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第2話「妄想と暴走は似て非なるものですから」

 ざわざわ……ざわざわ……

 トキワ学園は今日も明るく楽しい喧噪に包まれていた。

「ねぇねぇ、ミケくんはどう思う?」

 隣の席の女子に話しかけられ、ミケはプイッと顔を背けた。

「別に……」

「かわいい〜!」

「(なんでカワイイになるんだよ)」

 そうは思いながら、頬は少し赤らんでおり、まんざらでもないようすだった。

 さらにほかの女子が駆け寄ってきた。

「綾織クン、いっしょにお弁当食べよ?」

 その言葉にミケは目を丸くして、心に温かい感情が過ぎったような気がしたが、

「ひとりが好きなんだよ(この学校のやつらはどいつもこいつも)」

 ミケは急に席を立ち、怒ったようすで教室をあとにしようとした。

 その後ろでは女子たちの楽しそうな声が聞こえた。

「きまぐれなネコみたいでカワイイ〜!」

 そして、ミケはさらに機嫌を悪くした。

 ミケは廊下に出てすぐニットキャップは深く被り直した。

 女子の制服を着て歩くミケの姿は、背もあまり高くなく細身で、可愛いと言われるだけのこともあって、見た目だけは女の子そのものである。

 はじめのうちは学園でも女子生徒だと思われていたが、クラスメートにはすでに男だとバレ、ほかの生徒たちにも広まりつつあった。

 ミケはひとりになれる場所を探した。その途中で好意的な声をかけられたが、ミケはすべてシカトした。

 人を近づけないようにしているのは明らかで、その要因はミケが抱えるいくつかの秘密にある。

 気の向くままに屋上までやってきたが、ここにも人がいる。けれど、少し歩き疲れたこともあって、ミケはここで少し休むことにした。

 フェンスに両腕を乗せて景色を眺めると、青い空と海が広がっていた。

 潮の匂いがそよ風に乗ってここまでやってくる。

 そう、ミケもまるで潮の流れに乗るように、この学園へ流れ流れやってきたのだ。

「(今まで転校した学校とはなにか違う。でもまだそんなに経ったわけじゃない。人はいつか裏切る……それは時間の問題なんだ)」

 なぜそこまでミケは自分を閉ざそうとするのか?

 ひとを拒むのだろうか?

 ミケは自らのあばらを強く押してみた。

「……っ」

 片目をつぶり、少し痛そうな表情をしたミケ。

「(もうだいぶ時間が経つのにな。前の学校ではだいぶやられたもんな)」

 強い風が吹いた。

 舞い上がるミケの帽子。

 慌ててすぐに拾って被り直したが、近くにした女子生徒に見られてしまった。

「あれが噂の彼じゃない?(本当にネコミミなんだ、かわいい)」

「ほんとだ、どっからどーみても美少女〜っ(いいなぁ、わたしもあんな風に可愛くなりたい)」

 ミケは二人の女子生徒の元へ不機嫌そうな顔で近づいた。

「頭に動物の耳なんか生えたヤツなんて人間じゃないし気持ち悪いだろ!」

 怒りをぶつけ、それ相応の反応をされると思ったミケだが、予想はあっさりと覆されてしまった。

「別にぃ〜。ねえ、だってこの学校にはトイレに住み着いてる幽霊とかもいるしね?」

 顔を向けられ同意を求められた友達も、

鈴鳴(すずなり)先生とか魔界からやってきた悪魔だって自分で言ってるもんね?」

「ほら、パンダとかペンギンもうちにはいるし〜」

 この学園には変わり者が多いのも事実だ。

 そして、そのペンギンとの出逢いがミケに運命を変えることになるかもしれなかった。

 ――そう、あれは寒さのまだ残る春先の日のことだった。

 駅前にできた人だかりの中心で、フォークギターを片手に歌っていた巨大ペンギン。

 ペン子だった!

