【中】
三話ショート連載です。
短い話になっていますので、サラッと読んでいってください。
俺が生まれたと同時に、隣の家にも新たな命が生まれた。
ポーランド家とは昔から親交があるコーラル家。
そのコーラル家に待望の子供が生まれたのだ。
名をマリアーヌ・コーラル。
相川祥子の転生先だ。
12年の歳月が流れると、俺とマリアーヌは殆ど毎日一緒に過ごしていた。
「ギル、今日は何をして遊ぶ?」
「僕は父上について行って、商売について学びたいって言ってるだろマリー」
「そのラインハルトおじさんから、ギルト一緒にいる事を許可されているんだもん」
「まったく父上は、なんで連れて行ってくれないんだ」
「そんな事より、私と一緒に遊びましょうよ。せっかく幼馴染になれたんだから沢山一緒にいましょうよ」
「そんな事って…。まあいい、確かに12歳で商売を学びたいってのも変な目で見られるかもしれないしね。それで、今日は何をするんだい?」
「今日は草原でピクニックをしましょ。私がお弁当を作るから、草原でそれを一緒に食べるの。楽しそうでしょ?」
「マリーは料理なんて出来たのか?」
「失礼ねギルは。元々一人暮らししてたから料理は得意なんですー」
ギルこと神原実。
マリーこと相川祥子。
転生前の記憶があある程度残ったままとはいえ、現在の子供としての意識もあり、少し不思議な感じだ。
基本のベースはギルにマリーと、こちらの世界の人格が一番表に出てはいるのだが、そこに転生前の記憶が混同している感じだ。
だからたまに、お互いが昔の記憶の話をしてしまう事がある。
「じゃあ、今からサンドイッチを作ってくるから待っててね」
「じゃあ、僕は家で父上の商売を見てるから、また後で店まで来てくれ」
「はーい」
僕は一旦マリーと別れて家に帰った。
家の隣にはポーランド家の商店もあり、父上はよくそこに顔を出してお客の反応を観察している。
「どうしたんだギル?今日もマリーちゃんと遊んでるんじゃないのか?」
「マリーとはこの後草原まで行ってピクニックをしてきますよ。それより、その手にしているのは何ですか?」
「そうか、気を付けて行ってくるんだぞ。これか?これは塩と言ってだな、料理に使うとうまみがぐっと増す調味料で、最近新しく流通が開始されたんだ。その塩を少し分けてもらったから、うちの店でも並べてみようとな」
この世界の食文化は、元の世界と比べるとだいぶ遅れている。
野菜は洗って火を通すだけ。
肉も基本的には焼いただけで、どの食べ物も食材の味そのままだ。
パンに関しても酷く固く、スープに浸しでもしない限り固くて食べられたものじゃない。
そんな世界では塩一つとっても貴重な調味料だ。
元の世界に近い植物や動物もいるので、同じような物も作れるはずだが、そんな知識も無い為全く成長が無い。
「そうなんですね。確か本で読んだことはありますが、海の水にその塩は含まれているのですよね。どうして今までは流通していなかったのですか?」
「確かに海水にも含まれてはいるが、上手く食べれるほどに綺麗な塩を作り出せないようだ。だから流通は始まったとは言え、その塩は岩塩と呼ばれるものが殆どで量は少なく貴重なんだ」
父上の持っている塩にしても、小瓶(約100g)の塩が銀貨一枚だ。
一般的に平民の給与が一カ月平均で銀貨二十枚なので、まあ日本円で言えば小瓶(約100g)が一万円程度の値段だ。
この世界の調味料は、それほどまでに貴重品となっている。
しかし、塩程度なら鍋とろ過用フィルターがあれば作れそうなもんだが。
この世界でもコーヒーはあり、コーヒーのドリップ用フィルターは存在するので、塩づくりに関しての問題はクリアーしているはずだ。
この世界で塩が貴重な理由は、そう言った方法で塩を作り出す知識が無い為だ。
将来はこの辺りを商売にするのも良いんじゃないかと考えているとマリーが店にやって来た。
「お待たせギル。サンドイッチが出来たから行きましょ」
「こんにちはマリーちゃん。今日もギルと遊んでくれてありがとうね。マリーちゃんがそのサンドイッチを作ったのかい?」
「こんにちはラインハルトおじさん。はい、私が今作ってきましたよ」
「その歳でずいぶんと上手に作るもんだね。ずいぶんと美味しそうじゃないか」
「ありがとうごあいますラインハルトおじさん。多めに作ったので一つ食べてみますか?」
「良いのかいマリーちゃん?」
「もちろんですよ。どうぞ」
「じゃあ、ありがたくいただくね」
父上はマリーからサンドイッチを貰いそれを頬張る。
そしてサンドイッチを食べた瞬間に父上は目を見開き大きな声で叫んでいた。
「うまい!何だこのまろやかで深い味わいは!この少し黄色いソースがこの味の正体か!こんな美味しいソースは初めて食べたよ!マリーちゃん、このソースはどこで買ってきたのか知ってるかい?」
