【下】
三話ショート連載です。
短い話になっていますので、サラッと読んでいってください。
「マリー、僕は近いうちに家を出るけど、マリーはどうする?」
「どうしたのギル?何で急に家を出る事にしたの?」
「父上が街にある商店を僕に任せてくれるって言ってね。だから僕はその商店に住み込みで暮らすんだ」
「そう…なんだね。じゃあ、これからは一緒にはいられないんだね」
マリーはこの三年でさらに成長し、100人いれば99人は惚れるだろう美人になっていた。
そのマリーが目の前で泣きそうな顔をしてうつ向いていた。
「そっか。マリーは一緒には来てくれないんだね。でもしょうがないよね。僕のわがままに付き合わせる訳にもいかないからね」
「えっ?ついて行っても良いの?私、邪魔じゃないの?」
「僕はマリーが一緒に来てくれたら嬉しいよ。でも、僕のわがままで連れて行くのも違うかなって」
「行く!私はギルト一緒がいい!お願い、私を連れてって!」
「そんな、鼻息荒くしなくても。ありがとう。じゃあマリー、僕と一緒に来てくれる?」
「喜んでついていくわ!」
こうして、僕とマリーは二人で街にある商店を切り盛りすることになった。
商店で販売する物に関しては任せてくれるとの事なので、主力はマリー考案のマヨネーズに僕考案の塩にする事にした。
他にも数量限定でタルタルを作ったり、調味料になりうるものの販売が中心だ。
元々は調味料は非常に高価で、貴族以上の地位に無い限りは手に取ることは無かったが、僕が塩の生成方法を確立させ、最近では父上たちだけでは手が回らなくなり他にも依頼を出した事で値も安定し、一般庶民でも購入出来るほどだ。
それでも、この世界の食事情は元の世界に比べればだいぶ遅れているのは確かな事だ。
「父上、商店に併設してレストランを開く事は宜しいでしょうか?マリーは料理の腕も確かなので、レストランも並行して開店させれば人気が出るかと。あとは、それに合わせてマリーの料理のレシピ本の販売も出来ればと考えております」
「ふむ。確かにあれだけの料理の腕だからな。それにレシピ本か。良い、新しい店はギルに任せる。好きなようにやっていいぞ」
「ありがとうございます父上」
僕は深く頭を下げると部屋を出てマリーの所へと向かった。
マリーは自分の家で、家を出るための準備をしている。
必要な物でかさばる物は街で買えばいい為、持っていくものは最低限だ。
それでも男の僕に比べれば荷物が増えてしまうのは仕方がない。
「準備は出来たマリー?」
「準備万端よギル。それで、ギルに一つ聞いておきたい事があるんだけどいいかな?」
「何だい?」
「町では同じ家で住むんだよね?」
「まあ、商店の二階が住居スペースだから、そこに二人で住むことになるね。嫌だった?」
「嫌じゃないよ。私としては生まれてくる前からギルの事が好きだったし、嬉しい事よ。でもこの世界でそれが意味する事って」
「ああ、そう言えば忙しくてしっかりと話せていなかったね。マリー、僕と一緒に暮らすのは嫌じゃない?」
「もちろん嫌じゃないよ。私としては嬉しいよ」
「僕もだよ。僕もマリーと一緒に暮らせると思うと嬉しいんだ。それで、ずいぶんと言うのが遅くなったけど、マリーにはこれから一生、僕の隣にいて欲しいんだ」
「それって…」
「うん。僕のお嫁さんになってくれないかな?」
「うん…うん!もちろん!とっても嬉しい!」
「これから新しく店を構える事になって、色々大変だと思うんだ。だからこそマリーにはずっと横にいて欲しい」
「私はずっとギルの横にいるよ!」
「ありがとう。じゃあ、出発は明日だし、また明日迎えに来るね」
「うん、待ってるねギル」
こうして僕とマリーの新婚生活が始まった。
新婚生活と言っても、街に言ったらすぐに商店にレストランを開き、同時進行でマリーのレシピ本も作成している。
はっきり言って超多忙だ。
朝から晩まで働いて、夜には死んだように眠りに着く毎日。
僕もマリーもくたくたで、毎日を必死に過ごしていた。
それでもマリーが横にいる事で頑張る事も出来たし、マリーも僕と同じ気持ちだ。
塩は数もある為、売り上げとしてはそこまで大きくないが、予想以上に売り上げが大きいのがマリーのレシピだ。
最初はレシピ本にしようかとも思っていたが、レシピ本にするとそれなりに値が張り、また製本するのには時間もかかる為、レシピを一枚の紙に書き起こしたものを複製し、レシピ書として売り出した。
