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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
August
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8月13日(火) 退屈な休日・そら視点

 本格的にお盆が始まった。

 帰省から旅行まで、人それぞれ楽しく夏の思い出を作っているであろう時期であり、裏を返せば、何も予定のない人にとっては知り合いの殆どが家を空ける退屈な時間。


 かく言う俺も、明日は毎年恒例の曾祖母家へ訪問する予定なのだけど……まぁ、それはまた別の話で、問題は今日である。


 案の定、かなたはおろか翔真さえも用事で予定が合わず、また、七海も含めたゲーム仲間も誰一人としてログインしていない。


「あぁー…………暇だ……」


 ドサッと自室のベッドに寝転がる。

 今の俺にはやることがなかった。


 …………いや、正確にはまだ宿題が終わってないし、買うだけ買ってプレイしていない積みゲーなんかも数本存在するのだけど、そうではなく、気分的に億劫なものは全て取り除き、その中で自分がやりたいこと・やるべきものを探してみた時に何も生まれてこなかった――という意味で。


 買っている本は当たり前だが読み尽くしているし、むしろ少なくとも三周は見返している。

 パソコンを付けても手持ち無沙汰で、動画もアニメもめぼしいものは見終えており、目新しいものは出てこない。


「……………………下、行くか」


 呟いた独り言が虚しく部屋に響いた。

 反応する者など皆無であり、涼のために運転させている扇風機のファンが静かに音を立てているだけ。


 がなり立てる蝉の声も、走る車の走行音も、遠くで駆け抜ける電車の調も、網戸を隔てただけで全部どこか遠い世界のものに感じて、孤独感は一層酷かったりする。


 部活で鍛えられた筋肉を用い、力任せに身体を起こした。

 行儀も何も考えずに足の爪先で扇風機のスイッチを切ると、スマホを片手に廊下へと出る。


 そのままリビングへ向かおうと階段を下りれば、着いた一階のすぐ近くの扉から微かな音楽が。


「…………リビングには誰もいないのか」


 父親は今日も仕事なため、残るは母さん一人。

 何を思ったのかは知らないが、リビングの大型テレビではなく、彼らの寝室にある小さなテレビを選んだらしい。


 ゆっくりしたいということかな。


 閉じられた扉を押せば今まで密封された弊害――篭もった熱気が肌を撫で、じんわりと汗をかき始める。

 急いでエアコンを付け、同時にテレビのリモコンも操作をすると、画面に映るのは熱狂的なファンが多く毎年夏を賑わせている高校野球の甲子園。


 同じ高校生であるというのに、片や既に大会は終わって自宅でグータラと過ごしており、片や今も命を賭して一生懸命に戦っていることに、何となく時間のズレを感じていたり……。


「――なんてな。延々と夏が無限ループをするわけでもあるまいに……」


 そう笑って、チャンネルを変える。

 バラエティやドラマの再放送、通販番組などザッピングをする度に趣きを変えるも、お眼鏡にかなうものはなかった。


 レコーダーで録画してある番組でも消化するか……。


 そう思った矢先のこと。

 なんてことのないローカル局の情報番組を目にして、リモコンを操作する俺の指が止まる。


「……………………花火か」


 『夏の風物詩を大調査』――そうテロップに書かれてある通り、若い女性リポーターが浴衣を着て線香花火の紹介していた。


 テレビ越しでさえ見るのが久々な感覚に、実際に遊んだのは何年前だったのか……と思案する。

 中学……はない。なら、小学生の時か……? まさか、保育園時代!?


 記憶をどれだけ遡っても、確かなことは思い出せない。それだけ昔ということなのだろうけど。


「まぁ……何にしても、懐かしいということには変わりないか」


 花火の熱も、光も、火薬の匂いも……何一つ感じない。ただ漠然と、楽しかったという感情だけが心に巣食っていた。


 だがしかし、懐かしむということは、今現在に満足していないということでもある。

 満たされていないから、過去に縋ることで慰みものにしようとし、積み重ねであるこの時を肯定しようとしている。


「――やーめた!」


 だから俺は、テレビを消して立ち上がった。


「適当に外をブラついてくるかな」


 懐古なんて似合わない。

 だったら、意味もなく歩き回って、益体のない考えで思考を満たす方が俺らしい。


 スマホ、携帯、その他もろもろ……。

 必要最低限のものだけを掴むと、熱気で陽炎を生む街中へと俺は飛び出すのであった。

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