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彼と彼女の365日  作者: 如月ゆう
August
132/284

8月1日(木) 全国大会・ダブルス・一日目

 昨日で団体戦も終わり、今日からはダブルスの部。

 ウチからは一組、三年生のペアが出場しており、その応援と他学校の研究を兼ねて、観客席で試合を見ていた。


「…………疲れた」


 そんな中、ただ一人ダレた様子でこちらへ寄りかかる少女がいる。


「ホントお前、何で来たんだよ……」


 そのやる気のない姿にため息を吐けば、かなたは事も無げにこう言った。


「そらがいるから、だけど……」


「……さいですか」


 その真っ直ぐな瞳が眩しくて、俺はフイと視線を逸らす。

 ……試合見なきゃ、監督に怒られるしな。


 あっ――ちなみに、昨日の結果だが……特に面白みもなく、俺たちを下したチームが三タテで勝って優勝していたりする。


 そんな絶対王者を相手に、初めてセットを勝ち取った翔真は先日から英雄扱いであった。まだシングルス戦が残っているとはいえ、このままいけば唯一セットを奪った男――として、名を残すことになるだろう。

 本人は不服だろうがな。


 以上、報告終わり。


「――あっ、いたいた! そらくん、見ーっけ!」


 などと時間を過ごしていた折、急に背後から声を掛けられた。


 振り向くまでもなく、予想はついている。


 そもそも俺のことを『そらくん』と呼ぶ人物など、俺は二人しか知らない。

 そして、その一方は今頃授業中であるわけで……。


「七海、さん……」


 残るもう一方の名前を俺は呼んだ。


「やぁ、君と同じ高校の子が今日の試合に出場していることは知ってたからね。ここに来れば会えると思ってたよー!」


「そ、そうですか……」


 相変わらず、追いかけ方がストーカーのような人である。


 せっかく連絡先を交換したんだし、メッセージの一つでも送ってくれれば済んだ話なのにな……。

 そうすれば、有名人の登場にメンバーの皆が驚くこともなかっただろう。


「それはね、もちろんそらくんを驚かせたかったからだよ!」


 …………とは、本人の談。


「…………あっ、そらのゲーム友達の人」


「…………ん? あっ、もしかしてそらくんが言ってた幼馴染の子?」


 反対に、大会初日の出来事より彼女が俺のゲーム友達であるという説明を受けていたかなたは、特に驚く様子もなくマイペースに七海さんを見つめている。


 また、それは七海さんの方も同じなようで、いつかに話した幼馴染の存在を覚えていたのか、その人物がかなただ、と結び付けていた。


「初めまして、僕は橋本七海」


「…………倉敷(かなた)


 初対面ゆえに、互いにオズオズと交わす握手。

 しかし、気になったことがあったのか、手は握ったまま七海さんは小首を傾げる。


「くらしき……? 同じ名前…………」


 その目は俺の方を向き――。


「前に聞いた時は付き合ってないって言ってたけど、もしかしてすでに結婚……してたり?」


「何でだよ、学生だぞ」


 とんでもないことを口走る阿呆に、思わず正論でツッコミを入れてしまった。


「……たまたま、ぐーぜん」


 かなたも同様にそう証言してくれるのだが…………そのカニにも似たチョキチョキと指を動かす仕草は何を暗喩しているのだろうか……。


 まぁ、いいや。気にしないでおこう。


「そもそも漢字が違うんだよ。コイツは倉庫の『倉』、俺は酒蔵の『蔵』」


「へぇー……そうなんだ」


「……そうなのです」


 納得してくれる七海さん。

 自慢げなかなた。


 元気っ娘と寡黙という、互いに相対するキャラでありながらも意外に上手く噛み合っていた。


「――どんな風にそらと出会ったの?」


「えっとね……そらくん、その時はたまたまマイクをミュートにしてなくて――」


「……おっちょこちょい」


「ホントだよね! 普段からそうなの?」


「…………割と、ある。昔にも――」


 いつの間にか、気が付けば二人は楽しく話し合っている。


 当人の話であるのに、当人は全く会話に入れない――などというよく分からない状況になってはいたけど……まぁ、楽しんでいるのならそれに越したことはない。

 これで試合も見れることだしな。


 ――トントン。


 そう思い、深く椅子に腰を掛ければ肩を叩かれた。

 目をやると、部員のメンバーがニコニコとこちらに笑いかけているのだけど……何かこう、圧がすごい…………。


『詳しい話を聞こうじゃないか?』


 まるで、そのように語っているようで――。

 初日を思い出し、深く息を吐くのであった。

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