2話
森を抜け、街道に出たルカは1番近くの村「トナル」へ向けて足を進めた。
トナルはエスタート王国の南に位置する農牧が盛んな村である。この村の牧場主が売るミルクがルカの好物である。
すこし浮き足立っていたのか、予定より早くトナルに着いたようだ。ルカは村の入口にいる守衛に声をかける。
「こんにちは、ダクさん
お仕事お疲れ様です!」
「おう、狩人の坊主じゃねぇか
売り出しか?」
「はい、それと買い出しも兼ねて
行商のキャラバンは来てますか?」
「丁度さっき入ってったぜ」
「ありがとう!」
そんな会話をして村の中へと進む。
目的の行商キャラバンが既に来ているという情報を入手した、ルカは目的地である市場へおもむく。市場といっても大きなものではなく、近隣の村や首都から来た商人たちが多く立ち寄る交易場所といったふうである。
市場に着くや否や、手荷物を軽くするべく、先程市場に着いたばかりであろう行商の元へと向かう。
「こんにちは、モンスター素材の買取をお願い出来ますか?」
「いらっしゃい
素材の買取だね、物を見せて貰ってもいいかね?」
ルカは背負っていたバッグから素材を詰めた袋を商人に渡す。その袋を受け取った商人は中身を取り出し、ひとつひとつ吟味する。
「ふむ、ウルフィ素材か…
質と数も申し分ないね」
商人は吟味が終わったらしく顔をあげながら
「毛皮はとても綺麗だったから5つで55ソル
牙は傷物もあったから全部で37ソル」
「爪は?」
「売り物にならない物もあったけど、ウルフィの爪にしては綺麗なやつがいくつかあったから全部で24ソル」
「合計が116ソルか…
じゃあそれで」
「まいど」
素材の入った袋を商人に預けたまま、ソル硬貨の入った袋を受け取るルカ。ソル硬貨は万国共通の硬貨で、果物や野菜が1個2ソルほどで売られている。
素材を売った足で頼まれた買い出しを済ませるべく再び市場を歩き出す。
買い出しも済ませ、あとは帰るだけとなった。
今は昼食時を少し過ぎたあたり。空腹の胃を満たすため、屋台でも回るかとルカは考えていた。
しかし突如として市の通りが騒がしくなる。
疑問に思い、ルカは声のする方へ向かう。
そこでは見慣れない1組の男女が言い争っていた。
しかも道のど真ん中で。
「いい加減にして!
私は用事があるって言ってるでしょ!」
「お茶に誘ってるだけじゃ〜ん、そんなに時間取んないって!
ちょっとぐらい付き合ってよ〜」
どうやらタチの悪いナンパとそれに絡まれている若い女性。女性の方はまだ少女といっても間違いはないような顔立ちをしている。
どうやら周りは面倒事に巻き込まれたくないのか、遠巻きに見ながらあれこれとざわついているだけのようだ。
少しずつ行動がエスカレートしつつある男に、女が痺れを切らして行動を起こそうとした
「あのさ、言い争ってるところわるいんだけど」
が、それより早く二人の間に割り込むように乱入してきたルカの行動により、その場に一時の静寂が訪れた。
しかしそれはナンパ男の騒がしい声に再び喧騒が戻る。
「なんだお前!部外者は引っ込んでろ、俺はこのねーちゃんとお話してんだよ!」
「私はしたくないって言ってるでしょ!」
「別にどこで何しようが構わない、人に迷惑さえかけなきゃナンパだろうが喧嘩だろうが好きにすればいい。だけどここは道のド真ん中で、通行人も少なくない。正直言ってしまえば、アンタら邪魔。」
「な、なんだとこのガキぃ!」
最初は疑念を晴らすつもりで近づいたルカだったが、道の真ん中で言い争いをされては通行の邪魔になる。それはルカの望んでいることではなかった、故に口を出したのだ。
どうやら沸点が低かった男はルカの言葉に激怒した様子で、ルカを殴ろうと拳を振り上げ、駆け出す。
それこそがルカの狙いであった。
ルカは、その場でしゃがみ、片足を伸ばし、地面についた手を軸に体を回転させる。すると勢いに任せた男は拳を空振らせた拍子にルカの足に躓き、簡単に転ぶ。しっかりとしたものでは全く無いが簡易的な足払いのようなものである。
