あの、元上司がすみません(リムル視点)
◆リムル視点
私がクビにされてから二か月がたった。
「魔王様、元気かなぁ…………」
実家を出た私は、次の職場の面接を受けるべく、空を飛んでいた。
いくらクビにされたとはいえ、50年も仕え続けたご主人様だ。気にならないはずがない。
ただでさえずぼらで、起き上がることも面倒だと一蹴する御人だから、まともな食事をとっているのかと不安になる。
「………だ、だめだめ。もう私には関係ないんだから」
未練を払い落すように、首をぶんぶんとふる。
今から暴食の魔王様にお仕えするための面接を受けるのだ。
怠惰の魔王、ベア様のことは心配だし、できれば様子を見たいところだけれど……、クビにされた職場に行くというのは、些か抵抗があった。
「あ、あれかな」
暴食の魔王様の街が近づいてきて、私は地面に降り立った。
流石に飛行しながら目の前に降りるのは失礼だと思ったからだ。面接は既に始まっていると言っていい。
「こんにちはー!」
私は門の前にいるリザードマンの兵士さんに声をかけた。
「やあ。もしかして、君が新しいメイド志望者さんか?」
「はい! よろしくお願いします!」
「待っていたよ。ついてくるといい」
兵士さんに言われて、私は門を潜る。
ベル様のお城しかないような領地とは違って、そこには城下町が広がっている。
町の人はみんな笑顔で、和気あいあいとしているから、新しい職場は楽しそうだ。
「それにしても、いいタイミングできてくれたよ」
「いいタイミングですか?」
「最近、お城のメイドや兵士が大量に休職しちゃってねぇ」
はあ、と小さく溜息を吐いて、兵士さんは続ける。
「全く、怠惰の魔王様には困ったものだよ」
「ぇ…………」
どきん、と心臓が鳴った。
怠惰の魔王、ベル様。私が前に仕えていたお方で、今は何の関係もない魔王様。
でも50年もの間、たった一人の従者としてお城に仕えていただけあって、思い入れのある魔王様……職場でもある。
あの魔王様、何かやらかしたのだろうか。
いや、いや。私には関係ない。
だって、もう主従関係にない他人なのだ。魔王様としてあがめることはあっても、それ以上の関係はもはやない。
「ひと月前、怠惰の魔王様が御城に乗り込んできてね」
どきん。
「止めようとした兵士が、みんな怪我させられちまったんだ」
どきん。
「おかげで、今じゃお城は人手不足…………全く、いったい何があったのやら」
「あ、あはははははは。大変ですね…………」
「ほんとになぁ。なんでも『おいしい物が食べたいんだー』とかいって、人間の王都に行ったらしいけど……、人間とはいえ、同情するよ、ほんと」
「…………あの」
「ん? どうしたんだ?」
「ちょっと、用事を思い出しまして………し、失礼しまーーーーす!!!」
「あ、おいっ!」
兵士さんの静止の声を振り切って、私はばっさばっさと空に逃げる。
家には帰らない。というか、面接も受けずに帰れない。向かう先は、人間の住まう王都―――、バルーン王国だ。
一発ぶんなぐって、そして連れ戻さなくてはいけないだろう。
「あのクソ魔王うううううう!!!!! なにしてくれてんだあああああああああ!!!」
私は問題を起こした魔王の元従者というレッテルを張られているわけで。
――――――――――そんなとこで面接なんて受けられるわけねえだろうがああああ!!!!!!
モチベになるのでブクマ評価お願いしますー。