初めて焼いたパンは揚げパンでした
揚げパン、ジャムパン、クリームパン。
あんぱん、食パン、ライ麦パン。
様々なパンが、ずらりと並んでいる光景は、壮観の一言だ。どれもこれも焼き立てで、甘くておいしそうな香りを醸し出している。
口に入れたら幸せがいっぱいに広がることは間違いない。
けれど、今の私は食欲のままに食べるわけにはいかない。
からんからん。
「いらっしゃーい!」
朝一番のお客さんが入店してきて、私は明るく出迎える。
まだこのお店にきてから二週間くらいだけど、仕事にも大分慣れてきた。
以前はお城でニートをしていた私が本当に変わったものだと、自分でも思う。
「今日も元気だねぇ。仕事には慣れたかい?」
「あ、ミドリおばちゃんじゃん。おかげさまでねー!」
入店してくれたのは常連のおばあちゃんだった。
ミドリさんは毎朝と言っていいほど通ってくれて、私が一番最初に接客したお客さんでもある。
たまに飴をくれる、良い人だ。
「ねね、これ、私が焼いたパンだから、よかったらたべてよー」
私はミドリさんの腕を引いて、棚に並んだ揚げパンを見せびらかした。
最近は店長さんに許可をもらって、パン作りにも挑戦させてもらっている。
揚げパンは私が店先に出していいと言われた初めてのパンなのだ。
「あらあら、それじゃあ、いただこうかねぇ」
「お、ありがとねー」
私はトングで揚げパンを一つ取ると、紙袋で包み込んで、お会計のためにカウンターの方へと持っていく。
「300ガルムになりまーす!」
こんなことをしているのを知り合いに見られたら、きっと卒倒されるだろうな。
ニート魔王の私に、あまり知り合いはいないのだけれど。