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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
August
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8月26日(月) 学業再開

 夏休みが終わり、いよいよ学校は通常営業。

 とはいえ、補習から部活までお盆を除いてほとんど登校してきた俺たちからしてみれば、取り巻く現状にそれほどの差はなかったりする。


 言ってしまえば、『午前授業からの午後練』が『午後まで授業からの夕練』へと変わっただけ。


 まだ朝補習も始まっていないため、これまで通りの時間に起き、いつも通りの電車に乗って、普段通りの登校。

 気になったことといえば、補習のないウチの学科や他校の生徒の分だけ乗客が増えたせいで、混雑が酷くなったくらいか。


 何にしても些細な変化だ。


 それらを乗り越え、教室へと辿り着けばまずまずのクラスメイトがすでに来ていた。

 まぁ、完全登校十分前だしこんなものだろ。


「おはよう。そら、倉敷さん」

「お、おはよう」


 俺とかなた、それぞれが机に鞄を置けば、友人らは気付いて声を掛けてくれる。


「あぁ、おはよう」

「……おはよー」


 しかも、珍しくも話題の提供者は菊池さんだ。


「そ、そういえば……二人とも聞いた?」


「…………何が?」

「何を?」


 けれど、唐突に振られた目的語のない質問に、俺たちは首を捻る他ない。

 「聞いたか」と問うたからには、それなりに噂になっている話であるのだろうけど、皆目見当もつかなかった。


「えっと……この学校にテレビ局が来てる、みたいなの」


 その内容とは、開けてビックリ玉手箱。

 むしろ、玉手箱レベルに一般人とは縁遠い話であるため、にわかには信じがたい。


「…………それ、マジで? どこ情報?」


 情報を精査すべく、出自元を聞いてみると――。


「あー、俺も聞いた。一人は校長が人を迎えていたところを見たらしく、その時に自らをプロデューサーと名乗ってたらしい。あと、そういうテレビ関係人に詳しい人がこの学校にいるらしいんだけど、その人も同日に有名プロデューサーを姿を見たって言ってたな」


 翔真も噂の肩を持つように、参戦してみせた。

 だがなぁー……イマイチ信憑性に欠けて仕方ない。


「……でも、何で?」


 反対に、かなたはといえば動機の方が気になるらしく、別のアプローチから噂の中身を追求していく。


「ご、ごめん……そこまでは…………」

「俺も聞いた話だから、詳しくは分からないな」


 ――が、しかし、所詮は人伝て。

 噂は噂の領域を出ることがなかった。



 ♦ ♦ ♦



 それ以上のネタも出ないままに時間は過ぎ、三枝先生が入室して始まった朝のSHR(ショートホームルーム)


 そこでは、夏休みも終わったということで、今後に連なる予定の簡単な説明……というか、予告がなされている。


「――というわけですので、この後に全校集会があり、それが終われば通常授業となります。六限目に控えているLHR(ロングホームルーム)では体育祭の競技の出場者を決める予定なので、学級委員のお二人に任せますね?」


 ニッコリと翔真と菊池さんへ微笑んだ先生は、前へと向き直り話に戻った。


「また、それに伴い明日から一週間は午前授業で終わり、午後から体育祭の練習。来週の一週間は終日で体育祭の練習が行われるので、タオルや水分は忘れないようにお願いします。……万が一にも、体操服を忘れたりなんてしないでください」


 そうして不気味な圧を携えれば、クラス全体に釘を刺して締めくくる。

 ……まぁ、体育祭の練習をするって通告していたのに体操服を忘れられたら、先生でなくてもブチ切れるか。明らかにやる気ないもんな。


「では、畔上くん。号令を」


「起立!」


 考え事で頭を支配されていながらも、翔真の声を鼓膜が捉え、脳へと内容が伝達されれば長年の反射で立ち上がってしまう。

 気が付けば、ガタガタと椅子を鳴らしながら全員が直立していた。


「気を付け、礼」


『ありがとうございました!』


 腰から下げる者、首だけを傾ける者。

 様々な姿勢はあるものの、全く同じ言葉を揃えて言い放つ。


 その後は、連絡があった通りに全校集会の場へと向かうため、ガヤガヤと私語という名の喧騒に包まれながら廊下へ並ぼうとクラスメイトらは動いた。


 先生もまた、一度教員室へ戻るのだろう。

 教室のドアへと手をかけ、廊下に出て行こうとする間際に何かを思い出したように口を開く。


「――あっ、それからこの学校の体育祭がテレビに取り上げられるそうです。そのため今日から体育祭の本番まで関係者が来賓されますので、なるべく静かにお願いしますね」


 呆気なく、さり気なく、何気なく。

 普段の連絡事項と同じようなトーンで伝えてきたために、皆は反応に遅れた。


 その間にも、スタスタと先生は去ってしまい、残されたこの場に生まれるものは先程の喧騒とは比べ物にならないほどの騒ぎ。悪くいえば暴動。


 噂が真実に変わった衝撃は、その内容とも相まって大きかったらしく、結局、隣のクラスの担任が怒って突撃しにくるまで留まるところを知らなかった。


 ――祭囃子はもう近い。

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