「黄色いソースですか?ああマヨネーズですね。それなら私が作りましたよ」
「マリーちゃんが作ったって!?それにこのマヨネーズ?っていうソース、作るのもずいぶんと難しいんじゃないかい?」
「そんなに難しくないですよ。卵と油とお酢を混ぜただけですから。本当は塩もあると、もっと味にアクセントがつくんですけどね」
「塩ならここにあるよ!塩を混ぜるともっと美味しくなるのかい?どのぐらい入れれば良いんだい?」
「えっと岩塩でしたら一つまみ程度をかけてもらえれば良いと思いますよ。本当はもっと細かい塩をマヨネーズに混ぜますが」
「一つまみだね!」
父上は売り物の小瓶を一つ開け、その中の塩を一つまみサンドイッチのマヨネーズにかけ、再度サンドイッチを頬張った。
「これはうまい!凄いよマリーちゃん!どうかな、このマヨネーズと言うソース、ポーランド商店で販売してみてもいいかな?もちろん、マリーちゃんにしっかりと対価は支払うよ!」
「それは構いませんけど、とりあえずギルとお出かけしても良いですか、ラインハルトおじさん?」
「おお、そうだったね。ごめんねマリーちゃん引き留めて。じゃあまた今度、このマヨネーズの作り方を教えてくれるかな?」
「良いですよラインハルトおじさん」
「じゃあギル、マリーちゃんの事をしっかりと守るんだぞ。わかったな」
「わかりましたよ父上。マリーは僕がしっかりとお守りしますよ」
「ではラインハルトおじさん、また今度ですね」
「ああ、待ってるよマリーちゃん」
僕とマリーは父上に挨拶を終えるとそのまま草原へと向かった。
草原へは一本道で、誰でも簡単に行けるところだ。
子どもだけでもみんな気軽に行くところで、僕たち以外にも沢山の子供がいる。
「着いたねギル。じゃあ、ちょうどお昼ごろだし、さっそくお昼ご飯にしましょ」
「そうだね、僕もお腹が減ってるし、そうしようか」
「じゃあ、シートを広げるから手伝ってね」
「わかったよ」
僕とマリーで協力してシートを広げ、二人でその上に座るとマリーが作ったサンドイッチを広げた。
パンは固くてそのままじゃ食べづらいが、マリーはそのパンを薄く切ることで、その固いパンを食べやすく工夫していた。
中に挟んである具はトマトやレタスやキュウリと言った新鮮な野菜や、厚く焼かれた卵やチーズなどいくつもあった。
そして、そのどのサンドイッチにも繋ぎとしてマヨネーズが使われており、この世界で普段食べている御飯に比べると非常に美味しそうだ。
「マリー、もお食べてもいいか?」
「もちろんよギル。なんなら私が食べさせてあげようか?」
「自分で食べれるから大丈夫だよ。じゃあいただくね」
僕もマリーもサンドイッチを一つづつとり、大きな口で頬張った。
大きな口と言っても所詮は五歳児なので、そんなに大きくは開けれず、口のふちにはマヨネーズがついてしまっている。
「ギル、マヨネーズがついてるよ」
マリーが僕の口のふちについているマヨネーズを指で取って舐めている。
しかし、そんな事を言ってるマリーも口のふちにはマヨネーズをつけている。
「そんな事言ってるマリーだって、マヨネーズがついてるじゃないか」
「ギルは私のマヨネーズを取ってくれないの?」
「そのぐらい自分で取りなよ」
「もー、ケチなんだからギルったら」
口のふちについてるマヨネーズを取るとマリーは「フフッ」と笑っていた。
「どうしたのマリー?」
「前世じゃ全然相手にしてくれなかった先輩が、今はこうして毎日相手をしてくれて幸せだなって」
「この世界じゃ幼馴染なんだから先輩じゃないよ。それに、マリーが可愛いんだからしょうがないよ。僕はマリーと一緒にいるのも楽しいからね」
「私は一緒にこの世界に転生出来て幸せ。やっとこうやって対等に扱ってくれるし」
「そうか。それにしてもマリーの作ったサンドイッチは本当に美味しいね。確かにマヨネーズに塩味が加わればもっと美味しいだろうけど、今まで食べてきた御飯に比べれば段違いに美味しいよ」
「ありがとうギル。でも、塩は基本的に岩塩しかないし、マヨネーズに加えるのは難しいのよね。どうにか海水から取った塩がてにはいらないかな?」
「だったら塩も作ればいいんじゃない?」
「私、料理は得意だからマヨネーズとかの調味料は作れるけど、塩の作り方は知らないんだよね」
「塩なら、海水を煮詰めてコーヒー用フィルターでろ過をしてを何回か繰り返せば作れるよ。何度か作った事があるけど、そんなに難しくないよ」
「そうなの?じゃあお父様に頼んで海水を持ってきてもらおうかな?」
「マリーの家なら、海水を手に入れるぐらいなら簡単だからね」
コーラル家は海の民と呼ばれ、船を使っての交易を生業としている。
