豪邸
私たちは早速お屋敷に案内された。
お屋敷は今いる場所から近かったため、5分ほどで着いた。歩いて行った道は、異世界観あふれる場所だった。街灯は魔法の光っぽいものだった。
歩いていくと、私たちの目の前には大きなお屋敷が広がっている。正面に大きくきれいな建物が構えられている。
「ひ、広いっ!」
大きいのは想像していたが、それを遥かに超えた大きさだった。
「私たちの学校より全然大きい……」
夢月のそんな呟きが聞こえる。
「これでも私たちの中学校は大きい方だと思ってたのに……」
改めて貴公子は位の高い人なんだと彼女たちは実感する。お庭がチラリと見えるがとてもきれいにしている。センスがいいという感じ。
私たちはソワソワしながらお屋敷の中に入る。応接の間を通り抜け少し歩いたところにある大きめの戸を開ける。これからのことを話し合うために会議室へと入ったのだ。
私たちは、円状のテーブルに貴公子、男性の側近、夢月、私、女性の側近と言う順番で椅子に座る。
最初に口を開いたのは貴公子だった。
「最初に自己紹介でもしてもらおうかな。今後の話はそれからにしよう。まずは、二人からどうぞ」
先に私たちから自己紹介をするらしい。私は緊張しながらも口を開いた。
「ええと、私の名前は如月 妃葵です。14歳。学生です。で、この私の隣にいるのが……」
「佐藤 夢月です。ほとんど妃葵と一緒に行動してます。ここにいるのは、いつの間にかここに転移? してたからです」
「違う国から来たってことかしら?」
側近の女性が私に質問する。前例がないように思える。
「……違う国から来たと言うより、違う世界から来たと言った方が正しいと思います。私が住む世界には能力なんて物、存在しなかったので」
「うーん、不思議なことも起こるんですね。でも、心配しなくても大丈夫ですよ。少しずつ慣れていけばいいですから」
女性は穏やかな表情と口調で言う。よく見てみると、側近の女性はメイド服だった。赤くサラサラな髪と糸目ような笑っている顔が特徴的だ。
だが、その優しい言葉に私の気持ちは少しだけ軽くなった。
「ありがとうございます。ええと……」
――なんて呼べばいいのかな……?
私は名前を知らないので戸惑ってしまう。
「サラメリナです。夢月さんの右側にいるレイ様とアベリス様の護衛をしていてメイド長もやっています。気軽にサラと呼んでください」
この二人が貴公子の護衛をしているってことかな。
レイと呼ばれた男性はずっと喋らず笑顔をその顔に移しつづけているが貴公子と違ってその裏に何かありそうでちょっと怖い。
けどサラは護衛をするってことは相当強いんだろうな。
貴公子はほかのメイドから出された紅茶を見つめながら私と夢月に言う。
「レイはちょっと近づきにくそうだけど、根はいいやつだから仲良くしてあげてね。レイも自己紹介すれば?」
「じゃあ、私はレイです。貴公子に仕えています。この屋敷では楽にしていってください」
レイは整った顔をしていて黒っぽい服を着ている。アクセントのように服に入った赤色が素敵だ。センスがいいのかも。身長も高くすらりとしている。若く見えるが真面目そうにも見える。
「「は、はい」」
私は一瞬心の中を読まれたなと思った。夢月も同じだろう。
貴公子恐るべし……。
仕切り直し、レイが息を吸う。そして、口を開く。
「さて、自己紹介も一通り終わったところだしこの君たちが転移してきた国のことについて説明しよう。この国はウラール王国と言ってこの世界の中心となる国だよ」
「アベリス様はその中でも王の次ぐらいには位の高い貴族なんだ。アベリスの能力は、土地を治めるのに向いている」
レイが嬉しそうに言う。本人は顔に出ていることに気づいていなさそうだ。ほんの少し口角が上がっている。その様子からは、貴公子をどれだけリスペクトし、信頼しているかが分かる。そして、誰よりも貴公子が彼の中で一番大きい存在なんだということも。
確かに、貴公子が言うようにいい人なのかもしれない。ちょっとコミュ障なだけかも。
「そうだったんですね。あの、ずっと気になってたんですけど能力ってどう言う物なんですか?」
夢月が思い切って聞く。
「その話はまた明日にしよう。今日は君たちも疲れているだろうしね」
部屋にある中庭を映す大きな窓をみると、すんだ夜空の中に月が輝いている。
――あぁ、この世界でも月ってまぶしいんだ。
「今日は部屋でゆっくり過ごすといい。晩餐は後で部屋に持って行かせるよ。おやすみ」
二人で話す時間をくれたのだろう。貴公子なりの優しさだ。
「ありがとうございます。しつれいします」
私たちはそういうとサラに案内され、部屋に入った。
部屋は私の部屋4個分は絶対あるなと言う位大きく、綺麗だった。ベッドはふかふかで暖かそうだ。なんか、ホテルみたい。
お風呂も部屋についており、着替えも用意されている。机やいすもつかいやすそう。
私たちが早速お風呂に入ってみた。お湯を沸かして入る。今までたまっていた疲労がぬけていくようだ。
お風呂から出てきた頃には、晩餐も用意されていて、私たちの体調を考えてスープや煮物など体に優しいメニューだった。でも、その味は一流で日本人の口には少々合わないがとてもおいしかった。ここに、ご飯があれば……と私は考えてしまった。
どこまでも至れり尽くせりで申し訳ない。
そう思いながら私たちは今後のことについて話す。
「私たちどうなっちゃうんだろ。貴公子さんが拾ってくれたのはいいけどもとの世界に帰れる訳じゃないし」
夢月が滅多に見せない不安な表情で言う。
「……まあ、そうだよね。でもとりあえずはこの世界で生きていくために全力を尽くさないと。何もしないで死ぬのは嫌って夢月も言ってたでしょ?」
正直なところ私も今後のことについては不安なことだらけで今にも押しつぶされそうだ。
でも、死んでしまうのは嫌だしもとの世界に戻れないのも嫌だから全力を尽くすしかない。
「妃葵ってたまにいいこと言うよね。普段はふっつーの女子中学生なのに」
「一言余計じゃない?」
せっかくいい感じだったのに最後の一言で台無しだ。でもこれが、私の親友の夢月だ。いつも本心は隠さず本当のことを言ってくれて、聞き上手。わたしは、こんなにいい人に出会えて人生良かったと思っている。
二人は少し笑いあう。その調子で妃葵は口を走らせる。
「ねぇ、思ってたんだけど貴公子さんもレイさんもサラさんもすっごく美人じゃない?髪の毛サラサラだし、センスも抜群。なんといっても、性格がいい」
「わかる。アイドルみたい。もうちょっと年の差なかったらキュンって来てたかも!」
なんか感覚が推しになってきてる。あ、でもこれ悪役令嬢系だったら私、貴公子と恋できるかも!? そんなことないか。
「ふわぁ、私眠くなっちゃった」
夢月は転がるようにベッドへと入った。
私もいろんなことがあって眠かったので寝ることにする。思い返すととてつもない一日だった。
明日のことは明日の私に任せたらいいしね。
布団って最高気持ちい。寝る前の言葉を二人は交わす。
「おやすみ〜、妃葵」
「おやすみ、夢月」
私はそういうと疲労が溜まっていたのかすぐに眠りに落ちた。深く、深くと。