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イセカイサンポ



「申し訳ありませんでした!!」


「あ、いえその……こ、今度からは気を付けてくださいね?」


「はいぃ!」



 ……一連の騒動の後、街の真ん中で土下座する猪顔の姿があった。公衆の面前で叩きつけられ、自身のプライドをへし折られた男はこうして自らの行いを反省している。



「うむ、悪いことをしたら謝る。当然の常識だ。忘れるなよ?」


「はいっ!すいませんっしたぁ!」



 誤って果物を蹴ってしまった猪顔は、全力の謝罪。本来謝罪を受け入れる側の女の子の方が気を遣うような見事な土下座に、しかしトシロウは満足そうだ。


 背負い投げを決めてから続く周りからの拍手をその身に受けての満足ではなく、あくまで謝罪してくれたことへの満足だ。



「んん。……あ、ところで一つ訪ねたいんだが……この街に、サポートセンターってのがあるらしいんだが。知ってる?」


「!サポートセンター……ですか? 旦那、そこへ何か?」


「まあ、うん。用事みたいなものかな」



 せっかくの話を聞けるチャンス。猪顔にサポートセンターへの道を教えてもらうことに。いつの間にか敬語で旦那呼びになってるが、気にしない。



「……ってな具合で、行けます。しかしサポートセンターの場所を尋ねるなんて、旦那は街の外から来たので?」


「……うん、旅をしててね。はは」



 どうやらこの街の住人にとって、サポートセンターは知ってて当たり前の場所らしい。とりあえず旅人であるとごまかしておいたが……



「まあ、助かったよ。ありがとう」


「いえそんな。じゃ、俺はこれで。嬢ちゃんも、ほんと悪かったな」


「い、いえ」



 これで何度目だと突っ込みたくなる謝罪を告げ、猪顔は去っていく。最初は険悪な感じだったが、話してみればいい奴だったではないか。



「さて、と。じゃあお嬢さん、自分はこれで。今度は果物落とさないように……」


「あ、あの!」


「……うん?」



 目的地であるサポートセンターの場所もわかったことだし、女の子とは別れてそこへ向かおう。別れを告げようとしたところへ、女の子から制止の声が。



「じ、実は私もサポートセンターに用事があって……宜しければ……」


「なら、一緒に行こうか」



 もじもじ恥ずかしがっている様子の女の子を尻目に、さらっと言ってしまうトシロウ。まさか言い切る前に、しかも断られないとは思わなかったのだろう。


 女の子は目を丸くした後に、笑みを浮かべる。



「はい!」



 こうしてトシロウは、果物を持った女の子とサポートセンターへ向かうことに。まあトシロウとしても、たった今面倒に巻き込まれたばかり(事を大きくしたのもトシロウだが)なので、彼女を一人にするのは不安もあったのだ。



「~♪」



 先ほどまではいざこざでよく見ていなかったが、女の子の姿をよく見てみる。異性をあまりじろじろ見るのは良くないため、容姿の確認程度に。


 淡く赤色に輝く印象を持たせる髪をアップにしており、ハート型の髪止めを刺している。瞳は宝石のように輝く、ルビーのよう。歳は今のトシロウと同じくらいであろうか、若く白い肌をしている。


 今現在鼻唄を歌っているほどに明るい性格のようで、笑顔の似合う女の子だ。さらには頭から猫のような耳が生えているではないか。同様に尻尾も。


 やはりこの世界では、こすぷれが流行っているのか……トシロウはこう結論付けた。



「あの……?」


「あ、何かな?」



 見ていたことに気づかれただろうか。決してやましい気持ちではないのだが、いけないことをしていた気持ちになる。



「お名前、おうかがいしてなかったなと」



 だが出てきたのは、非難の言葉ではなく名前の確認だ。そういえば、目的地を一緒に歩いているというのに互いの名前を知らなかった。



「そうだったな。自分は……サカグチ トシロウ。トシロウでいいよ。さっきも言ったが旅の者で、この街のことはさっぱりだ」


「……トシロウ、さん、ですか。わかりました。私は…………シャロ……えぇ、シャロとお呼びください。私もこの街の人間ではないので、右も左もわからず……」



 女の子……改めシャロと名乗った女の子は、トシロウの名前を噛み締めるように呟いている。なんだか新鮮でいいなと、思う。


 それに、こうして見ず知らずの女の子と隣り合って歩くのなどいつぶりだろうか。



「じゃあシャロさんって呼ばせてもらうよ」


「はい。それにしてもトシロウさん、お強いんですね。あんな大柄な人を背負って投げるなんて……何か特別な武術を特訓しているのですか?」


「いやいや、大したもんじゃないよ。80年くらい前に戦場に送り込まれることになって、戦争を生き残るためにはとにかく無我夢中でなんでもやって……結果としてついてきた一つがあれで……」


「はち……せん、そ……?」


「はっ」



 先ほどの背負い投げの理由を問われ、流れるように話してしまうところだった。いやもう半分アウトな気もするが。


 こんな話、初対面の人間にされて信じる人間なんてまずいない。頭のおかしい奴だと思われるのがオチだ。なんとかごまかさないと……



「あ、あー!あれがサポートセンターか?」


「……ここ、ですか?」



 これ幸いとばかりに、道行く先に巨大な建物が姿を現す。それは猪顔に説明された通りの外見で、大きくて、つまるところ……



「でっけぇ」



 この街一番の大きさであろう建物ならば、確かに街に済む者ならばわからないはずがないものだった。

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