そしてモンスターは増え続ける
例の騒動が起こって数日以上が経過した。未だモンスターが増え続ける原因は究明されず、人々は混乱の中にいた。
この際、モンスターに挑みにいくか……と考える者もいた。しかし、レベルに見合わない挑戦はただの無謀というもの。むざむざ殺されにいくようなものだ。許可できない。
新米には辛いこの状況……しかし、熟練の冒険者にとっては稼ぎ時だ。そう思い、歓喜していた者もいたが……最近は、そうも言っていられない状況になっていた。
「ふぅむ……」
「ど、どうしましょう先輩……」
机の上に並べられた数々の依頼書を見ながら、カーミは腕を組む。そのどれもこれもが、モンスター退治の依頼によるもの。だが、問題はそこだけではない。
そしてその隣で、どうしようどうしようと狼狽える人物が一人。カーミよりもはるかに背が高い……この場合はカーミがはるかに背が低いのだが……この男は、このサポートセンターで働き始めた新人だ。
薄い水色の髪に、片目が隠れるほど伸びた前髪。鋭い目付きなのに、彼の中身はとてつもなく気弱である。さらには頭から生えた垂れた犬耳が、気弱さを証明しているよう。見た目だけは彼の方がカーミの先輩であるが、実際は逆だ。
「騒ぐな新人。……まあ、騒ぎたくなる気持ちもわからんではないが」
「新人じゃないですミュルリですぅ……」
騒ぐ新人……もといミュルリを一蹴。この二人が何に頭を悩ませているかと言えば、目の前に並ぶ依頼書の内容にある。内容自体は、いつものようにモンスター退治に代わりないが……問題なのは、その場所だ。
今までは、この街から離れた場所……そういった場所が多かった。だが最近は、この街付近にモンスターが出現しているのだ。その頻度は、以前の比ではない。
「これは明らかに、モンスターの出現頻度が増している。やはり嫌な気配が当たったか……」
すべてのモンスターが強くて手に負えない、というわけではないが……いくらなんでも、こうまで増えられてはたまったものではない。いずれ、この街にもなだれ込んでくるだろう。
そんなことになっては、大変なことになる。モンスターに街への侵入を許すなど、これまでに例がないのだから。
「はーい今日も大量大量っとー」
うむむ……と頭を悩ませる二人のところへやって来るのは、なんとも気の抜けた声。その人物は、依頼書とそれのクリア条件であろう物を無造作に机に並べる。
その人物を見上げ……カーミは、やはり、と言うような表情を浮かべほっとため息を漏らす。それは、呆れに近いもので。
「ほ、ホーラさん……相変わらず、元気ですね」
「えぇ! 私はいつでも元気よ!」
目の前に現れた人物、ホーラは元気が服を着て歩いているような、そんな存在だ。今の状況も変わらず、頭を悩ませるカーミの存在など知ったこっちゃなくそこにいる。
その後ろから、トシロウとシャロがやって来る。これらを見るに、今日も今日とてモンスター退治に行き、見事こなしてきたということだろう。
「あー、お二人ともも、どうもー」
「……なんか元気ないな、どうした?」
あまりこういうことは顔には出さない方がいいのだろうが、どうやら隠しきれなかったらしい。顔に疲れが、出てしまっているようだ。情けないことに。
ここで「なんでもない」と答えても、トシロウのことだ、追及してくるに違いない。
「実は……」
なので、カーミは正直に全部話すことに。別に秘密というわけでもないのだし、トシロウとカーミの仲だ。お互いの秘密を知り合っている者同士、この程度のことを隠していても仕方ない。
モンスターが増え、依頼に偏りが出ていること。今まで遠方ばかりだったのか、近頃になってから街の近くにも出現し始めたこと。このままでは、いつ街になだれ込んでくるかわからないこと。
「……と、言う訳なんですよ~」
「なるほど……そっちでそんなに、問題になってたのか」
一通りの事情を聞き、トシロウは考え込む。考えても答えは出ない気もするのだが、それでも考える。
最近は確かにモンスター退治の依頼ばかり……ホーラがいるから比較的楽に済んでいるものの、そうでなければ自分達は今、こんなに余裕を持っていられないかもしれない。
そして、この話にはまだ続きがあった。
「そのモンスター達なんですけど、どうやらそのほとんどが同じ方向から現れているらしいんですよ」
「同じ方向?」
つまり、モンスター達がやって来る場所……そこを辿れば、このような状況になっている原因を究明できるかもしれないのだ。
なので、近々様子見で、状況確認のため構成した冒険者組織を派遣させるつもりである。それは、一人一人が熟練の戦士であることが望ましい。のだが……
「なにぶん、向こうに何があるかわからない。おいそれと考えなしに派遣させるわけにもいかないわけですよ」
「そうですよね……どんな危険があるかわからないですし、簡単に人は出せませんものね」
「えぇ……しかしそれでこちらがもたついていたら、いつ何が起こるかわからない。対策は、早めにするに越したことはないんです」
安全を確認しないことには、人を出せない。しかし安全を確認するだけの時間は残されていない。……どちらにしろ、切羽詰まった状況であることに代わりない。
さらにカーミは「それに……」と言葉を続ける。
「熟練の冒険者を組織するにも、選抜にも時間がかかるんですよ。力があって、機転が利いて、それに信頼のできる人材が……」
「なら、その組織ってやつに私達も立候補するよ!」
何があるか確認するにも簡単にはいかない。……そのことに頭を悩ませるカーミに向かって、何も考えてないような表情をしたホーラが、「はいはいっ」と元気に申し出た。