 決して歌はうまくなかったが、ペンギンがとにかく好きなんだなということは伝わる歌だった。

『ペンギン♪ ペンギン♪』と連呼する前奏かと思ったら、始終それが続いた。ペンギン好きでなければ歌えまい。

 唖然とするミケであったが、事態は一転することになってしまった。

 人混みに押されてミケの帽子が取れてしまったのだ。

 ざわめき立つ人々。

 はじめのうちは本物だとは思わなかった人々も、その耳が本物だとわかると口々に言いはじめたのだ。

 ――人間じゃない。

 みな奇異な目でミケを見た。

 ミケから距離を置こうとする者。またミケに近づこうとする者。

 雪崩のような声がミケの心の中に次々と飛び込んできた。

 怪物、妖怪、気持ち悪い。

 キモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイキモイ……

「うるさい!」

 ミケは耳を隠し、頭を抱えながら逃げた。

 なり振り構わず人間たちから逃げた。

 誰もいない場所まで逃げた。

 ミケは誰も信じない。

 トキワ学園の生ぬるい環境に浸かりそうになっている自分を否定する。

 誘惑に負けて人を信じようと思っても、次の瞬間に裏切られることだってある。

 この学園にどんな変わった奴らがいようと、自分が普通の人間になれるわけがない。

 外に出ればやはり異形。


 屋上から飛び出したミケだったが、行く場所がなくなってしまった。

「(午後の授業ふけようかな)」

 下駄箱までやって来てクツを取り出そうとすると、中にチラシが入っていることに気づいた。

「(お一人様1個限り……ってスーパーの安売りのチラシ。嫌がらせか?)」

 自分の下駄箱をゴミ箱にされたのかと思ったが、チラシの裏に手紙らしき文章が手書きで書かれていた。

 ――アナタのことをいつもかげから見てます。殺してしまいたい。

 どう見ても脅迫文です。ごちそうさま、お腹いっぱいです。

 さらに手紙にはPSと書かれていた。

 ――今日のおべん当はおいしかったですか?

 ミケは今朝の出来事を思い出した。下駄箱を開けると、プラスチック容器――いわゆる○ッパー入った黒コゲの物体Xがあった。見なかったことにして捨てた。

「(……またイジメか)」

 ミケは深いため息を吐き捨てた。

 そこへパンダのきぐるみが駆け寄ってきた。

「ミケ様〜っ!」

「顔を見せるな」

 冷たい一撃が炸裂。

 グサッとパン子の胸に刺さったが、一秒もしないで立ち直る。

「ミケ様ってばドSなんですからぁ♪」

「おまえに対してな」

「それってアタシが特別ってことですか?」

「特別にキライだ」

 グサッ!

 さすがにダイレクトに“キライ”は堪えたようだ。パン子は床に両手をついてうなだれた。

「……グスン(でも負けない。アタシは一途にミケ様を思い続けるの、そういうところが自分でもカワイイと思う。大丈夫、ミケ様とアタシは結ばれる運命だから!)」

 そして、立ち直ったパン子は大声で叫ぶ。

「大好きです!」

 ミケは厭そうな表情をしたまま尋ねる。

「なんでそこまでオレのこと好きなんだよ。オレのことなんてなにも知らないだろ?」

「ええっと、ネコミミが好き。それにみんなも知っての通り、アタシって動物園の娘じゃないですかー?」

「知らねーよ」

「将来有望な園長だし、実はイヌよりネコ派だし、はじめてそのネコミミを見たとき、トキメキの出逢いを感じちゃったりなんかしてー(それでこれはストーキングするしかないと)」

 話の途中でミケはすでにこの場を離れていた。

 慌ててミケの背中を追うパン子。

「ミケ様待って! そうだ、アタシの作ったお弁当おいしかったですかー?」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 ペン子の言葉を聞いたミケは鬼の形相で引き返してきた。

「キサマかっ!」

「ハイ、アタシです!」

 元気な返事で認めた!

