転生魔王は現状を考察する
大半は魔王視点ですが、後半に少し勇者視点が入ります。
わしは…どうなった?
あの時あの場所で。
自らの命を代償にする禁術で奴らに一矢報いた…はず。
であれば、まず生きているはずはない。あれはそういう魔法であるからなぁ。
正直、腕もげたり腹が破れるよりあの魔法の自壊ダメージの方がよほど痛かった。
えっげつないのぅ、あれ…もう二度とゴメンじゃ…。
しかしまぁ、勇者をあの屑どもに殺されるくらいなら…我慢もできる、か。
しっかし勇者には悪いことしたのぅ。事ここに至っては、という状態だったとはいえ実際わしがトドメ刺したしなぁ。
正直すまんかった。
まぁ今更謝ってもどうしようもないがのう。
願わくばあの勇者が幸せな来世を送れるように祈っておくとするかの。
……む。わし神信仰しておらんかったな。何に祈ればいいのやら。
まぁ魂は死したのち大いなるオドに吸収され砕け混ざり、新たな命として生まれるという。
とすれば、彼奴もいずれ新たな命として生まれるか。
…勇者の場合はどうなるのかのう。異世界から召喚された魂…いうなればあの世界では異物であるからな。
元の世界に戻るのか、あの世界の輪廻に加わるのか。
…あの世界では少々不憫が過ぎるのう。
十分苦しんだだろうに。
こればっかりはわしにもどうしようもないしのう。祈るばかりじゃな。何にかは知らんが。
ふむ…さて。
死ぬ間際の夢かとも思うたがどうにも違うようじゃの。
記憶はある。
死ぬ直前の事も覚えておる。
それでこの状況はどういうことじゃ?
暗い…柔らかな…何かに包まれている?
周りを満たしているのは液体か。
ふむ…ふむ…?
暖かな液体…柔らかな膜…それにこれは…うめき声?
これはまさかそういうことかの?
伝承には数人確かにそういう者がおったことは知っておるが…。
だとして、何故わしが? という疑問はあるが。
まぁ、過去の実例を見返しても共通性は特になかった故、偶然…というしかないのであろうが。
む、押し出されるな。
ここまでくればもう確信に近いが…だとすればしばらくあまり見たい光景ではないのぅ。目は閉じておくか。怪しまれても困るしのう。
「**--!! ・・-・-!! ・**・-!!」
ふむ。聞いたことがない言語じゃの。
これはまさか…あの世界とはまた違う、ということか?
「--・・-・! ・・**-*!」
おっと、出たようじゃの。背を叩かれておる。
であるならば、こうするのが自然か。
「まああああああ!!! まああああああああああああ!!!!」
おおう。意識せずとも声はこうなるか。なんとも不思議じゃのう…。
そしてやはりそういうことか。
転生。
しかも、記憶を保ったままの。
大昔の失われた魔法にはそういったことを意図的に可能とするものもあったようじゃが…わしはそんなの使えんしのぅ。
悪戯好きという女神の仕業か?
はたまたただの偶然か。
まぁこればかりは考えてわかるものでもないしのぅ。
「・・--**? -・・**-!?!?」
む?こりゃいかんな、今世の母様がどうも危険らしい。
この場には魔法使いはおらぬのか? 早く回復魔法をかけんと不味いぞ?
おうい、父様よ。そんな揺らすと余計に…ぐぬぬ。
…むぅ、おらんようじゃな。慌てふためいてなんぞ道具を用意しておるだけか。
状況がはっきりせん今、目立つのは得策ではないしのう。ばれぬよう隠蔽するか。
(身体損傷弱回復)
「・・**-!? **-*-・・!!!」
ふむ。大丈夫そうじゃの。
そしてついでに魔法も使える、と。
無詠唱も問題なしか。
こりゃぁまた…どういうことじゃ?
わし、状況からして間違いなく転生しとるっぽいんじゃがのう。
むう…情報が足らん。今しばらくはおとなしく情報収集に励むべきか。
言葉もわからんようじゃし、成長まで時間もある。
気長にやっていくしかないのぅ…。
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はいどうも、わしじゃよ。
本日も晴天なり。絶好の洗濯日和じゃな!
