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vsゴブリン



 トシロウの持つ白き剣と、ゴブリンの持つ太いこん棒がぶつかり合い、鈍い音を辺りに響かせる。トシロウが振り下ろした剣をゴブリンがこん棒で受け止める形だ。


 だか……その力量の差は、明らかだ。



「くっ……そっ!」



 剣を弾くように振るわれたこん棒は、トシロウを体勢ごと崩す。剣を振り上げられ、後ずさってしまったトシロウには隙が発生し、体ががら空きだ。


 小柄ではあるが、ゴブリンの力はトシロウの想像の上をいくものだった。直後ゴブリンは、トシロウのがら空きの体へと狙いを定めて……



「ー! ギギッ!」



 しかしゴブリンは、その場から交代するように飛び退く。直後その頭に焼けるような痛みを受けたゴブリンは、短く悲鳴をあげる。


 どうやら危険能力が備わっていたらしく、致命傷になる前にそれを回避したのだ。



「何度も同じ手は、くわないって」



 それを見てトシロウは、不敵に笑みを浮かべる。先程のカラメルとの一戦……それが皮肉にも、ここで役立つこととなった。


 彼との打ち合いの際も、力負けしてしまいその隙をつかれて一撃をくらってしまった。今回もそうならないように、少し工夫をさせてもらった。


 あらかじめ、全力で剣を振り下ろすのではなく力を抑えていたのだ。そしてゴブリンが受け止め、弾き返すタイミングを計り自ら交代することでわざと隙を作る。


 当然、わざと作った隙と知らないゴブリンは追撃を仕掛けてくるだろう。そこを、逆にトシロウから仕掛け返す。残念ながら寸前で察知され、頭を切っ先が掠めるにしか至らなかったが。



「……へぇ、ゴブリンの血って緑色なのか」



 頭から血を流すゴブリンのそれは、人間が流すものとは違い、緑色であった。それが、より人間と違う種族なのだと実感させられる。



「トシロウさん……!」


「大丈夫、ちょっとやられたふりしただけです。けど、思ったより力が強いですね」



 今はわざと隙を作ったが、果たしてまた通用するかどうか。ゴブリンに知性があるのならば、また同じ手は通用しないかもしれない。


 やはり、倒すために決め手となるものが必要だろう。不慣れなトシロウの剣では弱い。ならば残されたものは一つだ。



「シャロさん、自分がなんとかゴブリンの隙を作るので、そしたら魔法を撃ち込んでくれませんか!」


「えっ、でも……」



 シャロが使えるという、魔法というやつに託す。ただしそれは本人の口から、制御が出来ないと言われたものだ。


 もしかしたら近くにいるトシロウにも被害が及ぶかもしれない。だが、決め手となるものがそれしかない以上、四の五の言ってられない。


 それに……



「大丈夫、シャロさんを信じてますから!」



 その武器は、魔法を制御するものだから……とは敢えて言わない。


 まだ会ってそこまで時間が経ったわけではない。だが一緒の飯を食い、一緒のベッドで寝て……それなりに、一緒の時間を過ごした。


 だからシャロを信頼しているという言葉に嘘はない。それに、魔法の制御学祭出来ないというのは彼女自身の精神的な問題かもしれない。


 なので、武器の安心感よりも、精神的な安心感を与えた方が、彼女の今後のためにもなると判断して。



「……わかりました!」



 自分を信じてくれている存在に、応えなければならないとシャロも思う。その覚悟を見届け、トシロウは再度ゴブリンと向き合う。


 先ほど頭に受けたかすり傷を気にしてか、迂闊に近づいてはこない。警戒している……つまりゴブリンというのは、知性がある生き物なのだろうか。


 知性がなければ構わず突撃してくるだろうが、知性があるならばその痛みを伴い、再び同じ過ちを起こさないよう学習する。人間はもちろんのこと、おそらくこのゴブリンも。



「なら、にらみ合いも性にあわないんで……」



 もしもこれが銃撃戦ならば、岩場など隠れられるところを探してそこから仕掛けるのがセオリーだ。だが今持っているのは銃ではなく剣、銃撃の経験は生かせない。


 ならば、相手の出方を見る……と言いたいところだが、シャロに発破をかけたというのに自分はここでにらみ合いを続ける、というのは格好がつかない。


 まあ戦いに格好も何もないのだが……それを差し引いても、このままお互いが動かなければ状況も動かない。ならば、吉と出るか凶と出るか、賭けになるが先手を打つべきだろう。



