生きるための選択
「あぁー……それは多分、近頃街を騒がしてる『狼』の子供でしょうねぇ」
「狼の……」
犬耳を生やした子供と別れた……というか逃げられた後、トシロウとシャロはカーミの下を訪れていた。受付であり真の姿は神様である彼女ならばこの街に詳しいだろうし、聞いてみたのだが大正解だ。
それも、街を騒がせている……ということは、それなりに話題にもなっているということだろう。
「騒がしてるって、さっきみたいな盗みをして?」
「えぇ。物、主に食べ物を盗んではどこかへ消えていく。食料を扱う店の人間は、それはそれは迷惑被ってるって話ですよ」
食料を盗む狼子供。それは先ほどの光景と同じ出来事が、起こっている可能性があるということだ。
さっきは案外いい人だったから良かったものの、危険な人物に捕まれば乱暴される可能性があるのだ。盗みがいけないのは当然だが、子供自身にも危険が及ぶ可能性がある。
出来ることなら子供から話を聞きたい。なぜ、盗みなんかするのか……子供の格好を見れば、察しはつくが。
「でもあの子……きっと、普段満足に食べるものもない環境にいるんじゃないでしょうか」
うつむき、シャロが言う。そう、あの子供は……その身に、ぼろぼろの布をまとっているだけだった。ろくに服すら着ていなかったのだ。その生活環境は、想像に難くない。
生きるため、仕方のないこと……そう、子供は生きるために必死なだけなのだ。そのために盗みを働き、人に迷惑をかけて……
「かわいそう、がその子の行動を黙認する理由になるんですか?」
鋭い言葉は、先ほどのシャロに返答するものだ。生きるため仕方のないこと……だとしても、だからといってなんでもかんでもやっていい理由にはならない。
「それはっ……ならない、ですけど」
「……いえ、こちらこそ嫌な言い方でした」
あの狼子供が、生きるために盗みを働いているのかもしれない。だが、それはいけないことだ。まずはそれを、教えてやらなければいけない。
だが教えるといっても、いったいどこでどうやって、会えるというのか。彼の生活環境、親兄弟など気になることもあるのだ。場所がわかりはしないかとカーミに聞いてはみるが……
「それはさすがにわかりませんねえ。ま、気長に待つしかないというか……けど、その子を捕まえようとしてもことごとく失敗してますから、会えてもすぐ逃げられちゃうと思いますよ。なんせこっちでも散々手は打ったんですから」
その方法は、やはりわからないようだ。それはそうだ、相手は人間……機械ではない、いつどこに現れるかなんてわからないのだから。
「散々手を打った……やっぱり、相当問題になってるのか」
「……あれ、トシロウさんもしかして気づいてないですか? その子、例の……ほら、この依頼の子ですよ」
ギルドの方でも手を打っているらしいと、その動きに感心する。が、それでも見つけられていないのだ。
そんな感心を示すトシロウに対し、カーミは呆気に取られたように目を丸くすると……近くにあったら、依頼書を見せつける。そこに書いてあったのは、以前目にしたことのある依頼内容。
「『街中に出現するワーウルフの捕獲』……あー、見たことあ……あー!!」
初めて依頼の諸々を確認したときに見つけた、ワーウルフの件だ。街中で騒がれてはいるがデリケートな問題だからと、あまりおおっぴらには貼ってなかった内容だが……
それを確認し、ギルドが、というか冒険者が対応していたという事実に納得。同時に、とある事実に気づく。
「ということは……あの子を逃がしちゃったせいで……」
「……報酬を自ら手放した、ってことですね。その場で捕まえてくれれば、結構な依頼報酬貰えましたよ?」
あの場で、子供に逃げられたのは仕方がないとしよう。だが逃げられるその前、店側の人間が子供を囲っていたあのとき。
あのときであれば、その場で捕まえることができたはずなのだ。だからトシロウが子供を庇ったとき、店主は微妙な顔をしたのか。
「まあ、終わったことを悔やんでも仕方ない、か」
痛恨のミスだが、終わったことをくよくよ嘆いても仕方ない。
街全体でも問題になっている問題を、結果的に逃してしまったことにもなるがもう考えても仕方ない。
「ま、それはともかくとして。結果は全部アウト。どうにもすばしっこいらしく、しかも子供だから大人には入れないような道を通って逃げてしまうんだとか」
残念なことに捕まえるには至ってないらしい。それは、現状況を見るに、明らかだ。
それを考えると、もしかしてさっきのおっちゃん店主は捕まえる寸前のいいとこまでいっていたのではないだろうか。むしろトシロウ自ら邪魔してしまったのではないだろうか。
「住んでるとこを突き止めようにも、必ずまかれちゃうんでもうお手上げ状態。なんで、いかにして食料を守るか……そんでもって捕まえるか、みんな必死なんですよ」
「あれ、ますます余計なことしちゃったんじゃない自分?」
そういう事情があるのなら、あの子を保護という形で捕まえておくんだった。あのおっちゃん達も、知っていたなら教えてくれればよかったのに。
……いや、おっちゃん達は冒険者でもないし依頼には興味がないだろう。料金さえ払ってもらえれば商売としてはオーケーなのだ。
それに、そういう依頼があったと確認しておきながら、すっかり忘れてしまっていたトシロウは自身を責める以外に手段を知らなかった。




