剣と魔法と武術と
四体いた内の二体を倒し、残るは半分である二体のみだ。
ただその二体をいっぺんに相手取っているのが、シャロ一人。杖を使い、ゴブリンの猛攻をかわしてはいるがそれまでだ。反撃の様子はない。
剣と杖、仕様こそ違えど同じく棒状の武器だ。これはむしろ、トシロウよりもシャロの方が扱いがうまい。こん棒を受けるでなく受け流し、舞うように体を回転させ避ける。
が……避けることには特化しても、攻撃の面では劣る。その杖ならば、打撃として使ってもそれなりにはなるだろうが……ただでさえ女性の力では、ゴブリンに致命傷は与えられない。
「ギ、キィ!」
現に、シャロは何度か杖による打撃を繰り出しているが……ゴブリンにたいしたダメージはない。また、続けるうち集中力を欠いているのかだんだん動きが鈍くなっている。
「シャロさん!」
その姿をトシロウは、黙って見ているつもりはない。ゴブリン二体を相手取り多少なり消耗しているが、シャロを一人で戦わせるほど不甲斐ない真似はしたくない。
なので駆け出す。せめて二体のうち一体でも引き付けられれば、シャロの負担も減るはずだ。
「ゴブリン、こっちに……」
「ギィアー!」
「きゃっ!」
なんとかゴブリンの注意をそらすために、わざと声をあげるが……それは、中断させられる。ゴブリンが、シャロを力押しで突き飛ばしたからだ。
こん棒を受け止めるが、横凪ぎに払われたそれの勢いを止めるには至らず……まるで野球でボールを打つがごとく、シャロを杖ごと突き飛ばす。
ちょうど背後から迫っていたトシロウは、吹き飛んでくるシャロを受け止めることもできずぶつかってしまう。
「ぅおっ!?」
いかに女性とはいえ、突き飛ばされ勢いの乗った一人の人間が、無防備な体にぶつかるとそれなりの衝撃になる。バランスを崩し、倒れこんでしまうのも仕方なしだ。
トシロウが尻餅をつき、腹部にシャロが倒れこむ形だ。
「うっ、す、すみませんトシロウさん……」
突き飛ばされたことで目を回したシャロが、謝罪を口にする。だが、その時間すら今は惜しい。
それに、シャロは杖を手放し、離れたところに落ちている。
「っ、く!」
とっさにトシロウが、振り下ろされるこん棒を剣で受け止める。先ほどシャロを突き飛ばしたのとは別のゴブリンが、背後から襲いかかってきたのだ。
トシロウから見えはしなかったが、ほとんど反射神経のようなもの。背後から迫る殺気に、体が反応したのだ。
一撃は防ぐ……が、その対価として隙を晒してしまう。
「ギィア!」
正面から迫るゴブリンが、雄叫びを上げながらこん棒を振り回し、勢いを乗せた一撃を放つ。
トシロウの剣は塞がり、シャロは目を回している。そのまま抵抗らしい抵抗もできず、こん棒は振り下ろされて……
「くっ、"ファルマ"!」
……シャロの手から放たれる炎が、近づくゴブリンの体に直撃、焼き尽くす。同時に、弾けた火花がシャロの、トシロウの体に散る。
思わず後退るゴブリンは燃える炎を払い、やがて鎮火する。その体を焦がし、ダメージも残してはいるだろうとはいえ、先ほどのゴブリンのように一撃で焼き尽くすには至らなかったようだ。
それは恐らく、先ほど炎が散ったことで威力も軽減されてしまったのだろう。その上、散った火花は撃ったシャロ、近くにいたトシロウにも被害を加える。
杖を使ったのとは、明らかに違う反応。これが、本来のシャロの魔法……制御できないと言っていたそれであろう。
「っつ……!」
「す、すみません!」
火花に呻くトシロウだが、どうやら背後のゴブリンにも火花が散っていたらしい。おかげで、こん棒を振り下ろす力も弱まり跳ね返すことに成功する。
「あっつ……いけど、助かりましたシャロさん」
これは杖の重要性を改めて認識しつつ、立ち上がる。杖を持ち直したシャロと背合わせになり、それぞれが一体のゴブリンと向かい合う。
「すみません……」
「って、さっきから謝ってばかりですね」
先ほどから謝罪ばかりを告げるシャロに、トシロウは笑って応えてみせる。確かに暴発は痛いが、おかげで助かったのも事実だ。
「とにかく、こいつらを倒した後で、ってことで」
「そ、そうですね」
