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04

 ある意味緊急事態発生……。

 昨日はごめん、私(僕、俺)は三門さんの味方だから、振られたからってあれはないよね。

 新渡戸くんが休んだ瞬間に熱い手のひら返しだった。

 だから急にこれって、


「おかしいよなぁ」


 と。

 絶対影で動いた人がいる。

 そして、そんなことをする人は昴さん以外に有りえない。


「昴さん!」


 もうね、3年生の教室に突撃したよね。

 男の子の友達と話していた彼の腕を掴んで教室を飛び出す。


「なにしたんですか!」


 回りくどいのは嫌いだ、なんでも直接ぶつかりたい。

 本人にも言ったがあれは自業自得だったのだ、それで被害者面はできない絶対に。


「なにもしてないぞ俺は」

「しらばっくれないでください!」

「良かったじゃねえか、悪く言ってくるやつらが消えて」

「ほらあ!」

「ふっ、お前の顔面白いな……はははっ」


 笑っている場合じゃねえんですよ!

 絶対に中にはいると思うんだよ、男を使って卑怯だって考えている子たちも。

 なにをどうしたって悪く言われるのは私なのだから勘弁してほしい。

 いや……ありがたいことではあるけどさ……。


「……ありがとうございます」

「だから俺はなにもしてないって」

「そういうことにしておきます、それでは」


 こうして、案外あっさりとまた静かな時間が戻ってきた。

 例え裏でなにかを言われているのだとしても関係ない。

 直接見える、聞こえるところでやってくれなければ個人の自由だ。

 悪口言うのやめろなんて言わないから、せめて知らないところでやってほしかった。


「き、キノ」

「あ、ムツキちゃん」

「昨日はごめん!」

「え、いいよいいよ、しょうがないってあれじゃあ」


 誰だって巻き込まれたくないと考えるもの。

 あの状況で私の味方なんかしたら絶対に被害に遭う。

 そんなことをしては駄目だ、安心安全な向こう側から見ているだけでいい。

 でもさ、他の子がされているのを見たら気になるから止めちゃうけどね。


「返してっ」

「だから、借りるだけだって言ってるでしょー?」


 おぅ、偏見は良くないけどそのまま奪いそうな子だ。

 借りパク? って言うんだっけ、こういうの行為のことを。

 だったらって私はその子から奪っておいた、もちろんすぐに持ち主に返したけれども。


「あ、あんたなにして――」

「あ、借りただけだよ」


 なんてね、すぐになんか煽っちゃうみたいなね。

 そう、私にも問題があるのだ、すぐ調子に乗ってしまうところは直したい。

 どんなに良く振る舞っていようと嫌な部分に気づいたらそこばかり見えてしまうものだ。

 私には滅茶苦茶ありそう、奏くんとかムツキちゃんとかよく一緒にいてくれてんなって驚いた。


「や……本当にいまから返すつもりだったんだけど……」

「え゛」

「この子……こうやって言って高頻度で借りてくるんだよ、勘弁してほしー! って、でも別に嫌じゃないから冗談で言ってただけなんだけど……」

「え゛」


 紛らわしいわ! イチャイチャなら他所でやってくんな!

 しょうがないからその子から受け取ってまた返しておいた。

 滅茶苦茶痛い女じゃん……穴が入ったら本当に入りたい気分。

 ムツキちゃんもくすくすと笑っているしさあ……。


「キノ、どんまい!」

「ありがと……」


 私はもっと謙虚に生きることにしようと決めた。

 ちなみに、当然のようにその情報が漏洩していて笑われたよねという話。


「ま、誰かのために動こうとしたのはいいじゃないか?」


 と、こちらの頭を撫でながら言ってきた昴さんをふっ飛ばしたくなった。

 この人はナチュラルに私を子ども扱いする、こういうところが気に入らない。

 高校生になってもそれは変わらない、恐らくこの先も多分変わることはない。

 いいのか悪いのか、それがわからない、私が昴さんに恋する女だったなら悪いんだろうけど。


「キノちゃん、今週の土曜日って暇?」

「私? うん、特に予定はないかな」


 家でゆっくりしているだけで休日なんてあっという間に終わる。

 わざわざ外に行くのは相当な理由がないとしない、姉のことはあまり言えないのが私だった。


「サッカーの試合があるんだけどさ、見に来てくれない?」

「あ、いいよ! 奏くんの応援してあげる!」

「ありがとう!」


 キュンキュンモードになれば幸せになれるしどちらにとってもメリットがあると。

 頭を撫でたら怒られちゃったけどね、子ども扱いしないでって。

 そういうところが可愛い、家族じゃない私に頼んでくるところが最高!


