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重力を撃ち込んで



「うぉりゃあああ!!」



 景気のいい高い声、その直後にドゴンッ……と、なんとも鈍い音が響き渡る。またその直後、「グェエエ……!」と喉の奥から絞り出したような呻き声が漏れる。


 ドスンッ、と巨体が倒れる。その様子を、二人は……トシロウとシャロは、ただポカンと口を開けて眺めていた。開いた口が塞がらないとは、このことだ。


 なにせ、今目の前で倒れたのは、巨大なトカゲ……サラマンダーと呼ばれる生き物だからだ。橙色の皮膚を持つ生き物は、トシロウ達が見上げるほどの生き物。


 パッと見で思い出すのが、トラック……それよりも、一回り大きい感じだ。その巨体が沈む、その訳は……



「っしゃー! どうだオラー!」


「……ホーラさん、すごいですね……」


「あ、あぁ……ですね」



 新しくパーティーメンバーとなった女性、ホーラがサラマンダーの頭部をぶん殴ったためだ。それにより、サラマンダーの巨体は地面に沈む……


 その体の大きさの差など、まるで意味のないように。



「よっし! シャロちゃん、やっちゃって!」


「っ、あっ、はい!」



 人一倍力持ちであるドワーフであるとはいえ、ホーラの規格外の力に驚きを隠せないが……ホーラからとどめを、頼まれる。シャロが杖を構え、ホーラがサラマンダーから離れるのは同時だ。



「いきます! 燃え盛れ! "オーバー・ファルマ"!!」



 シャロが魔力を込め……杖が、それに反応する。紅く輝きを見せる魔力は、その狙いをサラマンダーへと捉える。


 直後、紅い閃光が輝き……サラマンダーへと、火属性魔法が炸裂する。これまでの、ゴブリンへと放った魔力とは段違いの威力が、サラマンダーを襲う。


 それは火というより、爆発……サラマンダーの巨体をも包む。強大な爆発が、サラマンダー及び一帯を吹き飛ばすかのごとく。



「うぉおおおすげぇえええ!」



 その威力に、トシロウは開いた口が塞がらない。ホーラは、同様であるが瞳をキラキラさせている。


 爆発の跡地には、黒焦げになったサラマンダーの姿があった。辺りの地面も燃えていたが、それだけに威力の凄まじさを物語っている。



「すっごぉおおい! 今の、上級魔法だよね!?」


「ま、まあそうですね!」



 キャーキャーと声をあげ駆け寄るホーラに対し、シャロはどこか得意気に胸を張っている。トシロウにはよくわからないが、今のが魔法の上級クラスに当たるものらしい。


 正直トシロウにはぴんとこないが、魔法に通じている者にとっては当たり前の認識であるようだ。



「やっぱりシャロさんって、凄い魔法使い?」


「えぇ!? いえ、そんなことは……」


「そりゃそうだよ!」



 トシロウは他の魔法使いを知らない、なので比較しようもなかったが、ゴブリンの件の動き方や今回の強大な魔法、とても素人とは思えない。


 謙遜するシャロを否定するように、答えを引き継ぐのは興奮気味のホーラだ。



「初級、中級、上級……使い手の魔力量によって使えるクラスの魔法も変わってくるけど、上級を扱えるのは限られた使い手だけだよ。アタシ、いろんなパーティーにいたけど他に見たことないし! だからシャロちゃんはすごい!」


