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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
April
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4月24日(水) ハッピーバースデー①

「せーの……」


『誕生日おめでとう!』


「菊池さん」

「詩音」

「詩音さん」


 現在はお昼休み。

 早々に弁当を食べ終えた俺たちは、当初より予定していたプレゼント渡しを行っていた。


「まぁ、まずは俺からだな。はい、コレ」


「あ、ありがとう……蔵敷くん」


 差し出したのは、普通に包装された直方体の箱。

 店員にお願いして包んでもらっただけの簡易なソレを開ければ、中にはメモ帳と付箋のセットが入っている。


「へぇー、カバーにクッションが入っているんだ……」


「そそ。枕ノートって商品名で、その名の通り枕としても扱えるらしいよ。まぁ、そういう使い方をしなくても、見た目的に良いかなって思ってのチョイスだけど」


 そしてもうひとつの付箋は、かなたから教えてもらった菊池さんの大好きなキャラクター付箋だ。


 なるべく普段使いもできるようなものを選んだので、大丈夫だと思いたい。


 一頻り喜んでもらえた後に渡した次の人物は翔真。


「はい詩音さん、俺からも」


 細長い、ペンケースにも似た箱を差し出すと、何故か菊池さんは驚いたような視線を向けていた。


「えっ……なん――」


 途中まで紡がれた言葉が不自然に途切れる。


「――……ありがとう、翔真くん」


 お互いににこやかな笑顔を交わす二人。

 けれど、その少し前に妙な目配せをしていた男がいたことに、俺は気づいていた。


 そうして箱から姿を見せたのは、木目がオシャレな木製のシャープペンシル。

 天然木らしく、柔らかくも上品なデザインとなっている。俺も欲しい。


「……わぁ、素敵!」


「本当は名前やメッセージを表面に入れることもできたんだけど、俺が詩音さんの名前を入れるのもおかしな話だし、『Happy Birthday』なんて入れるのも見栄え的にどうかと思って止めたんだ。ごめんね」


「うぅん、すごい嬉しい……! ありがとう!」


 そんな心温まる光景を目の当たりにしていると、ツンツンと肩をつつかれた。


「……ねぇ、畔上くんにしてはチョイスが普通じゃない? 身に付ける系のあざといやつだと思ってた」


 見やれば、かなたが耳に口元を寄せて話しかけてくる。

 そして、予想が鋭い。


「女性が相手だから気を使ったんじゃねーの? ほら、アイツにはファンが多いから、下手なものあげると嫉妬でどうなるか分からんだろ」


 まぁ、だからこうやってカモフラージュまでして、あの石のストラップをあげたんだろうけどな。


 イケメンって大変だ。


「…………そっか」


 納得したのか、渋々と引き下がった。

 そして最後が、その彼女の番である。


「詩音、コレどうぞ」


 そう言って手渡したのは、これまでの男性陣とは少し異なり、オシャレにデコレーションされた紙製の袋。ドーナツ屋やパン屋で包まれる系のアレ。


「かなちゃんも、ありがとう!」


 中身を取り出せば、そこには一緒に行った買い物で購入していたヘアアクセサリーと、そしてマスキングテープだった。


「……あっ、このヘアアクセ…………」


「そ、詩音と一緒に見に行ったやつだよ」


 そして同時に、俺と買いに行ったやつでもある。


「やっぱり可愛いなぁ。さすがに学校には付けてこられないけど……」


「だねー。プライベートのお供にして」


 だがまぁ、ブレスレットとしても扱えるという話だったし、装飾華美で校則違反の扱いを受けることだろう。

 それ故に紡がれた会話だった。


「わー、こっちのマスキングテープも可愛い……!」


 また、一緒に入っていたもうひとつのプレゼントへと話題は移る。


 こちらは俺にも心当たりがない品物なのだが……おそらくは、俺がプレゼントを買った店で見つけたのだと思う。

 会計の時は、互いに別行動をしていたしな。


「うん、だと思った。詩音が好きそうな柄だったから、一緒に買ってみたんだ」


 かなたがそう伝えれば、菊池さんは嬉しそうに頷いて俺たちのプレゼントを抱える。

 何度もお礼を言いながら――。



 ♦ ♦ ♦



「……で、何を隠してるの?」


 昼休みも終わり五限目に入ろうかという最中、背もたれに体重を預けたかなたは俺にそう問いかけてきた。


「……は? 何のことだ?」


 しかしまぁ、心当たりが全くと言っていいほどにない。

 いくら俺たちの仲とはいえ、目的語は明確にしてもらわないと汲み取れんぞ。


「畔上くんのプレゼントのこと。そら、何か隠してるでしょ?」


「…………………………………………」


 だからか、咄嗟のこと故に何も答えられなかった。

 わずかな沈黙が過ぎ、俺はようやく口を開く。


「……なんでそう思った?」


 そう問えば、少し悩んだように小首を傾げ、語尾に疑問調を残したままこう答えた。


「んー、何となく……?」


「…………そうかい」


 なんという勘。最早どうしようもない。

 チョイチョイと手招きをすると、後頭部をペタンと俺の机に乗せて俺の顔を見上げるような姿勢を取る。


 俺はその耳元に口を寄せた。


「……あくまで俺の予想だぞ? だから、本人たちにも伝えるなよ」


 コクリと小さく頷かれる。


「菊池さんがこの前から石のストラップを付け始めただろ?」


「あぁー、うん。あったね。……というか、今もあるね」


「それ……多分、翔真の本命のプレゼントだぞ」


 俺の言葉に、静かに姿勢を戻したかなたは前の様子を窺う。

 同じように俺も見てみれば、こっそりと、しかし確かに指先で例の石を突っついて遊んでいた。


 それも、口角が僅かに上がった状態で。


「マジか……畔上くん、やるなー」


 …………違いない。


 入れ違いに登場した先生のせいで伝えられなかった返答を、心の中でそっと呟いた。

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