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第三話。言われなき迫害。

 今日は1ヶ月に一度の王都に赴く日。

 左程、任される領地から遠くない王都へは、半日も馬車を走らせれば到着する距離。


 家の威厳を誇示するように豪華絢爛の馬車が所狭しと並ぶ中、一際異彩を放つのは、



「おいッ、見ろよ。アレが噂のロワイヤル家の馬車だぜ……」「恥を知らんのかねぇあの家は……」


 作りはどの馬車よりもしっかりしており、装飾も細部まで行渡り上質なのだが、周囲の馬車と比べれば、華やかさは誰よりも欠けており、そう周りの貴族達の陰口を叩かせていた。


 勿論それは俺達の耳にも入り、



「気にするなホイッスル。いちいち気を立てていては身が持たないぞ……」


「ウググググ……はっ、はい……」

 

 過剰に反応するホイッスルを宥め、俺は何事も無いような体裁を保つ。


 そして、馬車を出た俺の格好はやはり、周囲の貴族達が下品にも着こなす先端の奇怪な服では無く、由緒正しい歴代から受け継がれて正装。勿論それにも……



「信じられんな、何だあの恰好は……」「アレが同じ貴族だと思われるのは実に不愉快だッ……」


 そんな声が聞こえてくるのだ。


 血管を所狭しと浮き立たせ、顔を真赤にするホイッスルの肩に手を置き、



「やめろホイッスル。本当の価値を測れない者に何も言っても無駄であり、それに意を唱え、残るのは虚しさだけだぞ……」


 そう、貴族達に聞こえるように注意を与える。

 すると、ホイッスルの熱は収まり、その熱が感染したように周囲の貴族に蔓延した。


 突き刺さるような鋭い視線を浴びながら、表情を一つも変えず毅然とした態度で、謁見の間へと俺は足を向けて、

 城の城門を潜ろうか、潜らないかの位置で、完全に一人浮いている俺に話しかけた者が居た。



「よおッ!変わらず、勇ましいなエイゼル」


「何用で御座いましょうか?ヘルザー卿」


 俺は、軽く会釈をし、その者の要件を急がせた。


 父の旧知の仲であるカイザル・ヘルザー。

 貴族の中で数少ない常識人の一人であり、若く家督を継いだ俺の見届け人として父が名を挙げた者。



「はぁ……相変わらず可愛くないのぉお前は。まぁ良いわ、それがお前の持ち味だからの……

 そんな事よりもだ。お前、アーデルベルト家の御令嬢を囲っておると小耳に挟んだのじゃが、それは事実なのか?」


 ピクリと俺の瞼が動くのは、何処にでも居る噂好きな者が勝手に広めた戯言に苛立ちを覚えたからであり、俺は当然と弁解する。



「囲っている訳ではありませんよ。相手方が一方的に私の屋敷に居座り、こちらとしても甚だ迷惑している次第です」


「左様か……」


 顎に手を添え何かを考えるカイザルの仕草は、俺の言葉を不信とする態度と映り、



「そもそも私にその話する前に、そんな非常識な娘を送り出したアーデルベルトの者に伺いを立てればよろしいのではないのでしょうかッ!」


 心外がと、思わず声を荒げてしまった。


 怒りを露にする表情を剥き出しに、それを意外だと見るカイザルは驚いた表情を作り上げ、


 そして、何が可笑しいのか、

 カイザルはニンマリと口を吊り上げ、俺の肩に手を回し、



「よぉ、エイゼルなんだその感情剥き出しの花丸の顔は、アーデルベルト家の御令嬢の為なら、いつも澄ましたお前は、そんな顔が出来るんだな、おいッ!」


 更に怒りの火を俺にべる。

 これ以上は話にならないと、肩に回された手を払い謁見の間に足を動かそうとした俺に、カイザルは、



