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入院生活!

第二話目。


 うんとこどっこいしょ…という程でもないけど、わりと苦労しつつ足を動かす。

 やろうとしてる事が半拍ほど遅れてる感があるから歩みのリズムが狂う。地味に心にクるしんどさ。

 ともかく私は絶賛入院中なのでした。


 目覚めるとあの時の一件は終わってた。

 そう、終わり。ホントそーとしか言えない。

 何しろこっちは気ぃ失ってた訳だし。周囲のてんやわんやはその間にすぽーんと終わってて、いわゆる蚊帳の外の話ってやつになってる。

 覚醒直後でアレだもん。いやな…事件だったね……等と軽いジョークも言えやしない。泣くわ喚くわのたうつわで正に完璧かつ徹底的な黒歴史だよ。

 でもまぁ、普通は意識が戻って目ぇ空けた時に見知らぬヘンな男が圧し掛かかっとったら、そりゃ悶絶驚愕大絶叫しますわ。

 知らない天井云々以前に、知らん男のドアップ顔。恐怖ショックシーンだよ。いやマジに。ぶっちゃけ乙女の尊厳が決壊しててもしょーがねぇっスよ? 大丈夫だったと思うけどさ。状況考えたらカテーテル入ってたっぽいからハッキリせんけど。


 ――まーなんだ。

 衝撃と、表現できない超強烈な嫌悪感によるショックが強過ぎて、そん時の事はそれ以外の記憶ねーというのがホントのトコ。いやこの場合、それはそれで大助かりだったのでは? 超怖かったし。

 何しろショックを理解する云々以前の問題の衝撃を心身が受けてた訳で……錯乱したままでなくて幸いだったと後で言われたよ。この病院で。

 無論、転院したのさ。こんな担当医師付ける病院なんぞ信用できる訳ねーだろっ!! ってヤツ。同感だし。信じられるか? 件の男って担当医だったんだぜ?

 ショックが大きかったか体力の無さか、こっちはさっさと力尽きてスヤスヤだったんで、意識飛ばしてからどれだけ時間経ってたかは不明。気が付くと別の病院だったくらい。

 次の病室はお世辞にも真新しいとは言えないし、何か壁も色あせてたけど清潔そうないい部屋でした。

 まぁ、幸いにも(生娘的に)助かった(らしい)から丸っとヨシにしよう。うん。気にしたら負けなんだよ。


 転院先(ここ)女医さん(センセー)によると、あの後は病院側とかトンデモ大騒動だったらしい。ザマァ無いわとせせら笑ってた。何か恨みでもあるんスか? 

 意識を失ってたのは不幸中の幸いなのかもしれない。おじさん、相当な権幕だったらしいし。

 私ゃおじさんの腕の中でスヤスヤだったそーです。逆に言えばそれだけおじさんが頼もしかったという事なんだろう。

 ……うん。確かに超物凄く頼もしかった記憶だけあるな。


 あ、おじさんは母ちゃんの遠い親戚らしい。

 んでさ、何と自分は知らない内に…というか一緒に事故に巻き込まれて両親を亡くしてたとの事。何てこったい。顔も知らん両親(・・・・・・・)だけど。

 それで他に身寄りのない不憫な自分を引き取ってくれてたのがおじさんだそうな。ありがたやありがたや。


 で、思い出したくもないあの変態野郎は外面がそこそこ良かったけど、驚いた事に裏でそーとーだったらしい。

 何でそんな犯罪者を放置してたんだと、病院側とおじさんサイド――おじさんの友達…というか、弟分みたいな…舎弟っぽい? そんな方たち――とでもめるにもめてハナシアイしたそーな。

 くわしい事はさっぱりだけど、未だに謝罪を贈ろうと転院先を探してあちこちの病院に声を駆け回ってるとの事。いやぁ大変だねぇとセンセーは尚も嗤う。

 病院業界の裏というやつか? 色んな事情(コト)あったんだろうなぁ……詳しく聞く気ないけど。つか、怖くて仕方なかったから、私ゃ俯いて重湯啜ってたよ。

 等と他人事のよーに言ってるけど、自分には困った事にすんごい後遺症が残ってたんだな、コレが。


 問題その1。もうお判りだろうけど、自分、ものごっつい男性恐怖症になってる。

 ぶっちゃけ重度のアレルギーのレベル。


 何しろおじさん以外の<性別:男>が見えると体が硬直する。頭が凍りつきそうなほど血圧が下がる。思考が吹っ飛び勝手に悲鳴が出る。壁越しでも二メートル以内はキツイ、と最悪な状態。

 おじさんだけ平気というのは、変態医師から助けてもらった時に強烈な安心感と信頼が無意識下に植え付けられたから…なんじゃないかな、とカウセリングしてくれてる先生(体のリハとは別の女性医師(センセー))が仰ってた。