「行かせてもらう!」



 正直銃に比べ、剣は接近しなければ効果を発揮できず……そこに、隙が出来るため扱いにくいものだ、とトシロウは考えている。


 だからこそ、この場ではクエストをクリアするだけでなく、剣の扱い方もマスターしていかなければならない。でなければこの先やっていけないだろう。


 今はただ、思うままに剣を振るうだけ……サポートはシャロを信じ、ただ目の前のゴブリンを相手取るだけだ。



「はぁあ!」



 ゴブリンの懐へ駆け、同時に剣を振り上げる。下から斬り上げる動きはゴブリンにかわされてしまうが、続けて追撃の手を休めない。


 ゴブリンはトシロウの肩ほども身長がないゆえか、身軽な動きをする。が、それはゴブリンの持つ大きなこん棒が邪魔をし、ゴブリンから機動力を奪う。


 振り回すだけの剣……カラメルに指摘されたそれは、しかし確かにゴブリンに小さくも確実な傷を与えていく。知性はあろうとも、どうやらカラメルほどの戦闘能力はないらしい。


 こん棒を振るう隙を与えないほど、追撃する。それでも致命傷を与えられないのは、直撃しないよう絶妙に回避しているからだ。


 これも、ただ地道にダメージを与えているにすぎない。だから……



「……そこ!」



 ゴブリンに攻撃の隙をわざと与えるように動きを落とす。それ幸いとばかりにこん棒を振るう仕草を見せるゴブリンの手首を、剣先で斬りつける。



「ギ、キァーーー!」


「シャロさん!」



 こん棒が、手から離れる。その一瞬のうちに、シャロへと呼び掛ける。彼女はすでに準備をしていたのか、杖の先端に埋め込まれた宝石は赤く輝いている。


 冷や汗が流れ……それでもシャロは、杖を向けると同時に魔法の言葉を言い放つ。



「燃えろ、"ファルマ"!」



 言葉に反応するように、杖の先から炎の弾が撃ち出される。生み出された炎は、バスケットボールほどの大きさがあり、それが一直線にゴブリンへと放たれる。



「わっ、出た!」



 なぜか驚いているシャロを尻目に、トシロウはその場から飛び退く。直後、炎の弾はゴブリンに直撃する。



「ギァアアアア!」



 炎は一瞬にして、ゴブリンを包み込んでいく。断末魔の叫びというのか、狂ったような声をあげ、ゴブリンは膝をつき……だんだん力尽きていくのがわかる。


 見たこともない生き物とはいえ……その覚悟で来たとはいえ、目の前で力尽きていく姿を見るというのはなかなかくるものがある。


 次第にゴブリンは動かなくなり……鎮火していく。そこには、黒焦げになったゴブリンの体が残されていた。その近くに、キラリと光るものも。



「これは……?」


「それは、ゴブリンのこん棒に埋め込まれている、ゴブリンの宝石ですね。ゴブリンを倒した際に現れる戦利品です」


「こっちも宝石?」



 戦いの最中、あまり気にしていなかったが……ゴブリンのゴブリンには、宝石が埋め込まれていたらしい。


 杖といいこん棒といい、武器には宝石を埋め込む決まりなのだろうか。



「戦利品、か。宝石ってことは高いんですかね」


「いえ、宝石といっても、相場は最低に等しいです」



 悲しい事実だ。



「それはそうとトシロウさん! 私魔法、うまく撃てました! 本来なら、目標に到達する前に爆発とかしちゃうのに!」



 ぴょんぴょんと跳びはね、嬉しさを体全体で表現するシャロの姿に、トシロウは微笑ましいものを見る瞳で彼女を見る。


 制御できないと言っていた魔法が制御できたのが、よほど嬉しかったのだろう。



「この調子で、あと四体をさくっと倒しちゃいましょー!」


「そうだ、まだあと四体倒さないといけないんだ。一体になかなか手こずったけど、ゴブリンがどんな生き物かもわかったし残りはスムーズに……」


「ギギィ!」



 残る四体の討伐……その覚悟を改めたところで、新たなるゴブリンが現れる。どうやら休む暇はなさそうだ、連戦になるが気合いを入れるしか……


 そう思い至ったところで、ゴブリンの声がした方向へと、視線を向ける。そこに広がる光景に……トシロウは、唖然としてしまう。


 それはなぜか? ……そこに、四体ものゴブリンがいたからだ。



「よ、四体……!?」


「……計ったように、討伐数と同じですけど」



 まさかいっぺんに残り四体が現れるとは、予想外だ。しかも、黒焦げになった先ほどのゴブリンの成れの果てを見てか……怒ったように、興奮している。


 ゴブリンにも仲間知識はあったようだ、とのんきな感想は抱ける状況ではない。



「や、やるしかない、か……」

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