ルカはすぐさま転んだ男の背に馬乗りになり、手を背中に持っていき拘束する。
ついでと言わんばかりにその手を捻ると、男は痛みに悲鳴をあげる。
ルカは軽く脅すように、
「これ以上するようなら衛兵呼ぶよ」
「わかった!俺が悪かったから離してくれ!」
「そう思うなら最初からするなよ…」
ルカは痛い痛いと叫ぶ男に呆れながらも背から降り、拘束を解く。
拘束が解かれ立ち上がった男はよろけながらもルカを睨みつつ「覚えてろよ!」などと捨て台詞を吐きながら走り去る。
その背中を興味無さげに見送ったルカは振り返り、先程まで絡まれていた女性へと声をかける。
「あんたも災難だったな、あんなのに絡まれてさ。」
「えぇ、そうね。
助けてくれてありがとう。
それと、騒いでしまってごめんなさい。」
「別に礼を言われる程でもないよ、それじゃあ今後気をつけて。」
そう無難な対応をしつつその場を後にする
「待って。」
つもりだった。
「なに?」
「それじゃあこっちの気が収まらないわ、ちゃんとお礼をさせて頂戴。」
「俺、これから帰るんだけど…」
「まだ日は高いわよ?」
「俺この村に住んでないから」
「そう、でもそこの屋台の軽食を奢るぐらいなら大丈夫でしょ?」
「………まあ、それくらいなら」
引き下がる気のない彼女に、ルカは半ば諦めた様子で了承する。
それに今のルカは空腹だ、屋台の飯にありつけると言うなら、その話に乗っても損は無いだろう。
「ありがとう、私はルビア。
この村には仕事で来てるの、暫く滞在する予定よ。」
「ルカ。
見ない顔だなとは思ってたけど、他所の人か。」
「ええ、環境調査の仕事よ。
軽食を買ってくるから待っててくれるかしら。」
そう言って彼女、ルビアは軽食を売っている屋台へ向かう。
ため息をつきながらそれを見送ったルカは近場に座れる場所を探し、そこへ移動する。
しばらくすると両手に軽食を持ったルビアがやってくる。
「はい、ミートサンドよ。」
「どうも。」
手渡されたのはミートサンド、この村のパン屋が昼頃に屋台を出して売っているものだ。
レタスとトマト、そして濃厚なソースの染みたひき肉をたっぷり使い、それらをパンでサンドしたものである。
受け取ったミートサンドを食べながらルカはルビアに聞く。
「で?
ルビアさんは環境調査でこの村に来たって言ってたけど、こんなところで油売ってていいの?」
「聞き込みも調査の内よ」
「ふーん、ナンパに合うのも?」
「あ、あれは予想外だったのよ!
それに、私が聞きたい情報は持ってなさそうだったし…
それよりも聞きたいことがあるの。」
「え、俺に聞き込みするの?」
「いいじゃない、もののついでよ。
ここ最近、何か変わったことは無かったかしら?」
「変わったこと?具体的には?」
「そうね…
見たことない植物や動物を見た、普段なら起こらないような自然現象が起きた、知り合いの体調や言動がおかしくなった、とかかしら?」
「変わったことねぇ…」
ミートサンドを咀嚼しながらルカは考える。
一つだけ、思い当たるものがある。
「最近になって森に魔物が増えたってのは、あんたの言う変わったことに入るのか?」
「森に魔物が?」
「ああ、俺は森に住んでる狩人見習いみたいなもんでさ、最近仕事量が増えたような気がするんだよ。勿論気のせいかもしれないがな」
「………」
ルカの話を聞いたルビアは何かを考えているようで、返事はない。
そのまま2人ともなにも喋らず、ただ黙々とミートサンドを食べていた。
一足先に食べ終えたルカは立ち上がりながら、もう用はすんだと言わんばかりに言った。
「ごちそうさん、それじゃあ俺は帰るよ。他に特にこれと言った情報はないからな。」
今度こそ立ち去ろうと足を踏み出した。
「待って。」
しかし、再びルビアに呼び止められる。
しかも今回は服も掴まれていた。
これでは立ち去ることは容易ではない。
「…なんだよ。」
そう聞き返したルカにルビアは、
「その森に私を連れて行ってくれないかしら?」