「まぁ、待てエイゼル。その様子だとアーデルベルト家の御令嬢本人からは、何も聞かされていないようだな……」


「……これ以上に俺に何か御用ですか?」


「お前がさっき言った事だ、勿論俺は、先にアーデルベルトの方に話を聞いたさ……」


「だったら、分かるでしょうに……俺は潔白で、見届け人の貴方に心配をかけるような不敬は何もしていない事を、でわっ、俺は急ぎますので……」


 そうして、俺は、アイツの話はもう耳にもしたくないと足を進めたのだが、



「まぁ、待てと言っておろうに……ったく、その捻くれたヘソの曲がり具合は、本当に親父そっくりだなッ!……」


 そんなカイザルの呟きが聞こえ、

 そして、続けざまに放たれた言葉で、




「そんな者は知らないと、だとよ……」



 俺は静止を余儀なくされた。


 意味が分からなかった。

 いや、聞き間違いに違いないと、俺はカイザルの方に振り返るのだが、その時のカイザルは、あの時と同じ顔をしていたのだ。

 父が戦場で倒れたと俺と母に伝えた来たあの時の真直ぐ俺を見る表情で、顔を顰める俺に、何度も何度も理解が及ぶまで言い放った、忘れもしないあの時の憎き顔。



「なっ、何を……何を言っているんだい……叔父さんは……」


「アーデルベルトの者に話を聞いた。すると帰ってきた答えは、そんな者は知らない。アーデルベルト家にそのような者は存在しないのだとさ……」


「ふっ、ふざけるなよッ!あんな聖痕を顔に負う化け物がッ、この世に2人も存在して堪るかよッ!」


 カイゼルの言葉は間違いだと、俺は周りに眼もくれず、カイザルの胸元を掴んでいた。

 アイツをあんなに煙たがっていた俺なのに、何故か、その時、湧き上がった感情は、悔しさ。



「聖痕は確かなものだったのか?…」


「間違いある筈がねぇッだろッ!俺ですらその光に……ありもしねぇ……虚像を見せられたんだから……」


 俺の目を真直ぐ見るカイザルは、ゆっくり眼を瞑って、



「そうか……」


 たった一言、そう呟いて何も言わなくなる。


 その態度が、カイザルの言葉も真実と告げ、そして、俺の領地に住みつくアイツは間違いなくアーデルベルト家クレアであり、


 なら、俺の中で、導かれ答えは一つしかなかった。


 城門前で、親交を深める色褪せた貴族達。

 その中で唯一色をつける貴族の元に、俺の足は勝手に歩みを進め。

 最短の道順で真っ直ぐ向かう俺の身体は、妨げになる貴族を押し退け、ソイツの胸ぐらを掴み、俺の口はこう言っていたのだ。



「動物に慕われるあんな心優しい奴をどうして勘当したんだッ!」


 自分自身どうして、そんな事を口走ったのかは分からない。

 ただ、抑えきれない怒りが先行し、俺の身体を思考をそう駆り立てていた。



「君は?……そうか……アイツは元気してるかい?……」


 その貴族の容姿は若い、アーデルベル家、先代の後を継ぐクレアの兄リベルト。


 クレアと同じ髪の色、クレアと同じ瞳の色、そしてクレアと同じ澄ました顔が、俺の怒りに油を注ぐ。

 睨みつける俺の形相が更により険しくなり、それを煩わしいく思ったのだろう、リベルトはゆっくりと俺に向かい口を開いたのだ。



「えっと……勘当がなんだとか……だったかな?

 それは心外だなぁ。確かに我がアーデルベルト家は、アレの存在を疎んじていたのは確かだが、其処まで非道にはなれない。

 屋敷の中で大人しくしていればいいのもを、誰に何を吹き込まれ、何を勘違いしたのか理解し難いが、突然とあのアーデルベルト家の恥は、君と見合いがしたいと、そう言い出したのだよ……」


