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(仮)のギルド



「冒険、者?」



 働き口を探しに来たトシロウに提案されたのは、『冒険者』というものだ。いったいそれか何を指すのか、彼にはわかるはずもない。



「それって具体的には何をするんですか?」


「それはあれです、なんかお宝探して換金したりとか」



 すごいざっくりした説明が返ってきた。



「お宝……?」


「異世界ものにはありがち……といってもトシロウさんには馴染みはないですよね。簡単に言えば、街の外に出て価値のある物を見つけて、それを売って金に変えようってことです」


「本当に簡単にですね。……けど、それって職業なんですか?」


「それは……まあ、夢を見つけるようなもんですからね」



 つまり、冒険者とは言ってもフリーターのようなものなのかもしれない。しかし、その分お宝を見つけた時の見返りは大きいのだと。



「あとは、そこの掲示板……今シャロさんが見てるやつ。あそこに掲示してある依頼内容をこなしていくと、それに見合った報酬が貰えます」


「それは……冒険者というより、よろず屋なのでは?」


「そーとも言う!」



 依頼内容をこなしていく……それも、冒険者であれば割りのいい依頼があるのだとか。お宝を探すだけでなく、なんでもやる風であるならそれはもうよろず屋ではないだろうか。


 まあ、やる人にとっては名前など、さしたる問題ではないのかもしれない。



「ちなみに街の外には、モンスターがいます」


「モンっ……!?」


「モンスターの毛皮とか爪とか、そういった素材も売れる可能性があるんですよ。討伐依頼とかも、ね」


「なんて恐ろしい……」



 モンスター、とは、よく若者がやっている『ゲーム』に登場する獣のような動物であろうか。モンスター、というからには馴れ合いなどできないのだろう。


 物騒な世界なのか……いや、生前の世界だって、熊や狼など野生の動物は物騒だったではないか。


 それを考えると、たいした違いはないのかもしれない。むしろ迷惑をかける獣を討伐してお金が貰えるなら、その分しっかりしている。



「ま、危ないことも多いけど、冒険者やってる人は結構多いですよ。夢を追ってってやつです。それでも、一流でなけりゃそれだけで食べていけないから、副業がてらとか」


「へぇ」



 どうやら、冒険者として食べていくには厳しいらしい。当てずっぽうにお宝を探しに行ってもうまくはいかないだろうし、難易度の高い依頼は初心者にはクリアできないだろう。


 それだけに、やりがいのようなものを感じる。今まで、型にはまってコツコツ生きてきた自分が生まれ変わる……その一歩のように感じた。



「やってみようかな……」


「おっ、マジですか! マジですか!」



ぼそっと呟いたトシロウの言葉に、カーミは食いつく。本人としても、おすすめを紹介したのだから自信があったのだろう。



「別にこれがすべてってわけじゃないんだし……ぶっちゃけ面白そうだなと」


「いいですねそのチャレンジ精神! 冒険者に大切なのは、トシロウさんみたいな挑戦意欲なんですよね」



 腕を組み、うんうんとうなずくカーミはそれはもう満足そうだ。ここまで推してくれるのだから、トシロウも俄然やる気になるというものだ。



「じゃ、その手続きとかは……」


「それは、この紙にメンバーの名前とギルド名を書いてもらえると」


「ぎる……?」



 冒険者をやるにあたって、何かしら手続きがあるのか……その問いかけに、応えたのはカーミが差し出した紙だ。彼女が言ったように、メンバーとギルド名を書くようになっている。


 が、やはりトシロウには馴染みのないものだ。



「ギルド……組合?」


「まあ、簡単に言えばチーム名ですね。冒険者となった方には、チーム名を決めてもらうことになってるんです」


「なら、冒険者には二人以上いないとなれないんですか?」


「そういうわけじゃないですけど……冒険者って時には危険に陥ったりもするんですよ。死にはしないでしょうけど。だから、できれば多人数の方が好ましいと」



 チームを組んでの、職業……それもまた、新感覚といった感じだ。死にはしないでしょうけど、というのが気にはなるが。



「えっ、死ぬの?」


「あぁ、まれですよまれ。それに、それらは例に漏れず一人、レベルの高いモンスターに襲われて、です。一人だとどうしようもない脅威にさらされたとき、どうしようもできないですからね」



