もしかしたら何か悪いことが起きるかもしれないという不安
トシロウとシャロ、そしてホーラを加えた新米パーティーが、依頼書が貼ってある掲示板から離れ……サポートセンターを後にした直後のこと。彼らの隣で、モンスター退治ばかりの依頼に唸りを上げていた二人の新米冒険者……ダミヤとリーリィは、その場に立ち尽くしていた。
おそらくは、自分達を同じ新米であるあのパーティー。正確には、内一人は離れした冒険者であろうが……三人中二人は、この間まで素人だったに違いない。
あの男性と、おとなしそうな女性。歳は自分らより多少上だろうが、冒険者としての経験値は同じくらいのはずだ。むしろ、自分達の方が多い。それが、自分達はモンスター退治の依頼多さにうんざりしているのに、彼らはそうではなかった。
「やっぱ、経験者がいると違うのかなあ」
人数が少なかろうと、経験者……場慣れした人物が一人いるだけでも、違う。それが、彼らに幸運をもたらしているのだろう。
「はあ、運がないなあ」
「けど、あの人……ホーラさん、だっけ。あの人がもし私達と同じ行動してくれてたとしても、あんなに長く関係が続いたと思わないな」
「……と、いうと?」
新しくトシロウ達のパーティーメンバーになったホーラは、どうやら自らが自らを売り込んだらしい。ここに、自分達の所に来なかったという運の悪さに嘆くダミヤ。しかし、それを否定するのは隣のリーリィだ。
ホーラがうまくいっているのはトシロウ達だからこそで、ここのメンバーになっても長くは続かなかっただろうと。
「知ってるよ、あの人。確か一人で突っ走ってメンバー間のチームプレーを壊すから追い出された、って。だから、どこのパーティーでも長続きしない」
「らしいな。で、それとあの人達とうまくいく理由となんの関係が?」
「チームプレーを壊すから追い出される。なら、最初からチームワークの成ってない所に入れば、そこに『突っ走るホーラ』さんを組み込んだチームプレーが出来上がるってこと」
ホーラがこれまで追い出されていたのは、言ってしまえば完成されたチームに飛び込んだから。無論、完成されたものに異物を放り込めばそこに異変が生じるのは必然だが……
大帝の人間なら、チームに合わせようとか、人を思いやるとか、慣れてくるはずだ。しかしホーラの場合、極端……極端に問題行動が多く、言うことを聞かない。むしろ、問題行動を起こした自覚がないことが問題。言うなれば、異物でなく爆弾。
だから、完成されたチームではホーラという爆弾を生かせない。良くも悪くも、知り合ったばかりでお互いをよく知らずチームとして成り立っていなかったトシロウとシャロだからこそ、ホーラの入り込む余地が生まれた。
「うぅん、わかったようなわからんような……ん? その理屈でいくと、俺達はチームワークがあるってことだよな?」
「……ま、腐れ縁だし多少はあんたのことはわかってるつもりだしね」
「幼なじみでいいじゃんかそこは」
とはいえ、このままでは詰んでいることに変わりない。ホーラのように誰か加入させるか……以前も、同じことを考えた気がする。
誰かの加入を望むにしても、無名では話にならない。名を挙げるためには、冒険者として大きな手柄を残さなければならない。大きな手柄というのは手っ取り早く言うなら誰もクリア出来ないような依頼をクリアうこと。そのためには、モンスター退治にしろ危地への探索にしろそれなりの武器、防具がいる。
武器、防具を買うためにはお金がいる。稼ぐためには依頼をこなしていかなければならない。だが小さな依頼をちまちま受けていても、稼げない。
手っ取り早く稼ぐためにはモンスターを退治すること。そのために、やはり武具を買うためのお金が……
「うぁー! なんかわけわかんなくなってきた!」
「本当なら、小さな依頼でもちまちま重ねていってお金貯めた方がいいんだよ。けど……最近は、モンスター退治の依頼が多すぎる。さっきの人達が異常なだけで、今新米には厳しい状況ってことだよ。私達だけが特別に運が悪いわけじゃない」
以前までは、モンスター退治の依頼の他に、新米向けの依頼も確かにあった。それこそ、モンスター退治と半分半分の割合くらいで。
だが、ここ最近は少しおかしい。昔から冒険者だったわけではない……依頼の平均値なんてよくわからない。だが、それにしたってこの数は異常だ。モンスター退治の依頼ばかりだから、新米は手が出せない。モンスター退治以外の依頼が出ても、数が集中するからすぐになくなってしまう。どうしてこうも、モンスター関連の依頼が殺到するのか。
まるで、何者かが意図的にモンスターを放っているのではないか……そんな陰謀めいたものまで考えてしまう。
「くそー! 試しに、弱そうなモンスターの依頼でも受けてみるか!?」
「落ち着けバカ。それで万が一があったらどうするのよ」
「け、けど……ほら、平地のゴブリンは比較的やりやすいって聞くし」
「それは洞窟みたいな狭い空間よりはやりやすい、って意味だよ。ゴブリンは力は弱いけど、小柄な分素早いし、力がなくったって急所を突かれたら人なんて脆いんだから」
試しに、なんて愚かな選択を掲げるダミヤに、すかさずリーリィが却下を下す。まさに正論を言い返されて、ダミヤは何も言い返せない。
「よ、よく知ってるなそんなこと」
「今みたいに、誰かさんが無謀なことしないように私がしっかりしとかないとね」
もはや、ぐうの音も出ない。
ここに来て気づかされる。ただ現状に不満を嘆いているだけのダミヤと違い、リーリィはちゃんといろんなことを考えてくれているのだ、と。それが、なんだか頼もしい。
「な、なんかいろいろ考えてんだな……」
「あんたが考えなさすぎなのよ。ったく、考え事が苦手なのは昔から変わんないし……だから、私がちゃんとしとかないと、仕方ないじゃん」
昔から考えなしなところのあるダミヤと、それのブレーキ役となるリーリィ。二人の関係性は、昔も今もちっとも変わっていない。
だからこの現状にも、ただ不満を抱くダミヤとは違い、リーリィはその先を見ている。いったいなぜ、こんなにもモンスター退治の依頼が増えたのか……と。
これが、例えばこの時期に決まって訪れる自然界の摂理とかであればどうしようもないだろう。だが、おそらくそうではない。何か、とても悪いことが起きている……そんな気がして、ならない。
その心配が、どうか思い過ごしであることを願って。リーリィは、自分達でも出来る依頼探しへと戻っていった。




