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可愛いのは私だけでいい  作者: 柊ひまわり
3/3

寮なんてない


シャンパンコールが盛り上がったのをうっすら覚えている。

麗斗くんの被りの客が気に入らなさそうにしてるのはしっかりと覚えている。

それに安いシャンパンだと格好がつかない気がして、ドンペリ・ロゼを入れたのもちゃんと覚えている。

初めての指名で来店した会計とは思えない額で酔いが覚めた。


いまは店が入っているビルの下で麗斗くんを待っている。

いわゆるアフター待ち。

向こうからこのあとも一緒にいれないかと聞かれた。あの時シャンパンを入れてよかったと、全く後悔していないあたりがいつか痛い目をみると悟っている。


それに被りの悔しそうな顔が未だに頭から離れない。相手にお金がなさそうなのは分かっていた。

だって、可愛くないもん。


歌舞伎町にいる女は可愛くないと売れない。いくら話が上手くて性格が良くても売れない。

だから、可愛くないと稼げない。

可愛いと稼げるから、もっと可愛くなるために整形だって出来るし、高級ジムや高級エステに行けれる。

だから、最初から可愛い女の子しか可愛くなれない法則なのだ。


1部のホストクラブは1時までにはお客さんを外に出すという風営法があるから1時過ぎの歌舞伎町は19時のときの雰囲気とはまた違く、もっと重くディープな街となる。

道端で倒れ込んでいる人なんて数え切れないほどいる。

飲みすぎで吐いている人は日常茶飯事、救急車で運ばれるなんて珍しいことじゃない。さっき泣きながら道路に飛び出している女の子もいた。

前はキャバクラのバイト終わりにそんな光景を見て、そこまでしてなんで一途にホストに行くんだろうなんて思っていたけど今は少し気持ちがわかる。

他の子に負けたくない気持ちも一途に思う気持ちも何もかも自分が1番じゃないとダメな気持ちも。


「もしかして、姫野エミリちゃん?」


突然話しかけられた。

どこかのスカウトっぽい。当然私はシカトして携帯をいじる。だけど、スカウトはとてもしつこい。


「無視しないでよ〜!ほんとに可愛いね!希子(きこ)ママのお店の子でしょ!可愛いからすぐ分かったよ!連絡先交換しようよ!俺、スカウトやってるからもっと稼げるお店いつでも紹介できるよ!」


姫野エミリとは私の源氏名。

本名で働く人はほとんどいないけど、私の本名が源氏名っぽいっていうのと、学生の時、携帯を2個持ちする余裕がなかったからLINEの名前を変えるのも大変だし、という理由で表記をカタカナにしてエミリとして働いている。


姫野エミリちゃんですか?と、聞かれることが最近増えた。

私のお店の希子ママがいろんな意味で有名なすごい人だからそのお店のナンバー2が私だから名前だけが一人歩きしているっぽい。私は姫野エミリとしてやっているTwitterもInstagramもないし有名になる訳がない。


「引き抜きですか?在籍店に連絡しますよ」


私はそうスラッと答える。

これを言うと大体のスカウトが退去する。案の定、話しかけてきたスカウトも、怖いな〜じゃあまたね!と言いながら離れていった。

その数分後麗斗くんがエレベーターから降りてきた。


「おまたせ〜!えみり今日はありがとうね〜。本当に嬉しかったよ!会ったばっかりなのに本当にありがとう!」


麗斗くんはそう言いながらほっぺをツンツンしてきた。

そんな一つ一つの行動でドキドキしてしまうなんて、私は本当にキャバ嬢なのかと我ながら心配になる。


「ううん、なんか麗斗くんが他の子のところ行ったのが寂しかったから〜。私こそ、すぐ来てくれてありがとう!」


ボロが出るのは時間の問題だって分かってるけど、麗斗くんの前ではいい子でいたい。嫌われたくないし、もっともっと好かれたい。


歩き出して、私は麗斗くんの後を着いていった。


「そういえば、主任がえみりのこと知ってたよ〜!俺、キャバクラとか行かないからあんまりわからないんだけどえみりって売れっ子なんだね!可愛いから当たり前だけど!」


「そんなことないよ〜。けど、主任の人が知っていたなんて意外だな。歌舞伎町って広いようで狭いもんね」


「でも、可愛いで有名なんていいじゃん!俺も有名になりたいなぁー」


「えぇ!麗斗くんは有名になっちゃだめだよう。私のところに来てくれるの少なくなっちゃうよ!」


「そうだなっ!俺、えみりいればいいや〜!」


あぁ、こんなカッコよくて優しくて楽しい彼氏なんていたら楽しいんだろうな。毎晩おじさん相手にお酒を飲んでいるからだろうか。ホストクラブがとてもキラキラしていてワクワクするし、ずっとこのままならいいのになって思う。