「……えっ、なっ、何だよそれっっ」 


「おや?……ってきり、君の手の内の者の嫌がらせと思っていたのだが、そうでは無かったみたいだね……

 でもまぁ、それでも我々は君には感謝している。これで、あの忌まわしい穢れからアーデルベルト家は解放される訳だから……」


 つまり、俺と一目見合う為に、勘当を承知でクレアは俺の屋敷に赴いたと言う事であり、クレアには帰る場所がもう無いと言う事。

 俺見たいな貴族の中でも爪弾き者の所へ、身を寄せたいと願い出れば、例え、聖痕が無くとも勘当を言い渡されてもおかしくない。


 そんな事実を始めて知ったと、驚きを隠せない俺を置き去りにクレアの兄は、俺に構わず話を続けた。



「嫌われ者同士、仲睦まじく過ごすがいい……

 と言っても、私に食いかかる時点で、君の気持ちは明確。

 しかし、安心するがいいよ。アレはもうアーデルベル家とは縁もゆかりもない者。あんな容姿だが、体は間違いなく女。精々慰め者として側に置き、飽きればゴミのように捨てればいいだけさ……

 でば、私は周辺諸侯との話がある為、この辺りで失礼するよ……」


 胸ぐらを掴む俺の手を解き、シワの寄る服を正したリベルト。

 俺に終始向けられていたリベルトの笑顔は、本心からの言葉だと俺に向けられた。


 踵を返して、去ろうとするリベルトの背中に手を伸ばすような仕草を取る俺は、その時、分からなくなっていた。

 どうすればいいか、どうするのか最善なのかを……


 頭で繰り返される疑問。

 何故クレアは、そうまでして俺の屋敷を訪ねたのだろう?

 何故クレアは、それを俺に打ち明けなかったのだろう?

 何故クレアは、あんな笑顔で居られたのだろうか?


 だが、俺は、



「おっ、おいっ!待てよ、話はまだ……」


 知ってしまったのだ。



「これ以上まだ何か?……

 さっきも言った通り、アレとはもう我が家は何の関係もないのだよ……」


 クレアの話をする時の、リベルトのその眼が……



「そう、あんな化け物とはね……」


 汚れた物を見る、歪にゆがむその瞳は、俺がクレアに向ける眼差しそのものだった事を……


 そうクレアは何も言えなかったのだ。

 クレア自身が家をも捨てる程に望んだ居場所で、苛まれ続けたアーデルベル家と同じ仕打ちを受け、そんな事を言えるだろうか、


 きっとクレアは自身に言い聞かせているのだろう……


 ここは違うのだと、ここはアーデルベルの屋敷ではないのだろうと、

 俺の頭に過ぎる疑問のその全て、

 それらをクレア自身が口にする事により、クレアの中の居場所が失われる事を、


 クレア自身が一番分かっていたのだ。


 

 

 王への謁見を済ませ、俺はホイッスルに馬車を急がせた。


 いつもなら王都より離れた街で一泊宿を取るのだが、俺のは迅る気持ちがそうさせていたのだ。


 屋敷に着いた頃には、日が暮れており、馬車の中で正装を脱ぎ捨てていた俺は、高ぶる気持ちでその場所に急ぐ。


 周りは闇に包まれるも、雲がない月光が道を照らし、

 そして、綺麗な月が照らし返される湖の畔に、ソレは居た。



「あら?どうしたのですか?管理人さん?そんなに汗だくで……」


 俺は、その澄ました顔が気に入らない。



「ささっ、どうぞお水ですっ、ゆっくり飲んで下さいね……」


 俺は、そう聖女のように映り込み、愛でるようなソイツの態度が……空気が……



「所で、私に何か御用でも?」


 俺は、無垢な子供のように、俺に微笑むその無神経さが、非常に気に入らないのだ。


 だけども……

 俺は、コイツに歩み寄ってみようと思う。


 同情と思われようが構いはしない。嫌われ者同士の傷の舐め合いでも構わない。


 何よりも、俺がそうしたいと本心で望んでいるのだから。



「いつも言ってるだろうがッ!こんな場所に女1人で来てんじゃねぇよッ!」


 まずは初めに俺がコイツに歩み寄れる事、それは……



「クレアさんよ……」


 人として与えられた名前でちゃんと呼んでやる事だった。



 俺の言葉で、クレアの顔は綻んでいた。

 目尻に少し溜める涙は、与えられた人の名を久しく聞いたとそう告げているようで、

 そんなクレアを見て俺は……



「ここに来る時は、俺が居る時だけにしろ。何かあってからじゃ、遅えんだからなッ!」


 そう怒りながらも、自然と笑顔になっていた。




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