勇者パーティーには気をつけろ
コメディを書きたかったのですが、うまくまとまったか分かりません。
「アルスや。ほんとうに行ってしまうのか?」
そう言ってお爺ちゃんは寂しそうな顔をする。
「ごめんなさい。でも、小さい頃から童話に出てくる勇者に憧れてたんだ。僕も勇者になって世界を救いたいんだ!」
僕の言葉にお爺ちゃんは黙り込んでしまった。
ごめんね、お爺ちゃん。
僕の名前はアルス・マグーナ。
小さい頃から、この山奥でお爺ちゃんと2人きりで暮らしてきた。
ほとんど人と会うこともない山奥で、僕の少ない楽しみが家にあった童話だった。
聖剣を手に取り、聖女や賢者を従えて魔王をやっつける勇者の物語。
大きくなったら僕も勇者になりたい。小さい頃からずっとそう思ってきたんだ。
「勇者か……」
お爺ちゃんはそう言って黙り込む。
僕は知ってる。お爺ちゃんは勇者が嫌いなんだ。
お爺ちゃんは昔、勇者パーティーにいたことがあったらしい。でも、お爺ちゃんは勇者や賢者ではなく、ポーターという職だったという。
ポーター。簡単に言えば荷物持ちだ。
お爺ちゃんはその頃の話をあまりしたがらない。勇者パーティーで何かあったのだろうか。勇者の中には性格の悪いやつもいると言うし。
「いや、勇者は良くしてくれた……」
勇者を嫌いなわけじゃない。ただ、な……。
お爺ちゃんは勇者の話となると、決まって歯切れが悪くなる。
「いや、もしかしたら儂の考え過ぎかもしれん。アルスが勇者になる可能性も十分にあるわけじゃから」
「そんな簡単になれるとは思ってないよ。でも、もし僕のスキルがお爺ちゃんと同じポーターだったら、その時は勇者パーティーなんて諦めて帰ってくるから」
「儂と同じポーターなんて縁起でもない。そんなことになったらえらいことじゃ。アルスなら絶対に勇者になれる。儂はそう信じとる」
「うん、ありがとう。じゃあ行ってくるね」
「勇者パーティーには気をつけろ」
そうして僕は、山奥の家から王都に向かって出発した。
教会の前には僕の同じ年ごろの子が長い列を作っている。
「これがみんなスキルの鑑定に来た人たちかあ」
ほとんど人に住んでいない山奥育ちの僕からすれば信じられない光景だ。
教会の前では流れ作業のようにスキル鑑定がおこなわれている。
「この子はどうかな……賢者だ」
「さあ次……聖女じゃ」
次から次へと素晴らしいスキルが読み上げられる。
みんな凄い。
「さあ、この子は……勇者じゃ」
うわっ! 勇者だ。勇者が出た。いいなあ。うらやましいなあ。勇者なんてスキルをもらったら、絶対に人生楽しいに決まってる。
と思ったけど、なんだか勇者と認定された子はあまり喜んではいないみたいだ。
「はあ……やっぱり勇者か……」
勇者なんて凄いスキルを持ってるのに、いったい何が不満なのか。僕なら飛び上がって喜ぶのに。
そういえば、賢者や聖女の子も、あまり喜んでなかったなあ。なんでだろ?
「さ、次は君じゃ。こちらにおいで」
いよいよ僕の番だ。どきどきする。
もちろん勇者が一番いいけど、賢者でも十分だ。お願い。勇者パーティーに入れるようなスキルがありますように……。
「こ、この子は……ポーター! ポーターじゃああああああああ!!!!」
「なんですって!!!!!!」
「まさか? ほんとに、ほんとにポーターなのか!」
「そのまさかじゃあ! 20年ぶりにこの国に荷物持ちが現れたぞおおおおおお!!!」
はあ……まさか本当にポーターだったなんて……こんなゴミスキルじゃあ……って、えっ?
えっ? なんでみんなそんなに大騒ぎなの?
「陛下にはよ、はよ知らせてくれ!」
「ポーターを絶対に他国に取られてはならんぞよ」
「はい、おばば様。この私がポーター様の傍に仕え……」
まわりの喧噪をよそに、まったく理解ができない僕に教会の人が説明してくれる。
「いいかげん勇者ばかりで本当に困っていたのだ。3千人の国民のうち、千人が勇者だからな。あとの千人が聖女で、もう千人が賢者というバカバカしい構成の国だ。なのに、ひとりもポーターがいなくて、これだけ勇者がいるのにパーティーが組めなくて魔王を討伐に行くことができなかった。でも、これでようやく解決した。アルスくん。君さえいれば勇者パーティーは完成する。この国にいる千人の勇者の中から好きな勇者を選んでパーティーを組んでくれたまえ!」
「えええええええ!!」
その日から、僕にとっては夢のような悪夢のような日々が始まった。
「やめなさい! わたしのアルスに手を出さないで!」
「あんたこそ何言ってるの? あたしのアルスに色目使ってんじゃないわよ!」
「はあ? そんなバーゲンで買った聖剣を持った勇者にアルス君がなびくわけがないでしょ!」
「なに言ってんのよ! あんたの聖剣だって夜7時以降の半額シールが貼られてたやつでしょうが!」
今日もまた僕を取り合って勇者同士が喧嘩をしている。
しかも、仲裁に入っている近所のおばちゃんも勇者なのだ。
「あんたたち! いい加減にしな! アルスには経験豊富な女が必要さ」
「「はあああ? なに言っちゃってんの、この年増!!」」
「なんつった今あああ!!」
そう言って広場の真ん中で3本の聖剣がぶつかり合う。
需要と供給の経済の基本を考えれば賢明な読者にはすぐに想像がつくだろうが、この国では勇者向けグッズが大量生産されている。だから、この国の勇者は全員が聖剣持ちだ。
あまりに作り過ぎたせいか。今では街の土産屋で木刀より聖剣の方が安かったりするので始末が悪い。
「そこの兄ちゃん、お土産に聖剣はどう? これは【傾国の剣】の異名があってね。一振りで山を消す威力があるんだ。家にゴキブリが出た時に便利だから奥さんへの土産にピッタリだよ!」
こう言って歩行者に土産物を売りつけているおばちゃんの腰にもしっかり聖剣がささっている。
いい加減にうんざりした僕は、諦めてとうとう勇者パーティーを組むことにした。
もちろん、ひとりの勇者を選ぶなんてことはできやしない。
さいわい、僕のポーターのスキルは結構レベルが高かったみたいで、一度に運べる荷物の量は東京ドーム10個分という異世界では説明しずらいレベルだった。
そして、その能力を生かし、僕は千人の勇者を引き連れて魔王のところに向かった。
(ごめんなさい……)
そう書かれた紙を残し、魔王はとっとと逃げ出していた。
そりゃそうだろ。千人の勇者と千人の聖女と千人の賢者が攻めてきたら、いくら魔王だって逃げ出すわ。
そうして僕ら3千人の勇者パーティーは(+1人)国に帰った。歓迎してくれる国民はもちろんいなかった。
それから僕は、こっそり国を飛び出し、お爺ちゃんの待つ家に帰った。
「やっぱりポーターじゃったか……」
「もしかしてお爺ちゃんも同じ目に?」
「ああ、儂の時は勇者は3千人はおったな。もうあれ以来、勇者の顔を見るのも嫌じゃ」
「僕ももう、勇者パーティーはこりごりだよ」
まだ結婚もしていない僕だけど、もし将来結婚して子供ができたら言うつもりだ。
「勇者パーティーには気をつけろ」と。