5月20日(月) 憂鬱な曜日
「月曜日……だるいー……」
朝補習の終えた、SHRまでのつかの間の空隙。
疲れた様子で、伸びる猫のように机に突っ伏すかなたは、ため息を吐きつつそんなことをボヤく。
「あれ、かなちゃんって月曜日きらい……?」
それを心配してか、菊池さんは椅子をそのままに身体だけ後ろに向けて声を掛けていた。
その一方で俺はといえば……後ろに座るアドバンテージを活かし、その背中をツーっとなぞる。
「…………嫌い」
――のだが、男が触ってはいけないような金属製の紐のような感触を覚えて手を離した。
「……一番嫌い。来なければいいのに」
「でも、何で?」
純粋に尋ねられた質問に対し、気だるげに頭を起こすと彼女はこう答える。
「休みが終わって、これから五日間も頑張らなきゃいけないなんて辛いじゃん……」
まぁ、言わんとすることは分かる。
月曜日は憂鬱だ――と絶望する社会人の話もよく聞くしな。
「逆に詩音は嫌じゃないの、月曜日?」
「私? 私は……どっちかと言えば日曜日の方が嫌いかな」
そんな返答に、意外そうにかなたは首を傾げた。
「日曜日……? 何で?」
「だって、その日を休んだとしても次の日からは忙しくなるでしょ? 何だかのんびり休める気がしなくて、あんまり好きじゃないかな……」
なるほど、そういう考え方もあるか。
ということは、菊池さんは連休が好きなタイプなのかもしれないな。
「そらは? どうなの?」
ともすれば、矛先は突然に俺の方へと向く。
「か、かなちゃん……! そんなこと急に聞いても、いきなりすぎて蔵敷くんは答えられないよ」
「いや、そらのことだからどうせ聞いてたでしょ? さっきも背中をさすってたし」
…………ちっ、当たりだよ。
盗み聞きは印象の悪い行いであるが、今更取り繕ってもしょうがないと感じて俺は答えた。
「……水曜日だな、嫌いなのは」
「へぇー、何でだ?」
しかし、それに反応したのは女性陣ではない。
低い声は後ろの席から届き、菊池さんの声音がワントーン上がる。
「しょ、翔真くん……!」
「ごめんね二人とも、話が聞こえたからさ」
おぉ、何とも自然で爽やかな返し。
今度から盗み聞きを肯定するときは俺もそれを使おう。
…………それはそうと、俺が水曜日を嫌う理由だったっけか?
「せっかく二日も頑張ったのに、残り三日もあるからな。折り返しってのは、どうしてもマイナスイメージが強い。だから嫌いだ」
「それ、単にそらがネガティブなだけだと思うけどな。ほら、よく言うだろ? マラソンで折り返しに到達した時、『まだ半分か……』と思うか、『もう半分か』と思うかって」
まぁ、あるな。
それでもって、確かに俺は後者の考えを持つことが多い。
部活の外周をする時も、絶望に暮れながら走っているし。
「あれ……でも蔵敷くんって、そんなにネガティブだった……?」
「いんやー、別にそらはネガティブってわけじゃないよ。出来ることはできる、出来ないことはできないってハッキリ言うだけで」
その後に、「文句の大半はただの憎まれ口だしね」と続けるが余計なお世話だ、このやろう。
「…………で? そういう翔真はどうなんだよ。嫌いな曜日はないのか?」
茶化されたことが気に食わず、肘をつき、そっぽを向いて尋ねる。
だというのに、浮かべられた笑みも答えも、どちらもが眩いほどに輝くものだった。
「……別にないな。毎日、楽しいし」
かぁー……カッコイイなぁ、おい。
結局は人生楽しんだ者勝ち、余裕のある奴が最強なのかもしれない。