「いやそんな、私は……」


「すごいよー、それにかわいいし、すんごいよー!」



 魔法使いとしてのすごさ……それを訴えるホーラはシャロを抱き締め、頭をなでなでしている。後半は魔法のすごさではないところを褒めているが、それは構うまい。


 シャロもシャロでまんざらでもなさそうだ。ならばよし。



「ま、あのサラマンダーが黒焦げになるくらいだもんなー」


「そ、それはっ。ホーラさんがサラマンダーを弱らせてくれたからですよ」



 正直、ホーラの打撃が強烈すぎて印象薄いのだが……あのサラマンダーは、かなり硬い鱗で覆われていたらしい。万全の状態ならば、上級魔法でも傷すらつけられたかどうか。


 それを、ホーラがサラマンダーを弱らせたおかげで、鎧のような鱗の防御力が低下していたのだ。


 つまり、ホーラの功績だと、シャロは語る。それは紛れもない事実だと……謙遜ではなく、事実として語る。ホーラ自身、指摘されて照れている。先程とは立場が逆だ。


 褒めて褒められ。なんともほほえましい光景だ、和む。……だが。



「上級魔法でも傷つかない鎧を弱らせるホーラっていったい……」



 シャロの魔法の威力よりもホーラの方が、なんだか怖い。



「ふふん、これがドワーフの力ってやつよ!」



 その呟きが聞こえていたらしく、ホーラはふふんと胸を張る。ドワーフの力、とはいうが、ドワーフというだけであそこまでの力は出せない気がする。


 そもそもドワーフという種族を聞いた程度にしか知らないのだから比べようもないのだが。



「まあアタシの場合は、ドワーフのパワーに加えて魔法も使ってるんだけどね」



 力こぶを作る彼女は、自慢気に告げる。自身の力の正体は、魔法にあると。それでも、ドワーフ自身の力も加味されていることに間違いはないらしい。



「ここでも魔法……?」


「そうなんですか!? すごい、どんな魔法を!?」


「ふふん、聞いて驚くことなかれ。なんと、重力系の魔法なのだ!」



 ドヤァ……と、なにやら得意気に語るホーラと、それを聞いてますます目を輝かせるシャロとかそれぞれ映る。


 魔法の使い手としてのレベルが高い……そう評価されたシャロが、目を輝かせているのだ。重力系の魔法とは、相当に珍しいものなのだろう。


 しかし残念ながら、トシロウにはぴんと来ない。



「あのぉ……盛り上がってるとこ悪いんだが、その重力系の魔法って、どういう……?」



 キャーキャー盛り上がっている女性二人には悪いが、水を差すことになる。出来る限り二人を刺激しないように問いかけるが、それはどうやらシャロには効かなかったらしい。



「どういう、って、重力系魔法ですよ!? 重力系魔法ですよ!?」


「ち、近い近い。てかなんでシャロさんが……」



 詰め寄ってくるシャロは、信じられないものを見るような目をしている。男と同じベッドで寝るくらいに常識知らずなのに、まさかこんな目を向けられるとは。



「重力系の魔法は、ただの魔法とは一味違うんです」


「ほう?」



 これまでにないほど真剣な表情を浮かべ、指を立てる。どうやら、魔法のことに関しては彼女は真剣になるようだ。



「これまで私が見せた、火属性の魔法……それとは別に水、雷など様々な属性があります。しかし、重力系、回復系の魔法はそれらとは一線を画すものなのです。誰もが使えるものではなく、選ばれた人しか使えない……」


「つまり、火属性とかの魔法は、魔法の素質があれば誰でも使えるけど……重力系の魔法は、一部の人しか使えないと」


「そういうことです!」



 自身による説明がうまく伝わったことに、安堵しなぜか胸を張るシャロを見届け、その後ろにいるホーラを確認する。


 本人は照れくさそうに、笑うばかり。ほとんど褒め殺しのようなものだ、当然だろう。



「そ、そんな大袈裟だよ」


「そんなことないですよ! 私は当然使えませんし、これまでにも使える人を見たこともないですし!」


「いやいやアタシだって、こんな魔力の高い娘がいるなんて知らなかったよ」


「私なんてそんなことないですよ! 上級魔法は使えても、最上級魔法までは使えませんし、魔力なんて知れてますし……」


「アタシなんて、そのせいで、他の一切の魔法は使えないんだよ? 重力魔法を使える代わりに他魔法は使えない……なんて考えものなんだから」



 ……目の前で繰り広げられる、謙遜と褒め合いの嵐。トシロウはいったい、どういう感情でこれを見ていればいいのだろう。


 とりあえず、このままでは話が進まなさそうだ。



「あのー……じゃあ、重力魔法がどれだけ凄いのか、見せてもらうってことは……」


「さっきサラマンダーを殴ってたじゃないですか!」



 それはそうなのだが、素の力との比較がわからない。



「ドワーフってのの素の力も強いみたいだし。重力魔法を加えた力と、どれほどの差があるのかと思って」



 実際に彼女は、同年代であるはずの、それも体格のいい男カラメルの手首を、一方的に握りしめていたのだ。


 正直素の力との、差がわからない。



「うーん……じゃ、そのこの岩で試そっか」



 渋ることもなく、ホーラは了解。近くにあった岩を確認し、近くへと移動する。おあつらえ向きに二つの岩が並んでいるではないか。


 なので、一つを素で、一つを重力魔法込みで殴るということだ。



「さて、と。じゃ、行くねー。すー……ふん!」



 軽く肩を回し、構える。軽く深呼吸をして、右腕を振りかぶり……一気に、突く。右拳が、岩へと突き刺さる。


 ……ちなみに、この岩は先程のサラマンダーよりは少し小さいが、それでも人にとってはかなりの大きさがある。見上げるほどに。



 バキッ



「……え」



 その岩に、ひびが入る。素の力で、だ。



「じゃ、次は重力魔法、使うねー」


「えっ、ちょ……」


「重力ってのはね、こう……えいって拳を突き出したら、ボコッって感じでその勢いを強くするの」


「お、おう……?」



 ホーラが、自らが使う重力魔法の原理を教えてくれているが……その意味が、まったくわからない。


 彼女は、教えに絶望的に向いていない。



「えっとですね……つまり、物が落ちる現象には重力が働いてますよね。重力魔法は、物が落ちる際に『かかる重力』を何倍にも引き上げる、ということです」


「なるほど」



 重力魔法のその原理がわからず混乱していたトシロウだったが……隣で、小声でシャロがわかりやすく説明をしてくれる。小声なのは、ホーラに気づかせまいとするためだろう。



「じゃ、いっくよー。せーのっ…………ふんぬ!!」



 ちょうど説明を理解したところで、再びホーラは構える。意識を集中しているのか、先程までと違い沈黙する……そして、気のせいか右拳が光り始めたその直後に、思い切り拳を振り抜く。



 ボゴォッ



 拳が突き刺さり、巨大な音が響く。すると岩にはひびが入り、拳を埋め込んだ部分から周りが大きく、へこんでいるではないか。クレーターが、出来上がったのだ。



「なっ……ま、じか……」



 その規格外の力に、開いた口が塞がらない。いや、先程の素の力でのひび入れの時点ですでに驚いてはいたのだが。


 しかも、岩にクレーターが空いたのだ、単に砕くよりも難しい業かもしれない……恐るべし、重力魔法。


 ……いや、恐るべしホーラ。

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