まぁ、わしまだ寝とるだけじゃけど。生まれて30日とちょいじゃし。
そんな赤子が動き回っておったら不気味じゃろうからなぁ…。
身体強化魔法やら重力操作魔法使えば動き回れそうじゃけど、今世の両親殿が泡吹いて倒れるかもしれんしなぁ。
自重じゃ自重。退屈じゃけど。
生れ落ちてよりこれまで、動くわけにもゆかんから耳で情報を集めておった。
さすがにまだ言葉まではわからんが、それでも少しは分かったことがある。
まず、やはりここはあの世界とは違う世界だろう、ということ。
知られざる別大陸、とかの可能性は考えたが…夜、窓から見る空に2つの月があった。
こりゃもう確定じゃろうなぁ。
魔法に関しては、存在するようじゃな。
隣に住んでおるらしい、母様の友人殿が魔法使いであった。魔力の流れが初めて見るものであったが、操作浮遊のようなもので土産の果物を運んでおったしの。
であるならば、いずれ不自然ではない時期に魔法の勉強を始めてみるとするか。
自由に使うことができれば便利じゃし、それに異世界の魔法体系にも大いに興味がある。
ああ、それとわしの今世での名じゃな。
ウーサ、というらしい。
不思議な響きじゃがこの世界では普通なのかのう…あまり奇抜でなければよいのじゃが。
いや、母様と父様が考えてくれた名じゃ。大事にしようではないか。
うむ! わしの名はウーサ! ふーははははは!
…ううむ、いかんの。喋り方をどうにかせねばなるまい。
これはあれじゃ、前世で爺様に育てられておったせいで癖になっておるからなぁ。
思えば幼少期も同胞にからかわれたものじゃしなぁ。
すこしずつでも矯正すべきか。うむ、平穏な生活のために頑張るとするか。
……む? ドアをたたく音が聞こえるな。それにこの声。いつもの友人殿か。
魔法である程度無理が利くとはいえ、産後そう経ってないのに無理しすぎるのは感心せんがなぁ。
いや、隣家に歩く程度の運動ならむしろいいのか?
前世では子を産む経験などなく終わったしよくわからんの。相手もおらんかったし。それどころじゃなかったし。うん。
む。友人殿が何か抱えておる。まさか…同日に生まれたという赤子かの?
隣に住む友人同士で同じ日に子を産む。これもまた偶然じゃのう。…偶然、じゃよな?
いやいや、失礼なことを考えるのはやめよう。すまぬ両親殿、友人殿。
まぁ、しかし正直。親友同士の子同士として、興味があったのじゃよなぁ。
前世があれだったから、仲間と言える相手はおっても友と呼べる相手は…いなかったしのう。
うむ! この赤子がわしの未来の大親友になる可能性もあるわけじゃ!
同じベッドへ寝せて覗き込んでおる。母様と友人殿も期待しておるのかの?
これは…うむ! なかなか楽しみになってきたのう…やあ、小さき赤子よ。…そういえば性別は知らんの。
ふむむ…顔ではわからんのぅ。かといってひん剥くわけにもいかんし。
それにしてもなんぞアホヅラしてこっちを見ておるな。わしの顔になにかあるかの?
そんなに目ん玉ひん剥いて。夜の海の如き黒目が転げ落ちてしまうぞ?
む? この赤子黒髪黒目か。友人殿夫妻はどちらとも濃い茶だが…濃い色が出たのかの?
…ん?………んんん?
いや、まて。ちょっとまて。
両親殿に似ていないこの赤子らしからぬ切れ長の目…そして黒髪黒目…?
いや。いやいやいや。そりゃないじゃろ。うん。
おお、そうじゃ。わしの魔力の波長は前世と同じだったからの。
彼奴は魔力を使わぬ戦闘をしておったが、体内魔力はさすがにあるからの。波長は覚えておる。
どれ。魔力感知っと。……ふむ? …………ふ…む…。
……………………は?
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初めての外出はお隣さんの家だった!