「まさかチラシの裏に書いた手紙もキサマか?」

「ごめんなさい。カワイイ便せんとかなくて、チラシの裏に書いちゃいましたー」

「謝るとこそこじゃないだろッ!」

 ミケはチラシをパン子に突きつけて、その一文を指さした。

「殺したいってなんだよ、殺したいって!」

「それは“殺しちゃいたいくらい愛してます”の略だったり」

「略すなよ! バカじゃねーの! オレのことからかって楽しいかよ!」

 怒鳴るミケを前にして、パン子は瞳に涙を溜めていた。

「……からかってると思ってるの?(こんなに好きなのにどうして)。アタシが心からミケ様が好きだってこと伝わらないの?」

「…………」

 ミケは黙ってしまった。

 そして、心の中で、

「(……伝わってるよ。でもそれすらもオレは信じられない)」

 ついにパン子の瞳から涙がこぼれ落ちた。

「好きです……ミケ様のこと」

 パン子はミケに触れようと手を伸ばしたが、無情にもその手は振り払われた。

「触るな!」

「――ッ!?」

 手を振り払われたとき、ミケの爪によって手の甲が傷ついた。

 滲み出す悲しい血。

「ううっ、うぐ……うわぁぁぁん!」

 ついにパン子は大泣きして、この場から逃げだそうとした。

 だが、前を見ずに走ろうとしたパン子は、なにかにぶつかってはじき飛ばされて、さらに尻餅までついてしまった。

 パン子が目をこすりながら見上げると、そこにはまん丸のペンギンが――。

「アンタなんか大ッキライなんだから!」

 再び泣きながらパン子は姿を消してしまった。

 ぽか〜ん。

 目を丸くして首を傾げるペン子。実際には首だけではなく、体ごと傾げているが。

 ペン子はミケに見つめられていることに気づいてニッコリした。

「どうかしましたか?」

「おまえのことがよくわからない」

 突然の言葉でペン子は少し考えてしまったようだが、やがて静かに口を開いた。

「ヒナのことだけではなくて、山田さんのことも、ほかの人のこともあまりよくわからないのではないですか?」

「ほかの奴のことはわかるよ(わからないのはおまえだけだ。どうしてなんだ?)」

「だったらなぜ山田さんのことを泣かせるのですか?」

 なぜ?

 ひとときの間、ミケは考えた。

 しかし答えは見つからなかった。

 泣かせるつもりはなかった。けれどパン子は泣いて去っていった。

 そしてミケはひらめいた。

「(興味を持ちたくないんだ、きっと。でもペン子には興味がある。ペン子のことがわかったところで、やっぱりほかのやつらと同じだったら失望するだけじゃないのか。オレはペン子にいったいなにを求めてるんだ?)」

 なぜミケはペン子に興味を持っているのか?

