10月6日(日) 橋本七海の日常①
ここは、玫瑰花女学院高等学校。
『県花の如く、気高い女性であれ』をモットーに、様々な分野における有名な女生徒ばかりを集めた、道内でも有数の有名校である。
存在する学科は三つのみ。
まずは僕も所属する、部活動の所属と活躍が義務付けられた――活動学科。
続いて、高い偏差値を誇る――学業科。
最後に、先の二つの要素を合わせ持つ――総合学科。
それぞれが二クラス、二クラス、一クラス存在し、各学年で五クラスずつ。
全校生徒は合わせて四百五十人ほどの僕の学校だ。
――というわけで、今日も部活のためにやってきた僕。
練習着に着替えるため上半身をさらけ出せば、ロッカーに置いたスマホが点滅していることに気付く。
「――――ふふ」
格好もそのままに中身を確認すると、その内容に思わず笑みが零れた。
「なっなみーん! なーに見てるの?」
ともすれば、背後から首に回される腕。全身にかかる重み。
負ぶさるようにしがみついてきた親友の顔が、僕のすぐ横に並ぶ。
「ていうか、相変わらずいい匂い……」
「何だ、一愛か。もう……びっくりしたよ」
首筋に顔をうずめ、息を吸い込む少女の名前は松本一愛。十七歳。
総合学科に所属する同級生であり、お下げ髪がトレードマークの彼女であるが、ギリギリ百五十センチにも満たない低身長故に、抱きつくその身体はかなりの高さまで持ち上がっていたり……。
取り敢えず、僕は屈んで一愛を下ろす。
スタッと着地をした彼女は、僕の隣のロッカーを開いて着替えを始めた。
「にしても、ななみんの胸はいつ見ても大きいねー」
僕もまた、中断してしまったスマホの操作を再開しようとした矢先、今度はそんなことを告げられる。
「そう、かな……?」
目線を下に向ければ、見えるのは白の下着とそれに支えられた胸の谷間だけ。
試しに触ってみても、ワイヤーの硬さと手が沈み込む感覚しか感じられない。
「でも、僕以上の人もこの学校に結構いるよ」
「いや、結構はいないから……。せいぜい十数人とかだよ」
一愛の言うような、そんな貴重なものには思えず言葉を返すと、彼女は呆れたようにため息を吐きながら首を振った。
「――てことで……そのお胸、ちょっーとだけお借りしてもいい?」
「えっ……あ、うん。別にいいよ」
「即答!?」
僕の返事が意外だったのか、一愛は驚きの表情を浮かべる。
「てか、嘘……本当にいいの?」
再度確認をされるので、僕もまた再び頷いた。
「うん、何を手伝えばいいのかは知らないけど、僕にできることなら――」
と、しかし最後まで言い切ることなく、生唾を飲み込んだ彼女は僕の胸をわしづかむ。
しかも、下着の下から手を滑り込ませるように差し込んで……。
「――って、えぇ!? なんで? なんで、僕の胸を触るの!?」
あまりの出来事に、僕は飛び退いた。
その影響で零れる胸を抑え、器用に下着の中へと収めながら抗議をすれば、手をワキワキと動かす一愛は困惑したように答える。
「いや、だって……胸を借りてもいいって言って……」
「む、胸を借りるって、『物事に付き合ってもらう』っていう意味なんじゃないの!?」
夏の全国大会の時に、そらくんから教えてもらった言葉。
その意味だと思って僕は了承したのに……。
そらくんか、はたまた一愛か。
どちらにしても友達に騙されたということは変わらず、ショックを受けてしまう僕に対して、目の前の彼女はバツが悪そうに頭をかいた。
「あー……ななみん、その言葉知ってたんだね……。分からないだろうから、むしろ言葉通りに受け取ってもらえる――って思って、質問したんだけど……」
「ぼ、僕でもそれくらい知ってるからー!」
酷い言われように怒る僕だけど……嘘です。実は知りませんでした。
そらくんの時は、逆に言葉通りの意味に捉えて彼を呆れさせてしまったっけ……。
けど、ちょっとは僕の方も満更でもなかったり――って、違う違う! 今はそういう話じゃないよ。
「ごめんね、ななみん。……二重の意味で」
手を合わせ、頭を下げる親友。
お互いに下着姿だというのが妙に格好つかないけど、僕は笑って許す。
「うん、もういいよ。気にしてないから」
そう答えて、握ったままだったスマホをロッカーに置いた。
さぁ、今日も練習を頑張ろう。
――だから、そらくんも頑張ってね♪





