苦手なチームプレー
「えっと、あなたは?」
ギルド名シロ……仮だが……に声をかけてくる人物。無名の、それも二人だけというギルドだ。
声をかけるだけならいざ知らず、、あまつさえそのギルドに入れてくれという、余程の物好き……というか変わり者がいた。
「えっと……う、ウチに!? 本気!? なんで!?」
「いや、なんでって言われても……だって、メンバー増やすとかって話をしてたじゃないですか」
こんな出来立てのパーティーに自ら入りたいだなんて、本気であろうか。確かにメンバーを増やそうかという話しはしていたが、まさかこんなに早く、しかも相手から来るとは。
正直、嬉しさより驚きのほうが大きい。
「それは嬉しいですが……いいん、ですか?」
「そりゃもちろん! ぜひ入れてもらいたい!」
困惑するトシロウに代わりシャロが、パーティーに入りたいと言う人物……その女性に、問う。彼女は、言葉に二言はないとばかりに胸を張る。
褐色の肌に、薄い青色の髪はバッサリと短く切り活発な様子を表している。スラリ伸びた手足、成人男性にも劣らぬ身長を持つ彼女はにこりと笑みを浮かべている。
「あ、アタシはホーラ。よろしく!」
「ど、どうも、シャロです」
話しやすい、という印象を受けるホーラは、早くもシャロと握手を交わす。フレンドリーというか、壁を感じさせない女性だ。
「自分は、トシロウです。まあ、自分も断る理由はないですが……どうしてウチ?」
二人が熱い握手を交わす間も、やはり疑問は尽きない。ギルドに入ってくれるのは嬉しいのだが、その理由が見当たらない。
「いや、実は……アタシ、いろんなパーティーに入ったことはあるんだけど。……その、あまり長続きしなくって」
言いにくそうに、それでも確かにその理由を応える。これまでにも他のギルドに入ったことはあるようだが、それは長続きはしなかったらしい。
「だから、その……打算的で悪いけど、メンバー不足のとこなら、追い出されたりしないかなって」
「追い出すなんて……ホーラさん、何か悪いことでもしたのですか?」
作りたてのギルドなら、メンバーが増えても追い出されはしないだろう。そんな打算的な考えを持って近づいてきたというのだ。正直なのはいいことだが、ぶっちゃけ過ぎな気もする。
それに対してシャロが、おそらく的外れであろう質問。そんなかわいい問題ではないと思うが。
「いやあ、悪さしたとかじゃなくて……相性的な、というか……」
「相性……何か、性格に問題が?」
「性格……そうかも。アタシ、チームプレーが苦手でさ。今まで入ったギルドでも、それが原因で厄介者扱いされて」
ホーラがギルドから追い出されてきた理由……それは彼女の性格にも通ずるものであった。チームプレーを阻害してしまう、おそらくは彼女のまっすぐな性格が。
聞くところによると、せっかく事前に打ち合わせた話通りに彼女は動かず、むしろチームワークを乱す行為ばかりを行ってきたのだという。
無論、故意にではない。
「それで、お前がいるとチームワークが乱れる。ギルドを信じないなら一人でやってろ、とか言われちゃって」
例えば敵を追い詰める陣形を組んでいたのに、気にせず一人で飛び出してしまう。結果敵には気づかれ、逃げられたり反撃にあうこともあったようだ。
敵の渦中にいれば、巻き添えを食う恐れがあるために味方も大規模な魔法は撃てない。ホーラ曰く体が勝手に動くらしいのだが、そんなもの他のメンバーには関係ないことだ。
「アタシ、近接系の戦法を得意としてて……自分で言うのもなんだけど、結構強いと思うんだ。肉弾戦に持ち込むために敵の懐に入り込む必要があるんだけど、気づいたときには作戦も何も頭から飛んで突っ込んでるんだよ」
「なんと……」
どうやら、彼女の問題は……その無鉄砲さにあるらしい。少し違うかもしれないが、敵の群れに一人で突っ込むなんて無鉄砲に近いものだろう。
それでもこうしてぴんぴんしているのだから、実力はあるのだろうが……
「けど、さすがにチームプレー取れないと……」
ついさっき、チームプレーについての話をしていたところだ。トシロウとシャロとで、コンビネーションを上手く行う。そのために、練習が必要だと。