「お弁当作らないとね」

「あ、じゃあウインナーいっぱい入れてほしい」

「わかった、なら3本ね」

「少ないよー」


 やはりムツキちゃんと話している時が1番楽しそうだ。

 あの笑顔は本物だ、本当にムツキちゃんに恋しているのでは?


「ムツキがいてくれて良かった」

「ですね」

「そうしないとお前とも出会えてないからな」


 この人こそこういうこと真顔で言ったりしない方がいいと思う。

 あれだあれ、誰にでも言っているんでしょうってやつだ。


「昴さんって私のこと好きですよね」

「そう見えるか?」

「違いますか?」

「はは、自惚れだな」

「ですか」


 ふたりとあんまり離れてもあれだからとちょっと速歩きにした。


「そこはどうでもいいですけど、歌声は聞かせてくださいね」

「俺にもし彼女ができてもか?」

「はい、その彼女さんを説得して聞かせてもらいます、もちろんふたりきりでは会いませんが」


 そういうドロドロしたのって面倒くさいし。

 なんなら彼女さんと仲良くなって録音してもらうのでもいい、それだけで満足できる。


「というか、私もあなたも1度もそういう人がいたことないですよね」

「だな」

「告白されたことだってあるのに贅沢者ですね、私たちは」


 ムツキちゃんはどうなんだろう、そういう話を一切聞いたことないけど。

 特定の男の子や女の子といるわけでもないし、フラットな関係を望んでいるのかな。


「昴さん、ムツキちゃんのそういう話って聞いたことあります?」

「ないな、あいつは全然学校のこと話さないからな」

「信用ないんじゃないですか? ほら、長男なのに長女に任せてばかりですから」

「そうかもな」


 とはいっても、無理やり聞き出すようなことでもない。

 仮にそれを聞いたところでなにかができるというわけでもないし、彼女もまたなにかをしてほしいなんて考えないだろう。もしそうならとっくにこっちに言ってきてしているはずだから。


「じゃ、また明日――」

「お前ってさ、ナチュラルに俺のこと馬鹿にしてるよな」


 振り返ってみたら怖い笑みを浮かべた昴さんが。

 私ってばなにかしちゃったかと思い返してみた結果、思い切り直前に馬鹿にしていました。

 慌てて謝罪をして電柱の後ろに隠れる。

 後ろを見てみたらもうあのふたりは家の中で助けは期待できそうにない。

 お、怒ってるよね? 後から指摘してくる辺りがちょっとあれだけどさ。


「す、昴さんだって私のこといつまでも子ども扱いしているじゃないですか」

「は?」

「いえ……ムツキちゃんのお手伝いをしてあげてください、先程はすみませんでした」


 とりあえずいまは奏くんの応援をすることが優先事項だ。

 変なことを持ち込んで空気を悪くしても嫌だし、なんだかんだでこの距離間を気に入っているのだから変える必要はない。だって変えたところでって話だしね。


「ただいまー」

「あ、どうも」

「へ?」


 扉を開けたら知らない男の人がいたよ?

 しかもかなりの高身長で昴さんみたいな格好いい人。

 一瞬家を間違えたかと思ったぐらい、それぐらい衝撃的だった。


「あ、キミの妹?」

「あ、は、はい……え、あなたは?」

「俺は……創作仲間かな」

「はぁ……え、じゃあお姉ちゃんに会いに来たという感じですか?」

「ああ、今度一緒に漫画を作る予定なんだ」


 へえ、もしかしてこれまでも会っていたりしたのかな?

 というか家を教えちゃったんだな、もうちょっと気をつけた方がいいと思うけど。


「お姉ちゃんに変なことしないでくださいね?」

「しない、漫画は一緒に作るけど」

「なんでお姉ちゃんなんですか?」

「俺はキミの書く話や描く絵が好きだから」


 また来ると言って出ていった。

 あの部屋に招いたということなら相当に信用しているということになるが。


「ふーむ、これは面白くなってきた!」


 ついでにあの部屋から連れ出してくれたなら最高だ。

 姉は中卒だけど、だからこそ色々な景色を見せてあげてほしいというか。

 恋愛とかして? 少しでも青春を味わってほしい的な?

