラの方に行く。
その途中で、夢月のほうに振り返り声をかけた。
「良かったですね。欲しかったものが貰えましたよ」
夢月のほうにポイっと投げた。なんか、扱いがひどい気がするのは私だけ?
夢月はみかんをちゃんと受け取りからの自分のバスケットに入れる。
サラはもう買い物を済ませていた。
店の邪魔にならない見えやすい場所で待っていたらしい。
「よかったわ。ちゃんと買えたようね。ヒマリちゃん、ユヅキちゃん、これ入れてくれる?」
野菜が私たちのバスケットに入れられる。私たちは思っていたよりも長く果物選びをしていたらしく、サラはもう魚や肉を買っていた。
そうすると、もう帰るだけだ。
「帰ったら朝食の用意ができるまでヒマリちゃんたちはまって居てね。アイシャが呼びに行くから」
十分もかからないうちに、屋敷に戻ってきた。
帰りは、行きよりも会話が弾んだ。
食堂につき、朝食の準備を待つ。
――どんな料理なのか楽しみだ