なのに、ここにチームワーク皆無の人物を入れるというのは、さすがに厳しいものがある。嬉しい申し出だが、断るべきか。
「お願い見捨てないでぇ!」
「うおっ!?」
悩んでいたところへ、突如シャロから離れてトシロウにすがり付く……というか泣きつくホーラは、目に涙を溜めている。
「そりゃ、雑魚モンスターなら一人でも倒せるけど、最近、モンスターの動きが活発化してるし! 一人じゃ、限界があるのよぉ!」
「だからって、チームプレー出来ないって公言する人をすんなりと入れるのは……」
「先に言っとかないと後で裏切り者だなんだって言うでしょお!?」
経験があるのか、妙に力強い。
「アタシは頭良くないから、突っ込むしか出来ないんだよぉ! でも、そしたらメンバーに怒られるんだよぉ!」
「でしょうね」
「そのうち、強敵に挑むときだけ、その時だけのメンバーとして貸し出されたり……敢えて突っ込ませて囮扱いされたり……使い捨てられるのぉ!」
これから先ずっと行動を共にするパーティーメンバーとして組み込むより、その時だけのメンバー……要は用心棒のような扱いを、これまで受けてきたのだろう。
しかし、使い捨てだなんて言い方は非情に誤解を生みそうだ。
「アタシだって、自分がどういう役割が合ってるかくらいわかるけど……自分が囮になるのはいいけど、他の奴に囮扱いされたくないのぉ!」
「わかった、わかりましたから! とりあえず落ち着いて!」
すがり付き、喚く彼女をなんとか引き剥がし、トシロウは一息。本人も切羽詰まっているのか、本当に必死だ。
「トシロウさん……」
「ううん……」
話に同情したのか、シャロの気持ちはすでにホーラに向きつつあるようだ。確かに、それほどこだわるわけでもないためにどうしてもダメというわけではないが……
彼女、とても仲間になりたそうにこちらを見ている。
「うーむ……まあ、チームワークはどのみち、自分とシャロさんとでこれから向上させる予定だったから。そこに一人増えてもたいした不便はないですが……」
「あ、やっぱりー!? 出来立てほやほやのギルドなら、そんなにチームワークも作れてないだろうし、アタシでも入り込める余地があるかなって思ってね! てへっ!」
……意外に、打算的な部分もあるのかもしれない。
「……ま、断る理由もない、か。そもそも自分達のとこに来てくれた時点で、ありがたい話。自分やシャロさんにも苦手なことはあるし、それがホーラさんの場合はチームプレーってだけのこと。苦手は克服すればいいしね」
何はともあれ、こんな無名のギルドに入りたいと言ってくれたのだ。それに、どうやら彼女自身の強さは本物のようだ。
本人は不服だろうが、囮として使われて……それでも生き残って、いろんなギルドに入ったり抜けたりしているのが、その証拠ではないだろうか。
それに、彼女は近接戦闘を得意とすると言う。剣を使うトシロウ、魔法使いのシャロ……そして、肉弾戦法のホーラ。うまく、バランスが取れてきているのかもしれない。
「なんだかんだ言ったけど……パーティー『シロ』に歓迎するよ、ホーラさん。仮の名前だけどね。使い捨て、なんてしないし、これからよろしく」
「……! あ、ありがとう! ありがとう!!」
差し出されたトシロウの手を見て、一瞬驚いた表情を浮かべるが……すぐに、笑みを浮かべて両手で掴む。その嬉しさを、全面に出して。
「ふふ、早速『シロ』から改名ですかね?」
「かもしれないですね」
喜ぶホーラを見て、思わずトシロウとシャロは笑みを浮かべる。
これから共にギルドメンバーとして行動を共にする仲間を、その姿をしっかりと目に焼き付ける。その笑顔を、忘れないだろう。
「じゃ、メンバー追加の申請してくるねー! やっぱやめたとかなしだよー!」
ギルドのメンバーへの加入として、あらかじめ申請が必要だ。なので、ホーラはいそいそと受付へと向かっていく。走りたいのを抑えるように、駆け足で。
これで、仮のパーティー『シロ』はメンバーが三人となり、新たな門出を祝うこととなった。……のだが。
「ふぅ、ようやく見つけたぞ、無礼者め」
もう聞きたくないと願った、騎士の男の声が響いていた。