僕の家の隣に住んではいるが、マリーの父親はよく海の方まで仕事に行っている。
家にもそんなに帰ってこないので、普段はマリーと母親の二人で暮らしている。
「ちょうど一週間後ぐらいに帰ってくるし、次に帰ってくるときにでも持ってきてもらうね」
「でも、少しの塩を作るのにも結構な海水が必要だし、そんなに持ってこれるかな?」
「お父様は無属性魔法の収納が使えるから、どれだけでも持って来れるよ」
「そうなんだね。じゃあ、今度お願いしてみようか」
僕とマリーはそんな話をしながらも、マリーの作ったサンドイッチを食べながら楽しい時間を過ごした。
お昼を食べ終わると少し二人で散歩をしながらゆっくりと過ごした。
そして、僕が家に帰ると父上に掴まったのだ。
「ギル、マリーちゃんとはまた明日会うかい?会うなら是非家に来てもらいなさい。そしてあのマヨネーズの作り方を是非教えてもらおう」
「父上、その件になりますが、もうしばらく待ってもらっても良いですか?今日マリーとも話したのですが、マヨネーズに塩を加えたいと思うのですよ」
「それなら、家にある塩を使っていいぞ」
「いえ、岩塩では粒が大きすぎて味が馴染みにくいです。なので海水から塩を採取しようかとおもっていまして」
「今までにも海水から塩を採取しようとしたが、どのやり方も失敗していて、現状海水から塩を採取は出来ないはずだが?」
「ある程度目星は付いているので、たぶん大丈夫です。それで今度マリーのおじさんが帰って来た時の、次に帰ってくるときに海水を持ってきてもらうようにお願いする予定です。そこで取れた塩を使ってマヨネーズを完成させようと考えています」
「そうか。では二人の報告を楽しみに待ってるとするか。あとギル。その塩の採取方法だが、成功しても誰にも話すんじゃないぞ。その採取が上手く行けば、それだけでこの国の商家の中でも一つ頭が抜ける事が出来るからな」
「わかりましたよ父上」
父上と約束をした後、僕はマリーのおじさんに海水を持ってきてもらい、そこから塩を採取した。
やり方は簡単で、海水を煮詰めて水分が減ればろ過をして、また海水を足したら煮詰めて水分が減ればろ過を何回か繰り返す。
そうして出来た白い粉の塊を砕くと、そこには海水から取れた綺麗な塩が出来た。
一度目は一人で全ての作業をこなし、ちゃんと塩が取れる事が確認出来ると、今度は父上にも一緒に見てもらい塩の採取を行う。
父上としても、こんなシンプルな方法で上質な塩が取れるとも思っていなかったようで、すぐに大量に塩が作れるように環境を整え始めた。
事業としては他商家にマネをされない様に、信用の出来る人間に依頼をして、外部に情報が洩れない建物の中での塩の採取だ。
その信用出来る人間とはマリーのおじさんで、わざわざ毎回内陸まで海水を運ぶ手間を無くすため、マリーのおじさんが拠点にしている場所に建物を作ることになった。
そして、その塩の採取もマリーのおじさんに事業を行ってもらい、その塩を父上が買い取って商店で販売する流れだ。
上質な塩で、今までに比べればずいぶんと安価な事もあり、街からも大量の注文が入り毎日ひっきりなしに塩の販売をしてる状況だ。
「ギル、お前のおかげで我が家は五大商家の中でも一番の売り上げを出せている。それにマリーちゃんの作ったマヨネーズの完成品。あれも凄い勢いで売れていて、今では塩とマヨネーズがうちの看板商品だ」
「それは良かったです」
「それでだな、まだ先の話にはなるが、ギルは自分の店を構えてみる気はあるか?一般的には15歳ぐらいから仕事をするのも普通だ。お前には15歳になったらうちの商店の内の一店舗を任せようと思っている。どうだ?」
「はい、僕は父上のような商人になりたいと思っているので、ありがたい話です」
「そうか。まだ先の話だが、覚えておくんだぞ。それと、その時にはマリーちゃんにも手伝ってもらうと良いぞ」
「なんでそこでマリーが出てくるのでしょうか?まあ、言えば手伝ってくれると思いますが」
「嫁に貰えって話だ。マリーちゃんは美人になるぞ。それにお前の事も好きだと思うぞ。あんな良い子、そうそう見つからないから、絶対に逃げられるんじゃないぞ」
「考えておきますよ父上」
僕以上にマリーを気に入ってしまった父上から、絶対に逃がすなよと言った大きなプレッシャーを、これから毎日浴びる事になってしまった。
そうしてそこから三年の歳月が流れ、僕とマリーは15歳になり成人した。
【中】を読んで頂きありがとうございます。
三話纏めて投稿しますので、引き続き【下】を読んでもらえたらと思います。
少しでも面白いなとか思っていただければ、評価をしてもらえると嬉しいです。
今後のモチベーションにもなりますので、宜しくお願いします。