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20/34

ねえ、不法侵入なんだけど2

続き。

「魔王、覚悟っ!」


 フィルはベッドから飛びあがると、その勢いのまま剣を振り下ろしてくる。

 私はバックステップでそれを躱して、フィルと距離を取った。

 対象を見失った剣は空を切って、その先にあったテーブルはケーキのように軽く真っ二つにされていた。

 おいこら。


「ちょっと、ここ室内なんだけど……」


「だからどうした! 今から死ぬ貴様には関係がないだろうっ!」


「あっそう………」


 ダメだ、聞く耳を持ってくれそうにない。

 軽く流したけれど、テーブルを真っ二つにするほどの切れ味は、流石は聖剣といったところか。

 ちょっと不味いかも。


「はぁっ!!!」


「っ!」


 フィルは一瞬で私の懐にもぐりこむと、その剣を振り上げた。

 狭い室内で動きの制限されていた私は、それを躱しきれずに腕からは鮮血が噴き出した。


「痛いってのっ!」


「くっ!」


 追撃せんと迫るフィルの腹を突き蹴って、部屋の物が壊れないようにベッドの上に飛ばす。

 動きを制限されてる中、飛ばす先にも気を使わないといけないハンデとか、ハードモードすぎる。

 それに、それを差し引いても、三か月前に戦ったときよりも明らかに強くなっている。これは本格的にどうしよう。


「やはり、力を失っていても、その戦闘センスは健在か……」


 フィルはすぐに体制を整えると、再び剣を構えなおした。

 その頬は心なしか赤くなっているようで、戦いの高揚感に酔い始めたのがわかる。


「そもそも、なんで君は私を狙ってくるのさ」


「決まっている。貴様が魔王だからだ」


「私、何も悪いことしてないんだけど?」


「それでも、魔王がいるというだけで人々の心は休まらない。貴様は生きているだけで害なのだ」


「無茶苦茶な……」


 流石に生きているだけで害悪とか言われると、怒りを通り越して悲しくなってくる。

 洞窟で一人食っちゃね生活をしているだけでよかったのに、大魔王はとんだ属性を付けて行ってくれたものだ。

 ていうか、魔王なら他にもいるんだからそっちに行けよ。私に関わるな。


「魔王、貴様はなぜここにいる?」


「はい?」


「なぜ、魔王城から出てきたのかと聞いているんだ。殺す前に聞いておきたい」


「それは………」


 今思えば、こっちにきて本当に良かったと思う。

 あのまま魔王城にいたら美味しくもない塩味の焼肉をかじりながら生活していたことだろう。

 そうでなくても、元々寝ているだけだった生活より、今の方が生きているという実感が沸く。


 何より、楽しいのだ。


 最初こそ食欲だけが原動力だった。けれど、マーサさんに雇ってもらって、できることが増えて、私のパンを食べてくれるお客さんも増えてきて。

 いつの間にか、この生活はきらきらとしたものになっていた。

 これはきっと、


「気に入ったんだよ」


「………どういうことだ?」


「人と暮らすのが、好きになったんだ」


 それこそ、睡眠100、食欲60。

 ―――普通の生活が、120になるくらいには。

ブクマ評価ありがとうございます。

シリアスもどきはここだけです。

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