 死ぬ、とは言っても冒険者自体が危ないものではないらしい。一人でたかをくくり、ピンチに陥っても助けを求める相手がいなかったためだ。


 だからカーミたちも、出来る限り二人以上でのチームを組むことを勧めているのだ。あくまで個人の人生なので、無理強いはできないが。



「となると……自分は、シャロさんとってことになるのか。なら彼女に聞いてみないと……」


「大丈夫だと思いますよ、彼女が見てる掲示板、もろに冒険者への依頼板ですし。それに、嫌なら嫌で取り消しもできますし」



 大丈夫……だとは、思う。シャロは優しいだろうから、事後報告でも認めてくれるとは思うが、やはり事前に確認はしておきたい。それがトシロウの人となりだ。


 なので、シャロに声をかけてこちらへ呼ぶ……前に、にやにやしたカーミが話しかける。



「いいですよ二人ペア。ほら、シャロさんと協力していくうちに、今朝のことなんか彼方にいっちゃいますよ」


「そういう、もんだろうか?」



 ぶっちゃけうやむやにしてしまおうという話だろうか。



「そういうもんですって。てゆーか、そんなにかしこまる必要ないじゃないですか」



 指を立てて、カーミは続ける。



「トシロウさんは『中身が98歳のおじいちゃん』じゃなくて『98年分の記憶を持った20代』なんですから。シャロさんに手ぇ出してもなんの問題もないですって」


「だからなんの話してんの?」


「や、こういうのって異世界で初めて出会った美少女とラブコメ始めるのが鉄板ですやん?」



 何を言っているのかよくわからないが……とにかく、シャロと共に冒険者というやつをやるのも、悪くないように思う。


 なので彼女を呼び、簡単にまとめた話を語る。すると彼女も、冒険者の内容に興味を持ったらしく……二つ返事で了解してくれた。



「あとはギルド名か……」


「かわいいのがいいですよね」



 トシロウ、シャロ……この二人に共通するものなんて、正直知らない。だから二人の共通点とかではなく、本当にゼロから名前を考えないとならない。


 とはいえ、あまり適当でもいけない。冒険者はレベル……まあ認知度のようなもの、が高くなると、周りにも名を知られるようになる。


 なのであまり変な名前だと、後になって恥ずかしい、とはカーミの言葉だ。



「でも、そんな急には思い浮かばないよな」



 考えろと言われて、はいできましたと言えるほどに簡単には思い付かない。シャロも思い浮かばないようだし、頭を悩ませることになってしまう。



「あ、別に今すぐ決めなきゃいけないわけじゃないですよ」



 大切なギルド名、じっくり考えてなんぼ。カーミは慎重にと告げる。ひとまず登録するメンバー名と、ギルド名は仮でも全然いいのだ。


 それは後で変更できる。メンバーも、除名だけでなく追加も可能だ。



「なるほど。じゃ、登録メンバー『トシロウ』、『シャロ』と。あとは……ギルド名仮か。……『シロ』でどうだろう」


「シロ?」


「自分とシャロさん、どっちの名前にもシロって文字が入ってるし」



 言ってしまえば、単なる言葉遊びだ。



「それに、まだ無名の自分達が、これからいろんな色を付けて成長していこう、なんて」


「素敵です、いいですねそれ!」


「いっそ仮でなくてもいいんじゃないですか?」


「じっくり考えろってあんた言ったじゃないですか」


「仮だからこそ、重く考えずに出た案が良いものだって場合もありますし」



 それは、一理あるかもしれない。


 だが今は一旦、ギルド名『シロ』。これを仮としておこう。トシロウとシャロ、二人をメンバーとして、ここに新たな冒険者が誕生した。

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