 ま、言ったりはしないけどねと片付けた。




「奏くん頑張れー!」


 土曜日。

 私は約束通り学校に訪れていた。

 意味はないが制服で来ているため、あまり浮いてはいない。

 ちなみにムツキちゃんと昴さんは普通の私服だったが全く気にしていなさそうだった。

 過保護だね、この兄妹は。

 ああでも、いつもワガママを言って困らせている奏くんが真面目にやっているところを見ると、なんだか嬉しくなる。多分姉とか母親的な見方だからかもしれない。

 

「やるな」

「だよね、私も驚いた」

「でも、相手も強くて苦戦しているというところか」


 頑張れ奏くん、終わったら焼いてきたウインナーいっぱい食べさせてあげるから。

 もちろん色々な味付けで飽きないようにしてある、奏くんが食べられなくなっても昴さんに全部食べてもらうつもりだった。


「あれ」

「ん? あ」


 なぜにこんなところに。

 え、もしかしてこんな身近な人だったのと驚いてた。


「資料になるかなって」

「ああ、いつだって漫画脳なんですね」


 どうせなら姉も誘ってあげればいいのに。

 そうすればこの人の好きな姉の話や絵が進化するかもしれないし?


「誰かの応援?」

「はい、友達の弟さんの試合なので」

「へえ、キミも誘えば良かったのに」

「それはこちらのセリフですよ」

「いや……誘ったんだけど、断られちゃってね」


 誘ったんかい! まあ、行きづらいとは思うけどさ。

 誰でも入れてしまうという環境は危ない気がする。

 学校側もそれなりに対策とかしているのだろうかと疑問に思った。


「ちょうどいいや、君の側にいれば自然に見られるしね。だってここの生徒なんでしょ?」

「そうですね、あなたは何歳なんですか?」

「18歳」

「よく姉と会おうとしましたね、下手すりゃ犯罪ですよ」

「キミの方から誘ってくれたんだ、俺の書く話が好きだからって」


 へえ、じゃあ組めばいい関係になれるということか。

 絵担当の姉と話担当のこの人、名前を知らないのがあれだけども。

 というかいまは試合だ、話すだけならいつでもできる。


「あの子、小さいけど上手だね」

「あの子が友達の弟さんです」


 きっとスターティングメンバーとして出られているからというのもあるだろうし、仲間のためや自分のためでもあるだろうし、ムツキちゃんや昴さんが来てくれているからというのも影響している気がする。あの普段は小学生がそのまま進級してきたみたいな感じの奏くんが真面目な顔で頑張っているところを見ていると……もうやばいね、終わったら絶対に抱きしめるけどね。

 ただ、サッカーの試合なんて生で初めて見たけど長いんだなっていうのが正直な感想だった。


「いいなあ、こういう光景」

「それなら書いてみたらどうですか?」

「そういうことじゃなくてさ、普段全然興味ないようなことでもワクワクしてくるって言うか、やりたくなってこない?」

「でも、端から端まで走ったらすぐ疲れてしまいますよ」

「そうだけど、たまには思い切り走ってみたくなる時もあるんだよ」


 それはまあわかる、嫌なことがあった時とかにあー! って叫びながら走りたくなるし。

 高校3年生という情報が本当かどうかはわからないけど、私たちとあまり変わらないようだ。


「お、終わりのようだね」

「そうみたいですね」


 申し訳ない、なんかお喋りばっかりに夢中になっていた気がする。

 大体、私が来たところでなにも力にならないよねという話。

 しかもそれでお喋りをして余所見をしているぐらいだしね……。

 なんだか罪悪感がやばかったから容器をムツキちゃんに渡して帰ることにした。


「良かったの?」

「あれ、見ていて良かったんですよ?」

「君がいなくなったら居づらくなるからね」


 あ、どうせならこのまま家に連れて帰ろうか。

 それで姉の様子を見て判断する、なんて最高のプラン。


「家に来ませんか?」

「朝も行ったんだけどね、なんか髪がボサボサだから出ないって言われて」

「え、でも誰もいないんですから入り口まで出たってことですよね?」

「いや、電話でそう言われて仕方がなく歩いていたんだ」


 対昴さんだけにってわけじゃないんだ。

 面白い、色々話を聞きたいから来てもらうことにした。


「今度は会ってくれますよ」

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