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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
September
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9月6日(金) リハーサル

 体育祭を明日に控えた今日という日。

 そのリハーサルと会場設営が、今回の主だった目的である。


 とはいえ、後者は部活動生のお仕事。

 そのため、いつも通りに朝からグラウンドへと集合した全校生徒の半分ほどは、午前中いっぱいで帰宅となるだろう。


 ……羨ましい限りだ。


 さて、そんなわけでリハーサルということになるのだが……行われることといえば、動きの確認がメイン。

 すでに計画されているプログラム通りに進行していき、アナウンスなどを元に入場門へと整列して、退場までの流れを復習(さら)っていく。


 この際、当たり前ではあるが競技は行われず、入場した後は協議が終わった体ですぐさま退場していくだけ。

 例外なのは、最初の開会式における入場行進と応援合戦くらいだ。


 前者は行進のルートや、その後の開会式での準備体操などの整列確認。

 後者は決められた時間に定められた時間内に演武を終わらせられるかの予行演習としてフルで実施される。


 なので、本日の練習の殆どがその様子をただ見守る時間でしかなく、体力というよりは暑さと暇との勝負であった。


 でもまぁ、疲れないという意味では悪くない。

 本番当日は、応援パネルをする兼ね合いで自分のブロックの応援合戦の内容は見られないし、そういった点ではむしろラッキーだったりする。


「しかし……高校の体育祭は練習が楽だよなぁー」


「……分かる」


 現在、行われているのは『障害物競走』。

 やる気のない若人らが実行委員の先導に従ってスタート位置へと移動していく様子を、スタンド席から文字通り高みの見物でもしつつ、俺はそう呟いた。


 そして、賛同してくれるのは同じ中学でかつ、幼馴染のかなた。

 昨日の不調もどこ吹く風で、同様に座ってグラウンドを眺めている。


「えっ……そ、そうかな……?」


 一方で、菊池さんは納得しがたいらしく、首を少し傾けた。


「そっか……菊池さんの学校は、ここと似た感じの練習内容だったんだな」


「…………羨ましい」


 昔を懐かしみ、羨望の目を二人して彼女に向ける。

 ウチのは最早、練習というより訓練。学校というより更生施設のレベルだったからな。


「なにせ、入場行進の時は『拳を握って目の高さまで振れ』、『脚の付け根、膝はそれぞれ直角になるまで上げろ』、『隣の人と上げる腕と足、歩幅を合わせろ。ただし、前は向いたまま横目と気配だけで察知な』、『カーブの時も横一列合わせろ。外側は歩幅を大きく、内側は小さく』、『声を張れ』――って散々言われたからな。しかも歩行速度は遅いわ、待機中もその場足踏みやらで二・三十分くらい延々とそのままだし」


「……ダメな人が一人でもいたら、やり直しもあった」


「そのくせ、上手くいったらいったで『もう一回』ときたもんだ。……マジでふざけんなよ、あの体育教師どもが」


 本当に、この学校とは大違いである。

 適当に歩こうが、声を出さなかろうが怒られることのないこの学校とはな。


 まぁでも、その経験があったからこそ今の幸せを噛み締めていられるというのもまた事実。

 怪我の功名……なのかもしれん。


「――てか、翔真はどうなんだよ? さっきから会話に入ってこないけど」


 果たして、厳しかった学校か、否か。

 ボーッと何かを考えるように一点を見つめていた親友に声を掛けた。


「えっ……? あっ、悪い……何の話だ?」


 こちらに気が付くと同時に、珍しくも彼は取り乱す。


「だから、中学校の体育祭だよ。この学校より厳しかったか?」


 再度、要約して話の流れを教えるも、しかし今日は歯切れが悪かった。


「あー……いや、どうだったかな……。……悪い、忘れた」


「おいおい、まだ二年前だぞ」


 呆れた笑いがこみ上げて仕方ない。

 勉強のし過ぎで、昔の記憶から上書きしていってるんじゃなかろうか。


「それより、次は『男子・棒引き』だぞ。そらの番だろ?」


「何だ、もうそんな時間か」


 渋々と立ち上がった俺は、スタンド席を下りていき、すぐ横に併設された入場門前へと移動する。


 その際に目に入る生徒たちの様子、ブロックパネルがまだ掲示されていない武骨なスタンド席、まっさらなグラウンド。

 どれもが準備不足で、逆に本番の前日だということを痛感させてくれた。

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