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冷凍秋桜

作者: 綸子

なろうラジオ大賞5参加作品です。

使用キーワードは「コスモス」。


「お母さん、ただいま。」




秋穂は、久々に実家の玄関に入りながら、中にいるであろう母に声をかけた。




「あら、秋穂ったら本当に来たの?仕事は?ゆうくんは大丈夫なの?」




母は、秋穂を認めるや矢継ぎ早に質問を繰り出してきた。



仕事は繁忙期を過ぎたし、息子の裕也は部活の遠征だとかで泊りがけで出掛けた。


今まで帰省できない理由として再三自分が母に伝えてきた事だが、帰らなかった本当の理由はどちらでもない。秋穂の気持ちの問題だった。




2年前、父が亡くなった。




秋穂は所謂パパっ子で、父に進行性の病気が見つかった時も、闘病の果に亡くなった時も、可能な限り父に会いに来たほどだったが、父が亡くなった後の母があまりに気丈に、というより異常なほど「普通」に立ち働いているのを見て、



お母さんは、お父さんが死んじゃっても何も感じてないんじゃないか




という気持ちが湧き上がってしまったのだ。



別れの悲しみや喪失感、もっとこうしていたらという後悔を母と共有したかった秋穂には、葬儀の手配や諸々の手続きに奔走している母が、なんだか自分と別の生き物のように見えてしまい、結果、自然と実家から足が遠のいた。



「大丈夫だから帰ってきたの。それよりお茶にしよ。お父さんにお供えもしたいし。」



詳細は省いて返事をしながら、居間から続きの台所へ移動した秋穂は、見慣れた部屋の変化にすぐに気付いた。


「…お母さん、こんな大きな冷蔵庫を買ったの?」



「ああ、それ冷凍庫なの。最近はなんでも冷凍しておくのよ。安心でしょう?」


なんでもない事のように、居間から母が答える。



そうなの、と返事をしたものの、一人暮らしには不釣合いなその冷凍庫が気になった秋穂は、お茶を淹れる手を止めて冷凍庫を開けた。



中はきちんと整頓されていた。脱気され、冷凍した日付と思しき数字が書き込まれ並んでいるジップロックの袋たち。


ただ、中身は食べ物だけではなかった。


2023・秋穂の秋桜


これは庭の秋桜だろうか。父が、「秋穂が好きだから」と植えて以降毎年咲いていたはずだ。



2021・おとうさんの時計


父愛用の腕時計だ。

今は動いていない。



2022・ピーチャン




…去年まで飼っていた、文鳥だ。


見ていられなくなり、秋穂は扉を閉めた。


冷凍庫には、母が1人で過ごしてきた時間が入っていた。



(話をしよう、出来るだけ沢山。)


お茶を淹れながら、秋穂はそう決めた。


母の凍った時間を進める為に。


そこに自分の時間を重ねる為に。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

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