まぁ、まだまだ首も座ってない赤ん坊だしね!そんな遠出はしないか!
気を使えば問題なく動き回れそうな気はするんだけど、生後1月で機敏に動く赤ん坊とかマジホラーだからな。悪魔に憑りつかれたーとか殺されかねん。おとなしくしておかなければ…。
文明の度合いわからんけど、家の感じ見る限り日本ほど進んじゃなさそうだし。第二世界と似たような感じかなーっと。
あ、友人ママンこんにちはー!遊びに来たっぽいよ!
というかそうか、同じ日にこの人も赤ん坊産んだのか。すっげぇ偶然だなぁ。…偶然だよな? いや、これ以上考えるのはやめておこう。何もなかったら失礼だし、何かあっても藪蛇だ。
っと、これはベビーベッド!
ということはここに未来の親友候補がいるのかね!
正直楽しみだったんだよねぇ会えるの。
日本じゃ友達いなかったし、第二世界は壊れたおもちゃ状態だったし。うん。
この世界では折角だし楽しく生きていこうと決めたのだ!
母の親友の子供で、全く同じ日に生まれた子! こりゃもう運命ってやつだろう。
運命の相手が俺ってなんか妙な因果背負ってそうだけどね!!…ないよね?
まぁ、うん。折角だし仲良くなりたいしな。何かあっても俺が守ってやるか!
前世での技能も問題なく使えるっぽいからな。体に負担がかかるような大技はしばらく無理だけど。
よっと、母ちゃんありがと。ベッドに下ろしてニコニコしてんなぁ。
やっぱ親友同士だし、子供同士が仲良くなったら嬉しいのかね?
だったらその期待に応えなくっちゃなぁ!!
どうもこんにちは、声かけるわけにはいかんけど!
目で意思飛ばせねぇかなぁ。魔王はなんか念話みたいなのも使えたみたいだけど、俺魔法は全然だめみたいだしなぁ。異世界補正か。
ど! う! も! は! じ! め! ま! し! て!
マ! オ! で! す! よ!
っと。うん無理ゲー。
それにしても友人ママンと同じで綺麗な赤髪だなぁ。いや、ちょい黒混じり? えんじ色っていうのかね? 彼岸花みたいな赤だな。俺は好きだけど。
それに目も光の加減で金色っぽく…ん?
彼岸花っぽい赤髪に金色の目…? どっかで…いや。いやいやいや。ないわーないない。
さすがに…ねぇ? うん。偶然もそこまで行きすぎるとこえぇーって。ないない。
猫っぽいアーモンド形の目とかも確かに似てるけど転生だし前世の特徴なんて…あ、おれ水に映ったの見たけど黒髪黒目に三白眼だったわ。赤ん坊にあの目つきの悪さヤベェって。
え…? あー。うん。とりあえず…魔力の波長をば。
不意打対策にこれだけはしっかり覚えてたからなぁ。できなきゃ死ぬし。初級魔法だからこれなら無詠唱でも行ける。
ほい、魔力感知っと。………あー。なるほどそういう…。
……………………。
……………………………………ふぁっ!?!?!?!?
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至近距離から見つめあう二人の赤子。
それは最後の時、這いずり寄った勇者と、抱き寄せた魔王と似たような位置であった。
ただただ目を見開きみつめあう二人を何も知らない母二人は知らない人でびっくりしちゃったのかなー? 仲良くなれるかなー? などとほほえましそうに眺めている。
当人たちの胸の内の混乱などいざ知らず。
たっぷり数十秒みつめあった二人は、大きく息を吸い。
混乱をすべて吐き出すかのごとく、互いに叫びあっていた。
「だああおおおおおおおおおおおううううううう!?!!(まおううううううう!?!!)」
「どぅううあああああああああああああああああ?!?!(ゆうしゃあああああ?!?!)」
かつて世界の悪意に翻弄され命を落とした二人の勇者と魔王。
死んだ後何の因果か、互いに記憶を引き継いだまま転生を果たしたようである。
隣に住む親友同士の子として、同じ日に、というおまけつきで。