はじまりの風
「あ~疲れた」
日が欠け始めたところ、ある中学校の校門の前に立つ少女が二人。如月 妃葵と佐藤 夢月である。部活終わりで疲れた背には重いリュックが乗っている。
妃葵と夢月今日起こった些細な出来事話しながら歩を進める。期末テスト明けでもありながら二人は晴れ晴れとした気持ちでいた。
妃葵は明るく妹的な性格で、夢月はリーダーシップの頼れる存在であった。
二人が住宅街に入り始めた頃、急に視界いっぱいに輝きが強くなる。光は妃葵と夢月を包み込む。
「えっ?」
彼女たちがこの状況をすべて理解できぬままに。
そう、彼女達は異世界にとんでいたのである。
一分前まで見えていた夕焼けの空は、青く澄んだきれいな空に変わっていた。あたりに広がる景色は、青々と果てしなく広がる草原と、間近に見える門のようなものであった。
「なに?」
「ここはどこ?」
二人にとっては異空間であるため、驚くのも当然であるが。
人が門の中に入っていくのを見て妃葵と夢月は話し合うのであった。
「ここはどこ?」
最初に口を開いたのは夢月であった。
「うーん。私が思うにこのごろはやってる感じの異世界? 的なのじゃない? 転移か召喚か悪役令嬢じゃない?」
「ま、どれでもいいけど、私にとってこの空間は不安と楽しみな気持ち半々って感じ。妃葵はどう?」
「私は、ワクワクのほうが多いけど。とりあえず、飢え死にはいやかな」
――これからどうしよう。
「門! 門があるってことは、中に人が住んでいる可能性が高い。その人たちにここはどういう所か教えてもらうっていうのはどう?」
「夢月かしこっ! うん、そうしよっ。レッツゴー!」
門に向かいながら考える二人。明るい未来を感じながら。
門に到着して声をかけられそうな人に声をかける。
「あのーすみません。ここってどこですか?」
「子供は家に帰りなさい。何の真似か知らないがそういうことを言っているとまわりにだーれもいなくなっちまうよ」
誰に聞いても相手にされず、一刻一刻と時は過ぎていくのであった。どんなに明るい表情で話しかけても、旅人だと偽っても。
通り過ぎる人たちは華やかな髪の色。服も知っているものとは違う感じだった。言葉は通じるものの子供ということで誰にも相手にされない、そんな不安な気持ちが彼女たちを襲っていた。
日もかけ始め今日はここまでだと思い始めた頃。
「もう今日は終わりかな?」
夢月が疲れた様子で言う。
「私お腹すいたー。お金なかったらご飯も買えないよね夢月?」
「そうだと思う。とりあえず門番にここどこか聞いてみよっか」
夢月は門番のもとへ行きここはどこかを聞いている。その間に私はまわりを誰かいないかと確認するが、門には誰もいなくなっていた。いるのは、私と夢月と門番の兵士と思われる男だけだった。
戻ってきた夢月の手には一枚のコインがのっていた。
どうやら門番から同情でくれたらしい。
「これもらったけど、どのくらいの価値あるかあんまり分からないな」
「そうだよね、門番の人はここの場所について何か言ってた?」
「これといった情報はないけこの場所がこの世界の中で一番大きい国、ウラール国と言うことだけは分かったよ」
国名だけじゃ情報は少なくどう行動をとったらいいか分からない。遠くから日の入りの合図のような鐘の音が聞こえてくる。食べる物も住むところも無くなり、今までの生活が幸せだったことを思い知らされる。
下を向き言葉に詰まる二人。
「どうしたんだい?」
「ひゃっ」
少し軽めで、深みがある声が耳に聞こえる。前を見るとその声の主であろう白髪の青年と側近らしき人が二人、この場にいる中で一番背が高く黒髪の男性とおっとりした感じの女性がいた。三人とも高貴な雰囲気を纏っている。
「なんか困ってるの?子供がどうしちゃったのかな?」
青年が私たちに問いかける。
私たちが戸惑う中青年の側近らしき女性が彼に耳打ちをした。
その青年は側近らしき女性の言葉を聞き、少し驚いている様子。そして、私と夢月もなぜ声をかけられたか驚いているのであった。
驚きのあまり沈黙が続いている中、先に言葉を発したのは青年の方だった。
「君たち、もしかして能力者?」
その言葉に再び私と夢月は驚く。いきなりそんなことを言われたらこうなるのも仕方がない。
初めに口を開いたのは妃葵だった。
「あの、あなたたちは誰なんですか?あと、能力者って一体……」
黒髪の側近が代わりのように言う。
「このお方は若くにして民の皆様に愛されておられるアベリス様であります。皆様には貴公子様、そう呼ばれております」
「……そうですか。それにしてもなんで私、私たちに声をかけたんですか?」
「言ったではありませんか。あなた方が能力者、だと」
青年、いや貴公子は一歩私たちに近寄り言葉を紡ぐ。
「良かったらぼくの住んでいる場所においで。行きたくないのであれば来なくても良い。でもよく考えたほうが良いよ。この世の中、物騒だし夜は冷える」
自分に他人へ干渉は許されていないような表現の仕方。貴公子とまで呼ばれる立派な人がそんな言い方をするのに二人は違和感を覚えてしまった。それよりもというように、夢月が口を開く。
「あの人に着いて行っていいと、思う?」
「いい、と思う。だって、わたしたちに意見を求めてきたし。本当に悪い人ならいい感じに言いくるめて連れて行くと思う」
考えた末、私たちは貴公子について行くことにした。
「お気に召すかわかりませんが、私たちが雇わせて頂いております、お屋敷へ招待させていただきますね」
「なぜ私たちにそこまで……」
「それはね、君たちが希少な能力者だからさ」
夜の冷たい風が私の頬を撫でる。
――新しいことが起こるのを告げるように