 ただここまで強烈に恐怖症になった理由がさっぱり解らんのがね……

 まぁ、だからこそ平和でいられるのかもしれないけど。


 「ぐぬ゛ぬ゛……」

 「ほら、後三歩」


 しかーし、マンガレベルに重度の男性恐怖症と言う事で男性職員に近寄れない。つまり、女の人だけしか受け付けない訳で、しかも担当は女医のみという女尽くしじゃないとアカンというね……そんな都合のいい場所あんのか? って話になる。


 「つ、着いたぁ~」

 「はいご苦労様」


 これがまたあったんだよなぁ……

 ここってば女医さん一人だけの個人病院なんだ。病室は3つ以下だからクリニックか? まぁ、どうでもいいけど。因みにクリニックはお医者さんでなくとも開ける。これマメな?

 ともかく、今その病院の短い廊下を行ったり来たりしてリハビリしている訳さ。


 リハが必要なほどの怪我だったのかって? イイ着眼点だ。

 精密検査込みの入院三日。たった三日でこの様なのはおかしくない? いやおかしいんだけどね。

 レントゲンもCTとかも掛けられてるけど異常なし。外出血のみで内部損傷話なんだと。

 だけど、何か動かし難いし動きが鈍い。そうなんだよ筋力が下がってるとかじゃなく、動かし辛い(・・・・・)んだ。

 お陰で転院してからこの数日間は頭の傷の具合見つつリハが続く毎日。特に歩きがしんどい。

 理由は何となくわかるけどね……


 「あきら」

 「……え? あ、おじさん」


 唐突に声を掛けられたけど、一瞬誰? となって返事が遅れた。

 おじさんだ。見舞いに来てくれらしい。


 ここで問題その2。記憶が無い。

 顔も知らん両親と言うのは比喩的ではなく、マジの話。まるっきり無いのな。

 自分の名前すら覚えてない。だから呼ばれた時に反応が遅れてしまう。あ、自分か、て感じに。おじちゃん、申し訳ない。

 すまなそうな顔をしていたのか、「気にするな」って撫でてくれた。優しさにときめくでコレ。


 「がんばってるな」

 「いやぁ、まだまだや…じゃない、まだまだです」


 慌てて標準語に直しても時既にお寿司。いや遅し。取り繕う暇もなくおじさんに抱きかかえられて病室に戻る私。片手にひょいと抱きかかえられるのはちょっと子供っぽいけど、コレはコレでええわ。漢女…いや乙女心にキュンするぜ。

 ベッドはちょい高めに感じるけど、感覚とのずれでそう感じるだけっポイ。何せ手を伸ばしても距離感が違うんだもん。コップに手ぇ伸ばす時とか微妙に届かん時があったし。

 だから歩くのも手足の尺間違えてる気がするんだよなぁ。


 ……という訳で、問題その3。

 なんか前世の記憶があるっぽい。

 っぽい、というのは個人データは無いから。

 誰彼だった、とかのデータが無い。思い込みの嘘記憶とか、自己防御による形成された人格とか言われればそこまでなんだけど、意識が戻る前の…ホント直前の夢。あの黒い球体。アレが前のわたし(・・・・・)だった気がするんだ。

 あの時、音を立てて欠けたその部分(パーツ)。それが何だったかは分かんない。分からんのだけど、多分コレなんじゃないかなーと思い当たるものがある。

 勿論、()のカン。この自分になったからこそ感触とでも言ったらいいかな?

 多分、欠けたのはこのわたし――円空(まるぞら)あきら()()()パーソナルデータだ。

 平たく言えば魂の欠片か。

 それが欠けた際に自分は欠けた部分を埋めようと狩るか如く吸い込まれた、という感があるんだ。

 尤も確信はない。説得力何かあるわきゃない。何しろ今現在進行形で絶賛記憶喪失中な訳で、『自分、女の子でヤンス』っていう、ぼんやりとした自覚しかない。


 説明としては変だけど、欠けてた球と融合してわたし(・・・)()になってしまった。そんな感じなんだ。


 ただこれだけ落ち着いているのはそれなりの精神年齢だったか、はたまた老成していた可能性が高い。それでも男が近寄るとパニクったダチョウみたくなるけど。

 目下の問題はとり憑いたか乗り移ったか入れ替わったか知らんけど、肉体の感覚と申しますか、手足を動かす感覚のズレ。それを修正するんで四苦八苦してるんですわ。

 歩く時も何かコンパスが違うというか、一歩の歩幅と自分の感覚がズレると言うかそんな感じに。

 やっぱ前世(?)の体格のズレという説が濃厚な模様。飽く迄も感覚的には、だけど。

 かと言って誰かと相談する訳にもいかんから自己判断オンリーにする他ない。

 だってさぁ――


 「脳内損傷も無く、脊髄感覚も異常なし。

  歩行時の平衡感覚や手を使った距離感が狂ってるだけね。

  多分、強い衝撃によるものだと思うけど」


 こー仰ってくださってるお医者様にそんなオカルティックな与太話なんぞ言えんて。別の病院行かされるわ。あ、そっち系(精神科医)も既に診てもらっとるんだった。トホホのホー