10枚のレシピで銀貨一枚と、そこまで安い物では無いが、マリーの作る料理は非常に評判が良く、王族までもが食事に来るほどだ。
そんな料理のレシピが10枚で銀貨一枚で買えるという事で国中の奥さん、ひいては他国からもそのレシピを求めて人が来るほどだ。
しかも、調味料のレシピは公表していない為、その料理を作る為にはポーランド家で販売する調味料を購入しないと作れない為、各地にあるポーランド家の商店の売り上げも爆上がり中だ。
「マリー、今日もお疲れ様。この街に来てもうすぐ一年になるね。一年の記念に何かした事とかあるかな?」
「私はギルと一緒にいれたらそれだけで幸せなの」
「嬉しい事言ってくれるね。でもそうだな。従業員に言って、その日は一日休みを貰って二人でどこかに出かけてみる?」
「良いの?商店もレストランも、まだまだ忙しいよね?」
「従業員のみんなにも他にはないほどの待遇で働いてもらってる分、みんなの意識や技術力も高いからね。一日ぐらい僕たちが休んでも問題ないよ」
「じゃあ、一緒にピクニックがしたいな。最近はゆっくりする時間も少ないし、二人だけの時間もほとんどなかったから。ギルとまったりとした時間を過ごしたい」
「わかったよ。じゃあ明日従業員のみんなには話は通しておくから、その日は二人でゆっくりしようね」
「ありがとう。大好きよギル」
「僕もだよマリー」
そして休みをもらった当日、僕とマリーは街を出て二人で草原まで行ってピクニックをした。
家にいた頃の様に、マリーは今日もサンドイッチを作ってきてくれて、僕たちはそのサンドイッチをもって二人で出かける。
「こうやって二人で出かけるのも久しぶりだねマリー」
「街に来てからは毎日が忙しかったから、しょうがないよ」
「でも商店もだいぶ軌道に乗ってるし、マリーのレシピのおかげでポーランド家は今じゃ五大商家の中でも最大の商家になれたからね」
「そのレシピも、ギルが考案したことじゃない。私はただ昔の記憶のままに料理をしてレシピに残してるだけだよ」
「マリーの料理知識が無ければ、ここまでにはならなかったよ」
「ところでギル、普段はゆっくり話す事も出来ないから、聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいよ、どうしたの?」
「ギルは何人子供が欲しい?私もそろそろギルとの子供が欲しいの。その一緒に暮らしているけどお互いに忙しくて、そんなにじゃない。だからその…」
「ごめんねマリー。忙しくてもマリーをほっとくなんてダメだよね。そうだね、子供は何人でも欲しいよ。幸いお金に困る事はないし、今なら商家の近くに家を構えるぐらいの余裕はあるからね」
「私は最低でも三人は欲しいの。一人だと可哀そうだし、でも多すぎると私じゃ見切れないし。だからその、今日は帰ったらね」
「わかったよマリー。僕だって、愛する奥さんにそこまで言われで我慢出来るほどの賢人でも無いしね」
「うふふ。ありがとうねギル」
そこから数年の歳月が経過した。
商店は今も順調で、街にはさらに二号店、三号店と商店にレストランを開店し非常に賑わっている。
そして僕とマリーの間には二人の子供がいる。
「マリー、体調はどお?」
「もお安定期だし、だいぶ調子もいいよ」
「そっか。でも無理はダメだから何でも言ってね」
「ありがとうねギル」
マリーのお腹の中には、もう一人新たな命が芽生えている。
長女、長男についでの第三子だ。
この世界では生まれてくる前に子の性別を確認することは出来ない為、生まれてくるまでは性別が分からない。
でも、男の子でも女の子でもマリーの子なんだから絶対に可愛い。
「生まれてくる子も含めて、僕がみんなを絶対に幸せにするね」
「私はギルがいるだけで幸せよ」
「「パパもママも大好きー」」
僕たち家族は非常に仲が良く、今も昔もこれからも幸せに暮らしていく。
前の人生は突然終わってしまったが、新しく始まったこの人生は今のところは幸せに包まれている。
だからこれからも、僕は僕たちで幸せに生きていくために何でもしていくつもりだ。
僕の大好きなマリーに子どもたち。
その笑顔があれば、僕はいつまでも頑張れる。
【下】を読んで頂きありがとうございます。
短いお話でしたがお付き合いありがとうございます。
少しでも面白いなとか思っていただければ、評価をしてもらえると嬉しいです。
今後のモチベーションにもなりますので、宜しくお願いします。