ねえ、従者が返ってこないんだけど
ほのぼの日常系、始まります。
睡眠は良いものだ。
あらゆる柵から解放されて、今、私はここにいる。
ふかふかのベッド。
ふかふかの枕。
ふかふかの毛布。
私を離さんとばかりに、それらは夢の中へと誘惑してくる。
だが、外の世界の雑音が、それを許してくれなかった。
「いい加減、はたらいてくださああああああい!!!!!」
そんな怒号を耳に、私は目を開けた。
そこにいるのは背中から蝙蝠の羽をはやした金髪の少女、リムルだ。
「うるさいよ……私の惰眠を邪魔するんじゃあない…………」
「惰眠って! 今、惰眠って言いましたよね!? 無駄な睡眠ってことですよね!?」
「リムル、一ついいことを教えてあげよう…………」
私は再び目を閉じて、枕に顔をうずめながら指を立てた。
「わあひは、はいはのはおうはんはぜ」
「いや、何言ってるか分かんねえけど!?」
やれやれ、リムルには困ったものだ。言葉がわからなくても、主人の想いくらいは理解してくれなければ。
仕方がないので、私は首だけを横向けると、
「私は怠惰の魔王なんだぜ」
「だから?」
「つまり……働かないことが、働いてることになる」
「ならねえよっ!?」
リムルは額に青筋を立てて、私のベッドに拳を振るった。
この世界には、七人の魔王が君臨している。
傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食――――そして最後に私、怠惰の魔王だ。
今は亡き大魔王によって授けられた七つの称号。それ以上でもそれ以下でもない。
つまり、どうでもいい。
私が『怠惰』になったのだって、不可抗力だ。
偶々魔力が多くて、偶々ニートをかましていたところに、たまたま大魔王がやって来て、勝手に置いていった。
はた迷惑な話である。
「魔王様、最後にベッドから下りたのがいつなのか、憶えてらっしゃいますか……?」
「えーっと………眼を開けたのがこれで3回目だから………、一昨日?」
「一か月前だよ!!!! つーかこの一か月、目すら殆ど開けてなかったのかよ!!!!」
「いいじゃん……私、トイレに行く必要すらないんだからさ………。お腹は空くけど」
「ダメだこいつ、早く何とかしないと…………」
はあ、と頭を抱えながら、リムルはベッドの脇に崩れ落ちた。
なんか、疲れてそう。
仕事のストレスが溜まっているに違いない。
私はこれでも部下想いな魔王だと自負している。
唯一の従者であるリムルには、ゆっくりと休んでもらった方がいいかもしれない。
「ねえ、疲れてるなら、暇をあげても、いいんだよ?」
「………………………………え」
リムルはがばりと顔を上げると、ぽかんとした表情をこちらに向けてきた。
休暇を貰えることが、嬉しいのだろう。
週休二日制なんてない職場だし、この際、実家でゆっくり休んで欲しい。
「な、なにをおっしゃってるんですか………………?」
「いや、実家にでも帰ったらどうかなって」
「は…………え…………?」
降ってわいた休暇に、驚きを隠せないらしい。
リムルは頬をひくひくと震わせながら、怒ったような悲しいような、不思議な百面相をこちらに向けてくる。
「君は日ごろからよく働いてくれたから、もう(一週間くらい)休んでもいいと思うんだ」
「そ、それは………、魔王城からでていけ、と?」
「うん」
「そ、そんな…………私はこれまで、魔王様に尽くしてきたのに…………な、なんで…………!」
「うん、ご苦労様。ゆっくり(一週間くらい)休むといいよ」
「っ………………!」
リムルは目に涙を浮かべて(そんなに嬉しいのかな?)部屋の窓へと走っていった。
「しょ、食料は一か月分くらいは残っているので、それを召し上がってください…………」
「うん、ありがとうね」
「………………魔王様の………ベア様の、ばかあああああああああああああああああ!!!!!!!!! 」
リムルは翼をはばたかせて、屋敷の外へと出て行った。
「…………なんで、罵倒されたんだろう」
まあいいかと、私は再び枕に顔を埋めた。
幸いにも食料はあるらしいので、リムルも実家でゆっくりできることだろう。
それにしても、久々に話したから疲れた…………おやすみなさーい。
そして、それから一か月。
リムルはついぞ帰ってこなかった。
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