 「何か足りないのなら言ってくれ。

  買いに行くし、通販に頼んでも最近ならすぐだ」

 「いえ、ホンま…じゃない、ホントに(多分)大丈夫ですから」


 そんな私にも優しく気遣ってくださいおじさん。マジ神か?

 あ゛あ゛、だけどもありがたくはあるんだけどその分、その心遣いそのものがイタイ!! きちんと説明できん自分のアレなトコと、申し訳なさがごっちゃで更に気持ちはカオス。

 中身がこんなポンコツでなければもっときちんと対応できただろーに。


 既に下着やらは先生が用意してくれている。知識的にはカップサイズ云々は知ってるけど、自分のサイズは知らんのよねー 肉なさ過ぎてペターンやし。

 そのくせケツはあんのよな。安産型かよ。男性恐怖症やいうのに宝の持ち腐れやんけ。

 おじさんは服とか靴とかを買って来てくれている。いやもう、いいっスわと言う程。入院中にファッションショーでもしろと?

 靴、はよ履いて歩き回りたい。カッケーの買ってくれたんだよ。流石にリハ中は学校の上履きみたいなの履いてるけど、それは致し方なし。アレ、カッケーけど重いし。先生は呆れてたけど…何でやっ!? カッケーやんけ。

 まぁ、精神(ココロ)の方は今のところどーしよーもないから横に置いといて、身体云々は時間かけて自分なりに調節してゆくつもりだ。大人しく横になろう。つっても背もたれ起してるから座ってるよーなもんだけど。

 今日のお見舞い品は……おぉプリン。素晴らしい。大正義カスタードだ。直良し。

 実はお見舞い持って来てくれる時はおじさんも一緒に食べてくれる。甘党…というのではなく両党らしい。うまけりゃ何でも良しか。流石にいい男は違うね。

 良いトコのプリンだからかバニラが香るぜ。ひゃっはー!

 内心のはしゃぎを知ってか知らずか二人の眼差しが何か生暖かい気がしないでもないが、キニシナイ。

 美味さは正義だと眼前のスイーツに集中する。

 先生はおじさんが差し出すプリンを「後でいただくわ」と受け取り、経過報告をしてくれた。


 「歩きはまだぎこちないけど確実に改善されていってるわ。

  これよりペース悪かったらしっかりとした施設での検査も考えてたけど……」


 セーフ! 圧倒的セーフ!!

 おじさんが安堵してくれてるのが分かるけど、下手すると私の方が胸を撫で下ろしている。今は胸ペっターンやし撫でやすいなHAHAHA!

 じゃなくて、医療費の負担やらこれ以上迷惑かけるのも勘弁してほしかったからとてつもなく助かるのよ。

 知ってるか? MRIとCT両方の検査やったら高いんだぞ? ただでさえ身寄りの身で、尚且つ対人問題がシャレにならんくらい酷い。入転院だけでもそーとだろーのに、これだけ迷惑人を優しく面倒見てくれとんのに、更に再検査とかしてこれ以上負担強いるんわシャレにならん。

 となると、後はこの身体に馴染むだけだ。何だかなぁ……

 手を握ったり開いたりしてみる。普通にできる。実はこの病院に来て直ぐの時はワンアクション遅れてた。アレだ。マジックハンドとか動かす時みたく握ってちょい遅れて動いたって感じに。

 今はもう、普通にできる。距離感がまだ多少バグってるけど、徐々に修正されてきてるっポイ。何かアプデ待ちみたいでヤな感じだけど。

 多分、じきに歩けるように走れるようになる。普通に活動できるようになる。

 今は色んなショックで不順らしい生理も普通に来る……よね?

 するとこの私はもう以前の自分とは違うものになってしまう――成り果てる(・・・・・)んだろう。


 体力を使ってしまった所為か、プリンを食べ終えた辺りでうとうとしてしまった。

 そんな私を見、おじさんは優しく横たえらせて布団を掛けてくれる。


 私となってしまった元のわたし。

 こう(・・)なった基点は件の事故とやらかもしれないけど、ひょっとしたら生まれる前から混ざっていたのかもしれない。だけどそれを知る手立てなんぞある訳もない。

 このもやもやとした感触はずっと心に残るんだろな。

 そんな遣る瀬無さを感じつつ私は瞼を落とした。


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