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仲良くなりたくて



 ワーウルフの少年との、奇妙な出会い……それはシャロに、大きな心情の変化をもたらすものであった。いや、正しくは……思い出させるものであった。自分は、あの目をなくすために国を出たのだと……



「にゃー」



 はっ……と我に帰る。少しだけ考え事をしていたようだ。


 足元に、くすぐったい感触。見れば、子猫であるポーチが足元にすり寄っているではないか。先ほどまで近づいても来なかったのに。



「えっ、ど、どうしたの?」



 突然の心変わりに、シャロは困惑している。このように態度が変わったのは、先ほど少年から差し出された果物を食べてからで……



「もしかして……果物のお礼、とか?」



 シャロがいくら猫型の獣人であっても、本物の猫と会話することなんてできない。だから、今ポーチがすり寄っているのも、単なる想像でしかない。


 果物をくれたことに、「ありがとう」と訴えているのではないか。正確には果物をあげたのは少年であるが、彼にあげたのはシャロ。ポーチは、その流れを見ていたのだろう。



「ふふ、どういたしまして」



 そのままポーチを抱き上げても、抵抗はない。どうやら、心を許してくれているようだ。問題は、残るワーウルフの少年だ。


 連れて帰る必要があるポーチと違い、この少年とは心の距離を縮める必要はない。だが、ここでお別れをするというのはなんというか……後味が、悪い。


 少年も、ポーチほどとは言わないが最初に比べれば警戒を解いてくれている。ように思う。



「えっと……ポーチちゃんは、連れて帰らなきゃ行けないんだけど。……キミは、どうする?」



 擦り寄るポーチを抱き上げ、少年へと問いを投げ掛ける。このまま逃がしてしまうよりも、一緒に連れていってしまったほうが、今後手荒なことをされないと考えていたのだが……


 少年は、首を振る。シャロにはある程度警戒を解いてはくれたけど、やはり人間は信用ならないようだ。


 無理やり連れていくわけにもいかない。というか、シャロにそんな乱暴な真似はできない。……となれば、残る方法は一つだろう。



「……なら、一つだけ言っておくね。もう盗みとか、そんな悪いことしちゃダメっ。人に迷惑をかけるのは、いけないことなんだよ?」



 説得……というほどしっかりしたものではないが、少年に釘をさす。これはどちらかというと、忠告というか……そういった類いのものだろう。約束でもなく、絶対的な強制力もなんの力もないただの言葉。


 というか、少年はお金がないのに盗みを働いているのだろう。なのに盗みをするなとは、自分はこの子に飢え死にしろと言っているのか……そんな感情が、シャロに生まれてしまうが。



「みんな困っちゃうし、キミだって危ない目にあう。あーでも、キミに飢え死にしてほしいわけじゃなくて……あぁ、なんて言えば……」



 悪いことはしてほしくない、しかし生きるためには手段を選んでいられない……そんな彼に、なんて言葉をかければいいのか。シャロにはわからない。


 彼と似た境遇の人間は、故郷でたくさん見てきた。だが実際、その生活を体験したことはない……だから、上部だけで何を言ったって彼に何を伝えることができるだろう。


 そうやって悩んでいるうちに……少年は、シャロから視線を外していた。先ほどまで面倒を見ていたポーチを連れ帰ると言ったからか、子猫にも未練はないようで……すでに、歩きだしている。



「あっ、待っ……」



 待って……そう言い終える間もなく、少年は……その場から飛び上がる。建物の壁から対面にある建物の壁へ、それを足場にして空へと登っていく。軽々としたその身のこなしに、シャロは追いかけることもできない。


 数秒と経たず、少年は空へと消えていった。おそらく、屋根づたいにこの場から去っていったのだろう。



「……行っちゃった……」


「にゃー」



 少年になんと言葉をかければよかったのか。無理やりにでも止めればよかったのか。どうするのが成功だったのか。……それは、もうわからなかった。


 結局、子猫探しという当初の依頼は果たせたものの……シャロの胸には、もやもやとした気持ちが残ってしまっていた。

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