 ピンポンパンポーン♪

 校内放送が流れる。

《至急ペンちゃんアタクシの研究室に来てちょうだぁーい》

 校内では無駄とも思えるセクシーな女性の声だった。

《ついでだから綾織も来い》

「オレまで?(しかもオレのときだけ命令口調)」

 呼び出される理由がわからなかった。

 放送の主は名乗らなかったが、声で誰だかすぐにわかる。ミケとペン子の担任の鈴鳴ベルだ。

 だが問題は――。

「研究室ってどこだよ。そもそもなんでそんな部屋があるんだよ」

「ヒナといっしょに行きませんか?」

「いっしょに行かない理由もないしな」

「はい!」

 元気にペン子は返事をして笑った。


 トキワ学園の地下になぜかある個人の研究室。

 部屋は頑丈そうな金属でできており、足の踏み場もないほど、謎の機器たちで散乱している。

 どうやら呼び出しておいて本人はここにいないらしい。

「ベルさーん!」

 ペン子が呼びかけると部屋の奥のドアが開き、中から白衣を着たブロンド女が苦しそうな顔をして出てきた。

「ううっ」

 腹を押さえて今にも死にそうだ。

 ペン子はすぐに駆け寄った。

「大丈夫ですかベルさん?」

「うん……こが出ない」

「ほえ?」

「便秘に効くって薬草をもらったから飲んでみたんだけど、出ないのよぉん!」

 お食事中のみなさま、便秘ネタでごめんね。

 ベルは爆乳の谷間からタバコの箱とジッポーを出すと、生徒の前で平然とタバコを吸いはじめた。そして、イスに座り紅いタイトスカートから覗くムチムチの脚を組んだ。

「で、アンタらなんでここにいるの?」

「アンタが呼び出したんだろ(こいつ教師失格だろ)」

 ミケはかなり不機嫌そうだ。

 真顔でベルはミケの瞳を見つめた。

「で、綾織どうなの学校生活は?」

「なんだよいきなり。別にアンタに関係ないだろ」

「関係あるわよ」

「なんでだよ、担任だからかよ?」

「違うわよ、青春が好きだからよぉん!」

「はぁ!?」

 ミケの理解を超えていた。

「アナタ転校ばっかりしてるんですって? アタクシもいろんな(問題を起こして)学校渡り歩いてるけど、新しい環境に戸惑ったりするものよね。でもね……それが青春なのよぉん!」

「だからなんだよ?」

「生活態度がよくないって聞いてるわよ。せめてその帽子取ったらどう?」

「オレのこと晒し者にする気かよ?」

 ニットキャップの下にあるもの。

「耳のこと言ってるの? そのくらいどうってことないわよ。だってアタクシなんて悪魔だし、しっぽだって生えてるわよ?」

 と言って、ベルはイスから立ち上がると、スカートの中から伸びている細長いしっぽを見せた。ウナギのようにくにょくにょしながら、三角に尖った先端がミケの鼻先に突きつけられた。

「本当に悪魔なのかよ(つーかいつもはしっぽなんか生えてなかっただろ。隠してただけなのか、それとも騙されてるのか?)」

 ここでベルは失念していたことを唐突に思い出した。

「そうだ、ペンちゃんのPENGUIN(ペンギン)SUII(スーツー)の整備してあげるんだったわ。もぉペンちゃんったら、もっと会話に割り込んで自己主張していいのよぉん?」

 さっそくPENGUIN―SUIIこと、ペンギンのきぐるみの状態を見はじめるベル。

「はい、ペンちゃん右手あげて、左あげて、右下げないで右上げる。よしっ異常なし。ビームで撃たれたって聞いたけど、アタクシの発明品に傷つけようなんて一万光年早いわ。焦げて見たのもただの煤ね。現に洗ったらすぐ落ちたでしょう?」

「はい」

 ペン子が返事をした次の瞬間、ピキーンっと気配がした。

「(ペンギンのきぐるみはベル先生の発明品だったんだ)いいなぁ、アタシにもパンダのきぐるみ作ってくださいよぉ〜」

 物陰からこちらを見ているパン子だった。ミケとパン子が二人同時に呼び出されたと知って、居ても立ってもいられずストーカーしにきたのだ。

 ベルはパン子の目の前で手のひらを返した。

「一〇〇億円くらいくれたら作ってあげてもいいわよ」

「……アタシが貧乏人だからってバカにして! うわぁ〜ん!」

 また泣き出してしまった。

「(でもアタシ負けない。だってこのパンダのきぐるみは、お父さんが汗鼻水垂らして夜なべして作ってくれた大切なきぐるみなんだもん!)」

 パン子がんばれ!

 しかし、そんな大切っぽい思い出も、ベルの一言で吹き飛んでしまった。

「女の子に泣かれたら作ってあげないわけにはいかないわね、三分くらい待ってなさい(その辺にあるガラクタでテキトーに作っとけばいいかしらね)」

「本当ですか先生! もうこんな臭くて汚いきぐるみなんて必要なくなるんですね!」

 おい、大切じゃなかったのか?

 ――そんなわけで三分後。

 本当に三分で作ってしまったが、前のきぐるみと見た目は変わっていない。

 さっそくパン子は新しいきぐるみに着替えたのだが……。

 パンダ暴走!!

 なんたることだ、着た瞬間にいきなりパンダのきぐるみが暴走しはじめたのだ。

 部屋に嵐が起こったように、発明品が次々と宙を舞い、火花を散らし、ベルはお腹を押さえて、

「うんこ出そう」

 と言った!