まるで、夜のディズニーランドみたい。額は桁違いだけど。


「えみり、今から俺んち来る?(笑)」


突然のそのセリフに驚いた。

行きたい。行きたい行きたい行きたい。でも、1つ気になることがある。


「麗斗くん確か寮に住んでるって言ってなかったっけ?私は入れないでしょ?」


私がそういうと麗斗くんは、ニコッとした。


「ごめん、それ嘘なんだ。最初のお客さんと俺が好きじゃない人には寮に住んでるって言ってあるんだ。でも、えみりには嘘つき続けたくないし、俺の家に来てもらいたい」


あ、そういうことだったんだ。

確かに私もお客さんに「友達と住んでる〜」とか「実家ぐらし〜」とか適当なこと言ってるもんな。


てか、麗斗くんの家に行けるんだ!嬉しすぎる!嘘をつかれていたとはいえ、本当のこと言ってくれたんだし家にも行けるし、麗斗くんは本当に優しいし。

私こんなにわくわくしているの久しぶりすぎる。


「麗斗くんと今日はずっといれて嬉しい!」


そう言って、タクシーを拾い麗斗くん宅へと向かった。

東新宿なのかな〜なんて勝手に思っていたけど、場所は北新宿。

なんで北新宿に住もうと思ったの?と聞いてみたら東新宿はホストだキャバ嬢だ、お客さんだ、ってみんな住んでいるから会うのが嫌らしい。

静かなところが好きなんだって言っていたけど、そんなところが麗斗くんらしいなってなんだか安心する。


お金を払いタクシーを降りた。麗斗くんのあとをついていってエレベーターを乗った。

10階建てのマンションだけど、さすがイケメンホスト。最上階のボタンを押した。


「さぁ、どうぞ」


そういってドアを開けてくれた。

本当はこの時間がとても嬉しいはずなのになぜか入る時とても不安だった。


こんなに親しくなれて嬉しいはずなのに、見なくてもいいものまで見そうで。

いろんな意味で家に入るのにはそれなりに勇気がいるもんなのだと痛感した。


「おじゃまします...」


部屋に入るとびっくりした。

誰かがテレビを見てる。

え、これってまさかのバッティングしちゃった感じ?最悪なんだけど。

1人で困惑していると、麗斗くんは平然に中に入っていった。


扉を開けるとそこにはホストっぽい男がいた。


「えっ、と?」


私は全く理解出来ていなく、麗斗くんの顔を見た。麗斗くんは、あー!っとまるで説明し忘れたの思い出したかのように大きい声をあげた。


「言うの忘れてた!俺ん家になんか居候がいるんだよ。3ヶ月前くらいから!俺と同じ店だけど知らない?」


「知らない」


私は秒で答えた。だって、麗斗くんしか興味ないもの。

って、居候なのか。2人きりが良かったけどバッキングした相手が男でよかった、と内心ものすごくホッとした。


話を聞いていると、3ヶ月前に入店したらしいけど地元が同じでお互い顔見知りホストだったらしい。

寮が人数オーバーでオーナーが困っていた時に部屋が空いていた自分の家に住むかと提案したんだって。

名前は風弥(ふうや)

年は麗斗くんの1つ下だから23歳。

子犬みたいな顔していて常にケラケラ笑っている。

麗斗くんと気が合いそうなのが会って間もない私にでも分かる気がする。


「本当に麗斗くんには感謝してるんですよー!優しいしカッコいいしー!」


出勤後にも関わらずお酒を広げてビール缶を片手に風弥はそういった。


「もうわかったから、お前は寝ろって!俺らもう向こうの部屋いくからな〜!」


そういっているけど、麗斗くんは嬉しそう。私もそうだけど異性から褒められるのはもちろん嬉しいけど、同性から褒められるのは特別嬉しい。


私は麗斗くんの後に付いてった。

ここはきっと麗斗くんの部屋へ行くのだろう。

モノトーンで統一してあってまさにイメージ通り。アクセサリーも綺麗に飾ってある。

ぬいぐるみとか服とか、女のモノっぽいのは見当たらないしなんだか安心した。


「えみりってさ、彼氏いる?」


"彼氏いる?"


突然の言葉に驚いた。なんでそんなこと聞くのだろう。


「いないよ。」


そう言って、その時気づいた。

私は男の知り合いとかは多いけどちゃんとした彼氏って高校卒業して以来いないということ。

誰か一人に絞って束縛されたり、彼氏がいるせいで自分の自由が少しでも奪われたりするのが嫌だとどこかで思っていたからだろう。


そんなことをぼんやり考えていたら、麗斗くんは気づいたら私の後から手を回して抱きついていた。


「俺じゃなれない?」


なんだろう。この気持ち。ドキドキしているのは嬉しいからって言うわけじゃないのはわかる。


「え。どういうこと?まだ会って全然経ってないよ」


「だって、ここでえみりを俺の女の子にしきゃ絶対後悔する。こんなに惹かれたの初めて。確かに会って日も浅いけどこれからえみりのことをもっとゆっくり知りたい。俺と付き合ってほしい」


そんなのずるい。


私が麗斗くんのこと振れるわけない。

私だって初めて自分からこんなにアタックした。

ん、それが効いていたってこと?

...そんなのなんでもいいか。

私の答えなんて一つに決まってる。


「うん。わたしも麗斗くんが大好き」


そう言って私も麗斗くんの手を握った。

もうどうなってもいい。

こんなに素敵な人なら、うまくやっていけれる。


麗斗くんの1番に私はなれるはずだから。

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