ねえ、このパン美味しくない? 中編
結論から言うと、ダメだった。
案の定、冒険者ギルドへの登録すらできなかった。
空間収納にしまっておいた、魔王城からかっぱらってきたものを適当に売ろうとしたけど、それすらも冒険者にならなくてはいけないらしい。
ギルド同士の柵のようなものがあるようだ。
自分で稼ぐこともできず、物を売ることもできない。かといってバイトをしようにも伝手がない。
端的に言って、完全に詰んでいた。
「うーん………」
日も落ちかけているし、魔王城に帰るべきかと思案している矢先のことだった。
「きゃあっ!」
大通りからいくつか外れた道を歩いていると、女の人の悲鳴が微かに聞こえてきた。
そちらを見れば、寂れた路地裏の奥に人影が見えた。
構図としては、若い女の人を複数の悪漢が囲んでいる感じ。明らかに襲われているとわかる。
「助けるべきか、無視するべきか……」
厄介事は困る。
姿を変えることのできない私は、勇者に顔を覚えられただけで一発アウト。二度と王都に入ることはできなくなるだろう。
そうなれば、おいしい物も食べられなくなる。
無視するのがベストだ。
――――ベスト、なんだけど。
「いい匂い…………」
襲われているお姉さんが持っている袋から、とてつもなくいい香りが漂ってくる。
人間よりだいぶ優れている私の五感が言っているのだから間違いない。あれは絶対に美味い。
ぜひとも食べたい。
どうせ、このままでは何も食べられずに魔王城へと戻る羽目になるだろう。それなら、なんでもいいからおいしいものを食べてから帰りたい。
そうと決まれば、
「はいはーい、そこまでだよおにーさんたち」
私は美味い物にひかれて――――否、正義の心をもってお姉さんを助けるべく、男達へと声をかけた。
男達は手にナイフやこん棒を持っていて、明らかに悪い顔をしている。
ベタだなー。
「ああ? なんだこの餓鬼」
と、悪漢A。
「へへ、ちょうどいいぜ。こいつも一緒に奴隷商に売っちまおう」
と、悪漢B。
「そりゃあいい。飛んで火にいる夏の虫ってなぁ!」
と、悪漢Z。
どうやらこの男達は人攫いのようなものらしい。
つまり、ボコっても問題はないということだ。
「打っていいのは、打たれる覚悟のあるやつだけさ」
一応、最終忠告だけしておく。
ついでに私に気を引いて、お姉さんには逃げるようにアイコンタクト。
どうやら伝わってくれたようで、こくりと頷くと、じりじりと悪漢達から距離を取り始めた。
「なに言ってんだテメェ」
と、悪漢A。
「冷静なツッコミありがとう。君、いいセンスしてるねー」
「ふざけてんのかてめえ!」
「ふざけてないさ。むしろ、私は大まじめだぜ?」
などと適当に煽りながら、お姉さんが離れるための時間を稼ぐ。
それにしても。
どうやって悪漢達を追い払おう。
魔法は周辺を壊しちゃうから却下。最悪、殺しちゃうし。
物理で殴るのは……まあ、現実的か。
問題は、手加減できるのかということである。
モチベ上がるのでブクマ評価くれると嬉しいです。