ねえ、不法侵入なんだけど
「それじゃ、また夕飯でねー」
「はい、ごゆっくりなさってください」
私はリムルと別れて、自分にあてがわれた寝室へと入った。
机とベッドしかないような簡素部屋だけれど、私はここが気に入っている。
魔王城の私の寝室は、私一人に対して無駄に広い。天蓋付きのベッドも、仰々しくてなんだか気が滅入るのだ。
でも、この部屋の程よい狭さは、私に安心感を与えてくれる。
魔王になる前は洞窟で寝泊まりしていたから、その時の名残なのだろう。
「っと、明かり明かり」
私は光の魔道具のスイッチを付ける。すると机の上にあるガラス細工が明るく輝き始めた。
「夕飯まで時間はある、かな?」
私は『怠惰』と言われるだけあって、基本的に寝ることが好きだ。
最近は嗜好が食事に寄ってきているけれど、睡眠欲がなくなったわけではない。
「お夕寝しよっと」
最近わかったのだけれど、特に一仕事終えた後の睡眠はとても気持ちがいい。
特にお夕寝は素晴らしい。
中途半端に長く寝ると逆に気分が悪くなるけれど、一時間くらいの微睡は、暖かく薄い膜に包まれるようで心地が良い。
目を覚ました後のぼんやりとした時間も最高だ。
私は寝すぎないようにしようと心に決めて、毛布の上からベッドに倒れこんだ。
―――ぐにょり。
――――ぶふっ!
「………え?」
毛布の下でなにかを潰したかと思ったら、後から音が聞こえてきた。
いや、音と言うよりは、これは声だろうか。
「…………リムル、いや」
一瞬、リムルだと思ったけれど、彼女とは先ほど別れたばかりだし、部屋には入れていない。
それに、人のベッドにもぐりこむようなことは、彼女はしないだろう。
「………………(ごくり)」
恐る恐る、私は毛布をめくっていく。
「………………」
「………………」
そこには、聖剣を抱きかかえた勇者フィルの姿があった。
「なんでっ!?」
「くっ……見つかってしまったか」
「『見つかってしまったか』じゃないけど!? 人のベッドで何してんのっ!?」
「決まっている。貴様を殺すため、忍び込んだのだっ!」
フィルは昼間の時とは違って、聖剣と仰々しい鎧を着ている。完全武装だ。
やる気満々である。
「しかし、見つかっては仕方ない。寝ている間に暗殺するつもりだったが、今ここでっ!!」
と、フィルはベッドから飛びあがるように立ち上がると、私へ剣の切っ先を向けてきた。
私に戦う気もなく、これまで悪いことをした覚えもないのに、なんで命を狙われてるのだろう。
理不尽すぎる。
そもそも魔王と言う肩書だって押し付けられただけで、世界征服をしようとしているわけでもなければ、人間の血に飢えているわけでもない。人肉が好きとかサイコパスとしか思わないし。
やっぱり理不尽すぎる。
たしかに、勇者としては正しい行動なのだろう。けど、けどさ。
「君、やってることは不法侵入と殺人未遂だからね」
正当防衛は許される、よね?
ネタ思案中