表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
September
184/284

9月20日(金) プール in スクール

「――そういえば、この学校ってプールの授業がないよな」


 もしゃもしゃと、みんなで昼食を囲みながらの時間帯。

 そんな折に、ふと思い付いた話題を俺は口に出す。


「そうだな」

「う、うん……」

「……もぐもぐ」


 しかし、一年以上もこの学校に過ごしていれば……いや、たとえ過ごしていないとしても知っている人の方が多いであろう事柄に、一同の反応は冷たい。


 だが、これはただの前振り。

 本題はここからだ。


「けどさ、プール自体はこの実習棟の屋上にあるんだぜ」


「あぁ、知ってる」

「というより、その……校舎の外からも見える、よ?」

「……ココアうまうま」


 あれ……冬って、まだだよね?

 なんか異様に空気が冷たいのですが……。


 しらーっと向けられる視線は存外に居心地が悪く、ついつい身動ぎをしてしまう。


 きっとアレだな。

 秋にプールなんていう季節外れの話題を振ったから、余計に寒く感じるんだ。


 というわけで、こうなったら最後までやりきるつもりで更に季節外れなネタをぶっ込んでみよう。

 ……ちゃんとプールに関係あるしな。


「じゃあ、そのプールが使われなくなった原因は知ってるか? 何でも、屋上から生徒が飛び降りて死んだ事件が過去にあったらしく、それ以降は溺死する事故が増えたから――らしいぞ」


 それは怪談。いわゆる、怖い話。

 体の芯まで凍りつかせ、夏の暑さを吹き飛ばす定番の風物詩である。


「あれ……? 俺の知ってる話と違うけど……」

「わ、私も……」

「……このチョコ、うま。そらも食べてみて」


 のなへの、んしひはな(のだけど、不思議かな)

 |のほっていたはんのうのは《思っていた反応とは》…………ごくん、全く違っていた。


「俺は、プールを作ったはいいけど予算不足で耐久性が足りなかったせいで、水を貯めたら天井が抜けて崩壊するから――って聞いたんだけどな」


 何それ、ある意味怖い。

 というか、今も尚その予算カツカツの校舎に居座っている事実が怖い。


 …………ジャンプしたら、床が抜けそう。


「私は……その…………附設大学の校舎から盗撮する人が多くて、しかも、それを人に売ってたから――って……」


 これもこれで、別の意味で恐怖の対象だな。特に女生徒は。

 でもまぁ、確かに屋上という場所は人に見られている感覚が少ないし、まさかそれより上から撮られてるなんて中々思うまい。


 正直にいえば、よく犯人に気付き捕まえたものだと感心する。


「うぁ……手にチョコが付いた……。……舐めよ」


 しかし、こうも噂があるとは……どれが本当か分かったもんじゃないな。

 一様に悪い側面から使用禁止になっていることだけは分かるが、はてさて……。


「――それ、どれも嘘ですよ」


 その時、耳元に甘く囁かれ、身体がビクリと反応する。

 周りにいた友人らも、突然の登場人物に目を剥いていた。


『せ、先生……』


「はい、先生です」


 立っていたのは、我らが担任の三枝(さえぐさ)(はるか)教諭。

 お茶目に口元に指を当て、年甲斐もなくはしゃいだ様子で現れる。


 ……まだ昼休みはあるし、次は英語の授業でもないのに、何でここにいるんですか。


「それで、そのプールの話ですけど、皆さんの話した噂はどれも荒唐無稽。出任せです。狂言です。真実なんてどこにもない、ただの作り話ですよ」


 どこから聞いていたのか。

 なぜ聞いていたのか。


 事態をさっぱり飲み込めないけど、先生は全てを理解した様子で会話に入ってきた。


「じゃあ、本当の理由を何ですか?」


「はい。実は、プールって結構お金がかかるんですよ。水道代だったり、維持費だったりで。なのに、利用は夏だけですし、屋上に水を貯めるって大変ですし、単純に費用対効果が悪かったのです。だから、利用を止めたわけです」


 うわ、世知辛っ!

 思わぬ真相に、一同は何も反応できない。


 やはり真実とは、暴いても虚しいだけの悲しきパンドラの箱なのかもしれないな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらも毎週火曜日に投稿しておりますので、よければ
存在しないフェアリーテイル


小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