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いちばん最初の異世界ファンタジー  作者: ジョセフ武園
1/3

そうして、世界に平和が訪れた

 ――世界の存亡が、もうすぐ決まる。

 世界の中心、妖魔城の最深部にて、両雄の陣営は遂に激突す。


 その激しい戦いは、三日三晩に渡り、四日目の朝陽が昇る頃、遂に魔王の敗北によって勝敗は決した。


 これにより、世界の生きとし生ける者は、遂に魔王の支配より解放されたのだ。


 魔王を討伐したのは、五属の精霊の加護を受けし、若干13歳の少年と、その旅路で出会いし、三人の仲間達。


 科学の国、バレンティアの神童、アレク・クラウン

 勇者に剣法を師事し刀の国、天下万来の武芸者、カイイ・ハンマ

 魔族と、人族の混血の者の秘境、パレス、その長、バティカ

 そして、勇者。キミィ・ハンドレット。


 勇者の生まれし国『アポトウシス』の王、スカタ四世は、彼らの功績を讃え、其々に全世界を挙げ、名誉と地位を与えた。


 世界に平和が訪れる。誰もが、そう思っていた。

 だが、その願いは無残にも打ち砕かれる事となる。


 魔王の驚異のあった時、手を取り合っていた人族は、その手で相手を傷つける事を選択した。

 弱き者は、強き者に生きる権利すら奪われていく。


 やがて国民の怒りの矛先は、その世界を生み出した。自分達で『英雄』と祭り上げた四人へと向けられた。


 事件は、その七年後に起こる。

 アポトウシス国のある特別部隊長として、高い地位を与えられていたキミィの遠征中に、彼の妻と娘が何者かに殺害されたのだ。

 スカタ四世は、即座に犯人を捜査し、容疑者は間もなく浮かび上がった。


 それはアポトウシス国の貧民街に暮らす、二桁にも歳が行かぬような少年であった。スカタ四世は、その少年を捕え次第、公開処刑を言い渡した。が。


 キミィは彼の解放をスカタ四世に懇願したのだ。


 少年と顔を合わせた時、キミィにはどうしても、彼が己の妻と娘を殺害する様な悪鬼には思えなかった。真犯人の存在をもう一度捜査したいと、国王に直訴を申し出たのだ。


 だが、刑は、即座に執行された。


 その後、キミィ・ハンドレットは、アポトウシス特別部隊、魔族絶滅部隊を除隊し、人里離れた奥深き山小屋に、居を移した。


 家族を失った悲しみと、家族を護れなかった怒りを、己だけで受け止める為には、外部との繋がりを断ち切る必要が有ったのだと彼は考えた。



 十年の月日が過ぎる。

 キミィは、その日も飲酒により、夢と現実の狭間に意識を置いていた。

 だらしなく、唾液が零れた顎髭に臭気が漂う。


「エリス……ミナ……」寝言でそう呟いた後、閉じた瞼から、涙が滲んだ。

 幸せな夢は。夢でしかないと。解っているのに。

 その世界に居る時、キミィは幸せを感じれずにはいられない。

 毎日、浴びる程飲む酒は、そこへ誘われる為の切符に過ぎないのだ。

 十年経とうが、現実の悲しみは彼の胸から去る日は、無かった。


「コツコツコツ」

 彼をその幸せの幻から、呼び覚ましたのは、何年ぶりかに聴く戸の叩かれる音だった。

 キミィはゆっくりと瞼を開くと、鋭く音の先を睨みつけた。


 こんな場所に来客? 普通の山小屋ならば、それは珍しくもなんともない事だろう。だが、ここは違う。

 通称――死霊の山。その山頂に最も近い平原に在るこの小屋は、まず人族は立ち入らない、絶対の危険領域。

 そんな場所に訪れる者など、不幸を告げる死神か悪魔くらいだろう。


 ――それも、いいのかもしれない。

 そう呟いた自分に対し、キミィは吐き捨てる様に、鼻で笑った。椅子に掛けてあった刃毀れした愛用の剣を手に取ると、一応外に向かい声を挙げる。


「このような場所に何用か。私はここの主なり。敵意が無い事を示さぬ限りは、ここを開く事は出来ない。汝の名を名乗れ」


 暫く、戸の中から様子を伺うが、返答は無い。

 戸には、大きな重金属『オリハルコン』の錠が掛けられている。魔王でもない限り、これを破壊するのは不可能だろう。

 無論、小屋の内壁にも同様の補修が行われている。質素な見た目とは裏腹にこの小屋は小さな要塞と言っても過言ではないのだ。


 キミィは、鼻息を一つ、つくと戸に背を向けた。

 死霊の山は、魔族でも、身体に異常を来す程の魔気に苛まれている。外では長居など出来る筈もない。来訪者も、ひょっとしたら既に果てているのかもしれない。音の止んだ戸が、それを物語る。


「パパ」

 一瞬、キミィは世界が反転を始めたのかと思った。足が地を踏まず、あわや十年以上住んでいる我が家の床で転倒しそうになる。

 だが、身体よりも、キミィの心が再び戸の方へと顔を動かした。


「パパ」

「あなた」


 聞き間違えるものか。

 ひと時も忘れるものか。


 その声は間違いなく、最愛の二人の声であった。

 キミィの心理は、ここで考えるのを止める。これが、何かの幻であっても、将又(はたまた)死神の誘いであっても。もう一度二人に会えるのなら。もう、何もいらない。命ですらも。


 キミィは戸を開けた。


 眼前に、あの日の光景が。鮮明に浮かび上がった。

「パパ、おかえり~」

「こら、ミナ。お父さん、疲れてるんだから、駄目でしょ? 」


 その飛びついてくる小さな身体を受け止めようと、手を開いた瞬間。

 まるで、螺旋を描くミルクの様に、その幻は消え、そこに在ったのは、おどろおどろしく、外陽の光も遮断する、漆黒の樹木に囲まれた、闇の景色。


 キミィは、肺に不快を覚え、すぐに口を手で覆った。


「う……うう」


 その時、足元で何かが蠢いた。素早く、手に取っていた剣の刃先を構えのままそこに向け、その姿に驚き動きを止めた。



 そして、その者を見た時。キミィは、確かに聴いた。

 それは、地獄へと誘いし、死神の鎌の音か。

 それとも、小さな希望の息吹か。


『いちばん最初の異世界ファンタジー』序章 終

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