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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
August
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8月29日(木) 湿気

 本日もまた雨天なり。

 けれど、規模は昨日ほどでもなく学校も交通機関も平常運転であり、午後から始まるいつもの体育祭の練習はそれぞれのブロックが体育館や武道場など、この学校に存在する屋内施設に分かれて行われていた。


 さて、ここで余談なのだが、この学校はマンモス校である。

 一学年だけで六百から七百名ほどの生徒が存在し、それが三学年分であるため、ざっと合わせて二千名ほど。


 体育祭では、赤・青・黄・白と四ブロックに色分けするため、一ブロックあたり約五百人。

 その数が室内に篭もったら、一体どうなるのだろうか。


 まだ残暑もある。雨で窓も碌に開けられず、また湿気が酷い。

 汗が滴り、それがまた蒸気へと昇華する悪循環。


 いわゆるサウナ状態である現状に、この場にいる全員が不快感を示していた。


「暑っつい……」

「あぁ、これはさすがに……辛いな」


 故にか、口を開くのは俺と翔真のみ。

 俺の隣に座っているかなた、そしてその向こうの菊池さんはドミノ倒しのようにこちらに倒れ込み、ダウナー気分を全面に押し出している。


 しかし、だからといってしてあげられることは特にない。

 一応、こっそりとポケットに忍ばせておいた扇子で自分にも風が当たるように二人を扇いではいるけれど、このムワッとした熱気では逆効果な気がしないでもなかった。


「…………そういや、最近の日本は『暑いことで有名な国』の出身者からも苦言を吐かれるくらいに暑い――って、ネットで見たっけ」


「……だとしたら、いつか世界で一番熱い国なるかもなー」


 なんとバカげているのだろうか。

 この気候も、俺たちの会話も。


 茹だるような熱気は頭の回転を鈍くし、会話に全く実が生まれない。

 脳死で、思い付いたままの言葉を口に出していくこの作業を会話と呼んでいいのかさえ、甚だ疑問ではあるけれど……。


「……でも、なんでこんなに暑いんだろうな。温暖化か……?」


 放たれた疑問。

 誰も答える者はいないであろうと思われた問いであったが、すでに答えを知っている――もとい、自己完結していた内容であったので、間髪入れずに俺は答えた。


「それもあるけど、一番の理由は湿気だろうな。空気中に水分が多いだけ、どうしても暑くなる」


 だから、恨むべきは湿度なのだ。

 それは島国であるがために定められた運命なのかもしれないが、でもやはり、許してはおけない。


「冬も同じだ。寒い日は湿度が高い方が、体感温度は低くなる。だから意外に思う人も多いけど、下手な北海道の地域よりもこっちの方が寒いからな」


 日本では九州は南に位置するから――なんてイメージで暖かいと思われがちだが、そんなことはない。

 地図帳を引っ張り出してみろ。福岡なんて、東京と緯度はそんなに変わらないぞ。


「そうか……。なら、どうしようもないな」


「だな。除湿機能付きのクーラーとか設置してくれたら話は変わるんだろうけど…………てか、私立なんだからそれくらいやれよ」


 不満が募って仕方なかった。

 何度拭っても汗は滲み、その徒労も、肌着が濡れる感覚も、聞こえる雨の音も、今は全てが煩わしい。


 この街も、この国も、俺はそこそこに好きだけれど、毎年夏に訪れるこの湿度による不快感だけは憎むほどに嫌いだな――と改めて思う今日この頃であった。

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