杖はあくまで魔法を制御するための武器で、魔法自体はシャロはもちろん使える。が、どうやら彼女が言っていた通り制御が効かないと言うのは本当のようだ。
それと同時に……再び、ゴブリンにもシャロの魔法の威力を印象付けられたはずだ。現に、警戒するように距離をとっている。
「とはいえ、あいつらも怒ってるよな……」
すでに一体、先ほど二体もの、彼らの同胞を屠ったのだ。今や二体のゴブリンの怒りは計り知れない。だからといって感情に任せて襲ってこないあたり、まだ冷静さを保っている。
だが、こうして機会をうかがっていれば必ず隙はできるはず……
「ギ、ラァ!」
「! なにぃ!?」
次の瞬間、放たれたこん棒がスピードを乗せてトシロウを襲う。ゴブリンが、野球ボールを投げるように、こん棒をトシロウに向けてぶん投げたのだ。
なげやりではなく、確かにぶつけるための一撃。あのこん棒は接近戦のために手放しはしないと思っていたが、まさか自分からぶん投げるとは。
大きなこん棒は、小柄なゴブリンが投げたとは思えないほどのスピードを持ち、トシロウへと向かう。まるで槍投げの槍だ、先端が尖ってはないが、当たれば怪我では済まない。
「く、そ!」
なので野球のバットの要領で、こん棒を迎え撃つ。避けてしまえば背後のシャロに当たってしまうし、第一避けられるかも怪しい。
だから打ち返す……はさすがに厳しいため、軌道をずらす。この剣の強度も確かめたし、簡単には折れないはずだ。
ガギンッ、と鈍い音が響き、なんとか軌道をずらすことに成功。とはいえ、当たるか当たらないかのギリギリの位置だ。
「よし……とっ!?」
これでゴブリンは丸腰。こん棒投げの奇襲には驚いたが、これはチャンスだ……と思ったのも一瞬、顔色が変わる。
気がついたときには、すでにゴブリンが目前に迫っていたのだ。先ほどのこん棒を影に、自らも一緒に迫っていたのだ。
対処しようにももう襲い。小柄な割りには大きな手が、拳が、トシロウの顔面に叩き込まれた。
「っ、がぁ……!」
顔がへこんでしまうのではないかと思える威力に、鼻血が舞い目の前がチカチカする。よろよろと体勢は崩れ、後退り気味に倒れ……
……ない。体勢は崩れるが、踏ん張る。倒れてしまえば、背後のシャロに迷惑をかけてしまうから。
「ギェエー!」
「トシロウさん!?」
今殴ったのと逆の拳が、すでに放たれている。背後の戦闘の様子に気づいたのだろう、振り向くシャロ。その瞬間を見逃さず、シャロの正面に立つゴブリンが動く。
踏ん張るトシロウだが、今の一撃は予想以上に効いた。だが意識は手放さない。代わりに手放すのは剣だ。トシロウもゴブリン同様、丸腰になる。
が……
「あいにく、こっちのが得意なんでね!」
突き刺すような拳……それを紙一重で避けてから、腕を掴む。剣を扱うよりも、現段階ではこういった肉体戦法の方がしっくりくるのだ。
避ける際髪の毛が先の部分散ってしまったが、今はいい。
そのまま体を反転させ、ゴブリン自身の勢いも手伝ってか背負い投げの体勢に。それはシャロと初めて会ったとき、チンピラを叩きつけたのと同じもの。
一つ違うのは……
「どっ……せぇえええい!!」
「ッ!?」
背負い投げから地面に叩きつける、のではなく、投げ飛ばす。小柄とはいえ、人間の子供ほどの大きさのゴブリンを投げ飛ばすなど簡単ではない。
それでもトシロウは、力の限りに投げた。そしてそれは成功し、ゴブリンを投げ飛ばす。投げ飛ばした先には、シャロに迫っていたのだ別のゴブリンが。
「ガッ?」
「シャロさん!」
先ほどのお返し、というわけではないが、ゴブリン同士がぶつかりその場に倒れこむ。二体が動きを止め、しかも一ヶ所にいる。このチャンスを逃さない。
トシロウの呼び掛けに、シャロは応える。杖を構えて、その先端の宝石を赤く輝かせながら……
「燃え上がれ! "フル・ファルマ"!!」
先ほどよりも大きな輝き……同時に放たれたのは、輝きに比例するかのように先ほどよりも大きな炎。
それは狙い狂うことなく、また途中で散ることもなく……勢いを持ったまま、ゴブリン二体へと激突する。
「ゴ、ァアアア!!」
「キジャアアア!!」
二体のゴブリンを大きな炎が包み込み、文字通り燃え上がっていく。ゴブリンの叫び声が聞こえなくなる、そのときまで。