 これからもっとひどいことが起きそうだというのに、ベルは現状を放置してさっさとトイレに駆け込んでしまった。

 そして、パンダが空を飛んだ。

 が、天井にぶつかりそうになってパン子が叫ぶ。

「死ぬーッ!」

 そのまま天井をぶち破ってどこかに飛んでいってしまった。

 開いた穴から空が見える。うん、今日もいい天気♪

 …………。

 あまりの展開のスピードにミケは呆然としてしまっていたが、事態の緊急性に気づいてパン子を追いかけた。

 すぐに体力が尽きて倒れたけど!

 ミケの体がふっと浮いた。ペン子が担ぎ上げたのだ。

「早く山田さんを助けなきゃ!」

「オレのこと置いてさっさと行けよ」

 しかしミケとは段違いの体力を見せつけるペン子!

 ミケを担いだまま全力疾走しても息一つ切らさなかった。

 さらにスピードを出すためにミケを背中に乗せて腹滑り(トボガン)で移動した。

 そう、ミケが巨大ペンギンをはじめて見たときと同じ、車より(はえ)ーッ!

 ついにパン子に追いついたのは屋上だった。

 ペン子の背中から降りたばかりで酔っているミケに、容赦ない暴走パン子からの攻撃。 ロケットパーンチ!

 突然の攻撃にミケは逃げる猶予もなかった。しかも当たったらかなり痛そうだった。

「クソッ!」

 ミケがあきらめた瞬間、まん丸の影が立ちふさがった。

 爆発によって硝煙が、強風が巻き起こり、ミケの身体は大きく後方に吹き飛ばされた。

 ミケは地面に叩きつけられたが、すぐに立ち上がろうと前を見た。ペン子が身動きひとつせずに横たわっている。あのときミケをかばって身代わりになったのだ。

「オレのために……なんでだよ!」

 歯を食いしばりながらミケは立ち上がろうとするが、身体がいうことを利かない。

 パン子の暴走は続いていた。

「ヤダ! なんで? 体が勝手にっ、ミケ様避けて!」

 ロケットパンチを撃とうとミケに照準を合わせている途中だった。

 ここで攻撃を食らったら……。

 そのときだった、逆光を背に貯水タンクの上に立つ謎の影が見えた!

「パンダだけに白黒つけようじゃねーか。正義のヒーローパンダマン参上!」

 シャキーン!

 首に巻いた赤い布が風に靡いた。

 無駄にカッコイイ、無駄にカッコイイのだが、いくつかの問題点を見つけてしまった。

 ヒーローって割にはオッサンじゃねーか!(しかも青ヒゲにケツあご)

 さらにパンダの被り物がシュールすぎる。

 パン子と同じきぐるみかと思いきや、首から下はランニングシャツに股引に腹巻きに、スネ毛にサンダルというゴールデンコンビネーション!

 い、いったいなんだこの変態パンダは?

 ペン子が叫ぶ。

「お父さん、ふんどしなんて首に巻かないで!」

 チュドーン!

 発射されたロケットパンチをもろに食らったパンダマンは、そのままお星様になりましたとさ。ちゃんちゃん♪

 ものすごく無駄な時間を過ごした気がしたが、この時間こそが意味を持っていた。

 ペン子がムクッと立ち上がった。

「転んだらそのまま眠くなって寝てたぺーん」

 大事な睡眠時間だった。

 一眠りしたペン子が元気いっぱい出力全開。

「山田さん、本当にごめんなさい。でもこれしか思いつかなくて……」

「えっ? なにする気?」

「眼からビーム!」

 シュバババババーン!

 ペンギンの目玉から破壊光線が発射された。

 為す術もなく直撃を受けたパン子は大爆発。

 凄まじき破壊力。

 モクモク煙が視界を覆い尽くし、やがて風が吹くと人影が中から現れた。

 パン子だ! パン子は無事だったのだ!

 しかし……そこに立っていたのはボロボロの下着を着た半裸状態のパン子。

 …………。

 ……。

「やっぱりアンタなんか大ッキライ!」

 パン子は泣きながら逃走してしまった。

「がぺーん!」

 ペン子はショックを受けたがすぐにパン子を追いかけた。

「待ってください山田さん! 本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

「アンタなんか、アンタなんか、大ッキライなんだからーッ!!(でも、ありがと)」

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