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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
April
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4月5日(金) 始業式

 春休みも明け、今日から始業式。

 

 家から最寄り駅まで歩いて十分。そこから電車で十五分。グラウンドを迂回するように歩いて五分の距離に、俺たちの通っている高校はある。


 植えられている桜の木は桃色の花を咲かせ艶やかであり、道行く人を祝福しているようだ。

 そこを抜ければ上り坂。脇に建てられた体育館や部室棟を過ぎ、校門へとたどり着く。


 立地の条件上、そこからさらに階段を上らなければならず、そうしてようやく校舎へと入ることができた。


 俺たちの教室があるのはその中でも実習棟と呼ばれる場所。


 漢字の『日』を想像して欲しい。その右上角が繋がっておらず、一番下の横線を消して反時計回りに九十度回転させた形が校舎を上から見た造形だ。


 その下側を教育棟、上側を実習棟とこの学校では呼んでいる。

 であるため、棟同士を繋いだ渡り廊下を歩き、さらに上の階へと俺たちは進んでいた。


「――って、どこ行くんだよかなた」


「……? どこって、教室」


 そう言って指差したのは、つい数週間前まで通っていた一年一組の教室。

 その事実にため息をつき、俺は隣の教室を指差し返した。


「……お前、留年したの?」


 そこは二年一組の教室。

 首を傾げパチクリと目を瞬かせていた彼女だったが、ポンと手を打ち納得する。


「おぉー、そうだ。今日から二年生だった」


 トテトテと駆け俺の隣に再び立つと、一緒に教室の扉へ手をかけた。


 とは言っても、広がる光景は何一つ変わらない。

 机や椅子はどの教室でも共通のものを使っているし、俺たちが所属する学科は一クラス分しかなく、メンバーが変わるわけでもないからな。


 前の黒板にはA四サイズのプリントが一枚張り付けられており、各人の座席が割り振られている。

 俺の席は――っと、黒板を向いて右から二列目・前から五番目か。


「私の名前は……なんだ、そらの前か」


 かなたも自分の席を見つけたようで、つまらなそうにそう呟く。


「てか、当たり前だろ。出席番号順なんだから」


 俺が蔵敷。こいつは倉敷。

 漢字が違うだけで読みが一緒な俺たちは、どう足掻いても前後に並ぶ運命なのだ。


「よっす! お二人さん、相変わらず仲がいいな」


「かなちゃん、蔵敷くん、おはよう」


 そんなことを話しながら席へと近づくと、顔馴染みから声を掛けられる。


「おぉ……翔真、菊池さん、おはよーっす」


「はよー」


 俺とかなたは互いに、自分の席に鞄を置くとそれぞれに挨拶を返した。

 そうして席に着けば、体を横に向け俺の後ろ――畔上翔真の方へと向く。


 かなたも、そのまま前の席に座っている菊池さんと歓談を始めた。


「そら、昨日は何してたよ?」


「あ? 別に、かなたと勉強会。あいつの得意な文系を教えてもらって、俺が理数系を教えた」


「あぁー、やっぱりか……。こっちもそっちに行けば良かったかなぁ」


 いきなりの質問に答えてみれば、何やら嘆かわしそうに悔やむ翔真。

 その妙な言い回しが気になった。


「こっちも……? お前の方は何してたんだよ?」


「いや、こっちも勉強会だよ。詩音さんに誘われてファミレスでやってたんだけど、どうしても解説できない問題がいくつかあってな……。そらなら解けるだろ」


 さも当たり前のように言っているが、それは買い被りすぎだろ。

 学校のテストでは常に一位。外部模試でも二桁以内をキープする学園の王子様に教えられることなんてありはしませんよ。


 そう告げてやると、苦笑を返される。


「いやいや、それは文系が壊滅しているからだろ? 理系なら俺と点数変わらないじゃん」


 とは言ってもねぇ……。

 それに、俺らが行けば確実に邪魔してしまう事象があるだろ。翔真には教えられんことだが。


「……まぁ、聞かれたら答えるわ」


 肩を竦め、社交辞令的な返答をすれば、何故か笑顔で迎えられる。


「じゃあ、教えて♪」


 机にはすでに広げられた問題集が。 

 しかも、二人でも見やすいように向きを横に向けており、解き方を記録できるようルーズリーフとシャーペンも用意されていた。


「はぁ……。いいか、ここは――」


 朝っぱら。それも休み明け一日目から俺は何をやっているのだろうか。


 まぁ、学生としては健全で正しい振る舞いなのかもしれないけどな。

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