1話
風の吹き抜ける爽やかな草原
穏やかにさす晴天の日差し
そこに寝転び昼寝をする
なんて贅沢なのだろう
緩やかに時間が過ぎていく
かに思われた
突然の衝撃と鈍い痛み
少年は辺りを見回す
見慣れた天井に見慣れた家具
そう、そこは少年の自室だった
「……夢か」
どうやら先程の風景は夢で、今しがたベッドから落ちて目覚めたようだ
しばらくして部屋の扉を開けて人が入ってくる
中性的な見た目をした青年だ
「おい、今の音なんだ」
「ん、あぁベッドから転げ落ちたみたい」
いてて、と声を上げながら起き上がる少年は青年に向けて朝の挨拶をする
「おはよう、クー」
「あぁ、おはようルカ」
なんでもない1日の始まり
「早く着替えて出てこい、朝飯出来てるぞ」
「うん、すぐ行く」
そんな短い会話の後クーと呼ばれた青年は部屋を出る
そしてルカと呼ばれた少年も身支度を始める
身だしなみを整えることは心を整える事だとクーに教えられてルカは育った
故に髪、顔、服装
頭の先から足の先まで意識して身支度をする
「よし」
身支度が終わり部屋を出る
ダイニングキッチンから漂う、食欲をそそるような匂い
クーの作った朝食だろう
期待をしながら足を進めるルカ
目的の場所に到達すればテーブルに朝食の乗った皿を並べているクーの姿が見える
「今日の朝飯なに?」
「トーストと焼いたベーコン、あとスクランブルエッグ」
「お、いいね
ミルクって残ってる?」
「ギリギリだな、トースト何枚?」
「2枚、村まで買いに出なきゃなぁ」
会話をしながらルカはテーブルに着く
「ほら、トースト2枚とミルク」
「ありがと」
ルカにトーストが乗った皿とミルクの入ったコップを差しだし、同じテーブルにクーも着く
それを確認したルカは手を組みあわせ、大地の恵に感謝するように祈る
この祈りは近隣の村々の習慣だと聞いてから行っているものだ
祈りを済ませ食事を始める
「ルカ、食い終わったら村に買い出しを頼む」
「いいよ、ついでになんか売りに出すものとかある?」
「あー、外に昨日の獲物を処理したものがあるからそれを持っていけ」
「はーい」
昨日の獲物というのはこの家がある森の街道付近に出たモンスターの事だろう
この家は森林の中に存在しているため、動物やモンスターは見かけるが人は森を出た後に街道沿いを進み、村まで行かねばならない
モンスターの死骸は物によっては様々な道具の素材になり得るため金になるのだと狩人業をしているクーが昔言っていたなとルカは思考する
「それにしても最近モンスターの出没頻度が高くないか?」
「それは私も思っていたが、金に困らないのはありがたいことだ」
そんな会話をしながらも食事は進み、
最後にミルクを飲み干したルカは皿をキッチンの流しへ持っていく
「皿は洗っておくからルカは買い出しの準備をしてくれ」
「わかった」
ルカは言われた通り、買い出しの準備を始める
1度自室に戻り、ベッドサイドに置いてあったマチェットナイフと本を腰にぶら下げる
自室から出て玄関口へ向かい、そこにある荷運び用のカバンをもって外に出る
「えっと……」
辺りを見回しクーの言っていた素材を探す
庭柵の近くに袋詰めされたらしきものがある
おそらくこれが売りに出す素材だろう
中身を確認し、事前情報と擦り合わせる
ウルファンという名で、狼に似たモンスターの素材だ
「毛皮と爪、牙……」
種類と数を数えたら再び袋にしまう
それをカバンに入れて背負えば準備完了だ
「クー、準備できたよー!」
家の中にいるクーに届くように大きめの声を出す
すると「おー」と間延びした返事が返ってきた
そして窓からクーが身を出して何かを投げてきた
慌ててそれを受け止める
受け止めた時にチャリチャリとした音がした
「財布、忘れてるぞ」
財布の口を開き、中を確認する
ミルクを買うにしては多めに入っている気がするルカはクーにたずねる
「ミルク以外に何か買うものあんの?」
「あぁ、胡椒が切れそうなんだ
あと適当に野菜も買ってくれ」
「了解、それじゃあ行ってきます!」
「気をつけて、行って帰ってこい」
見送りの言葉を聞いたルカは颯爽と森の中を進む
特筆するようなこともない、なにげない日常
されど運命は既に巡り始めていた……




