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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
April
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4月30日(火) 突撃、隣の遊び場所

「暇だから、そらの家に行こう」


 適当に用意した料理を食べながらテレビを流していた昼下がり。

 ふと思い付いたように、幼馴染は声を漏らした。


「……別にいいけど、何もないぞ?」


 けれど、一人っ子で休日は引きこもり体質な俺の部屋には他人と遊べるような何かは存在しない。

 そう思っての発言だったのだが、かなたはすぐに否定する。


「あるじゃん。ゲームに漫画に小説にパソコン――」


「パソコンはダメだ。大人しくPZ4かzwitchで遊んでてくれ」


 すかさず守りにはいる俺。

 検索などでチョロっと使わせるならまだしも、暇つぶしに使われるのは困る。ドライブの中を覗かれたりしたらたまったもんじゃないしな。


「えー……まぁ、それでもいっか」


 不服そうながらも渋々とかなたは了承した。

 てか、俺の部屋を使わせる話なのに、なんでお前が上から言ってんだよ……。



 ♦ ♦ ♦



 というわけでやってきた我が家。

 とは言っても、着替えを取りに来たり洗濯を回しに来たりとしていたため、特に久々という感覚もない。


 かなたも我が家同然の様子で俺の部屋へと直行すると、棚からいくつかの本を取り出してベッドへダイブした。


「おい、あんまり激しくするなよ。マットレスのコイルがダメになるから」


「ういー」


 聞いているのかよく分からない返事。

 視線は既に本へと固定されており、物語の世界へと没入している。


「んじゃ、俺は洗濯やら掃除をしてくるからな」


「あいあーい」


 手だけがこちらに向けて振られた。

 ということは、一応は話を聞いてくれているようだ。


 そのまま部屋を後にして一階へと降りると、脱衣場へと向かう。

 そこには洗濯機が設置されており、手前にはお風呂に入る際に脱いだ服をそのまま入れられるカゴも置いてあった。


 そのカゴを覗いてみるが、中は空っぽ。

 タオル一枚さえ入ってはおらず、外を覗きに行けば湿った衣類が干されている。


 多分、父親が仕事の前にやったのだろう。


 ならばと、隅っこに鎮座する掃除機を手に取り、家中の埃を吸い取って回った。

 耳に響く駆動音。角の隅々、カーペットの上、家具の隙間、あらゆるところを走らせて丁寧にしっかりと綺麗にしていく。


「ふぅ、あらかた終わったか……」


 一階から二階までの全フロアを制圧した俺は、一息つくと自室へと戻った。


「おー、おつかれさま」


 ちょうど持ち寄った分を読み終えたのだろう。

 再び本棚の前で立っていたかなたに声を掛けられる。


「けどさ、ココってホントに本多いよね。何冊あるの?」


 新たに持ち出しベッドへ横になるかなたがそう尋ねると、俺は思案しながら椅子へと座り込んだ。パソコンのスイッチを入れることも忘れない。


「さぁ、数えたことないからなぁ……。多分、二百冊くらい?」


「ありすぎ……。元々そんなに本読む人だったっけ?」


 きっと、辟易とした表情をしているのだろう。

 ディスプレイに写ったログイン画面を前にカタカタと打鍵しながら俺は答える。


「小五くらいから色々と本は読んでたけど、本格的に買い始めたのは中二の頃じゃなかったかな。中学から小遣いを貰い始めたし」


「ふぅーん、そっか……なら、私が知らないわけだ」


 ポツリと呟かれた言葉が浅く胸に突き刺さった。

 無言でマウスを動かし、適当なニュースサイトやSNSを回ってネットサーフィンをする。


 その中の一つに、「あっ……」と思わせるものを見つけた。


「……そういや、今日が平成最後の日だっけ」


「あれ? そうだっけ……?」


 興味を持ったのか、読み止しのページを指ではさんで寄ってくるかなた。


「おう。ほら、明日が天皇即位で年号が『令和』に変わるから、今日が最後の日」


「ほぇー、私たちもとうとう年号の節目に立ち会えるんだ」


「だな。そう思うと、俺らの親は二回それに立ち会っていることになるけど……」


「昭和と平成で、ね」


 しかし、時代が過ぎ去るのは早いもの。

 それと同時に、何事もないように静かに通り抜けていく。


 だからこそ、今の今まで年号が変わることを忘れていた。

 あれだけニュースで特集されていたのに。


「でもまぁ、だからって何も変わらないけどね」


 かなたも同じことを思ったのか、こんな言葉が耳に入る。


「……だな」


 静かにベッドへと戻る幼馴染を横目に、俺も小さく頷いた。


「あっ、そうだ。明日は映画に行こうぜー」


 かと思えば、すぐにこちらへ寄ってきて一緒に画面を覗き始める。

 ……忙しないヤツめ。


「映画って、どれ?」


 近場の映画館のホームページへとアクセスすると、現在上映中の映画一覧を画面に写した。


「これー」


 その一つ――探偵モノのアニメを指差す。

 毎年新作の劇場版が出ており、漫画も百巻に到達しようかという程の有名作品。


「おっけー、席は?」


「どこでもいいよ」


 というわけなので、中央から少し後ろの席の通路側を連番で選ぶ。

 ちょうど一箇所だけ空いていて助かった。


「相変わらず、そこ好きだね」


「ベストポジションだろ。映画が終わったらすぐに抜けられるし、かといってスクリーンが大きいおかげで別に見にくくもないし、隣に知らない人が座っても通路側に身を寄せられる」


 我ながら完璧すぎるポジションだ。

 ぼっち映画を楽しんでくれている方にはきっと分かるはず。そう信じている。


 カチカチとクリックをして先へと進んでいき、最終確認画面まで向かうと一度かなたにも画面を見せた。


「これでいいよな?」


「うん、問題なし」


 満足そうで何より。

 購入の文字へとカーソルを合わせ、シングルクリックをすると――何故かエラー画面が現れる。


 そこには一言。


『お客様の選択された座席は既に埋まっております。まことに申し訳ありませんが、席を選び直してください』


「ありゃりゃ……」


 一部始終を見ていたかなたも流石の展開にこの言葉。

 無言でもう一度席の一覧を見てみれば、案の定、通路側の席は全て埋め尽くされている。


「……ちっ、誰だよ間が悪い」


 早い者勝ちで怒っても仕方ないのだが、それでも怒りは湧いてくる。


 先程まで選んでいた席の隣二席を再び選び、同じ手順で先へと進めば、今度はしっかりと購入完了まで手続きが済んだ。


「まぁ、運が悪かったね」


「…………本当にな」


 予約完了のメールを受け取ったスマホが震える。

 そのバイブさえもが肯定してくれているように、俺は感じた。

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