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古美術店『灯』  作者: 碧空
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ここは古美術店『灯』

初投稿です。筆は遅めなので、ゆっくり楽しんでいただける作品を作れればと思っています。

 しとしとと、小雨の降る日だった。

 黒猫模様が入った傘をさして、いつものように商店街を抜ける。それだけで、少しは気持ちが落ち着いた。傘をお気に入りの模様にしたのは、ちょっとした工夫なのだ。雨の日は、あの悲しい出来事を思い出すきっかけを良く作るから。


 ふと、視線をあげた先に、見たことのない小道ができていた。建物と建物に挟まれて傘をさした人が一人、通るのがやっとの隙間くらいの狭さだ。いや、あまりにひっそりと佇む小道だから、気づかなかったなかもしれない。降りやまない小雨のせいか、道の先はけぶるように先が見えない。

 けれど、何故かその先に行かなければならない気がした。そんな事、今まで一度としてなかったのだが、誘われるように奥へと進む。

「なんだって、いうんだか」

 ひとりごちて、思わず吹き出す。悲しい日は、ちょっと冒険したいのかもしれない。そう思ったら、俄然やる気が出てきた。迷うようだった自身の歩幅は、うってかわって大きくなった。舗装されていた道路がいつの間にか砂利道になり、ますますこの道は何処へ続くのか気になってきた。

 さくさくと歩みを進めると、いよいよ小道を抜けてちょっとした空き地に出た。その正面に建っているのは、年代物の店だった。二階建てだろうか、軒の上に大きくどっしりとした看板が据え付けられている。よく時代劇に出てきそうな、厚みと存在感のある看板だ。

「古美術店、て」

 人通りの全くない隠れ家的、と言えば聞こえは良いが、正直商店としては隠れすぎだ。そのあとに書かれているのは店名だろう。一文字『灯』と書かれている。

 戸は今時珍しい木戸だが、上半分はすりガラスが嵌め込まれている。残念ながら中は見えないが、ぼんやり明かりが灯っているように見えた。普段ならばこんな店構えの場所は素通りするが、先ほどより雨が強くなってきた。好奇心がうずうずと動き出していたのもあって、少し雨宿りさせてもらおうと戸に手をかける。

「痛っ」

 パチリと、弾けるような感覚があり、思わず手を離す。静電気でも受けたみたいな衝撃があった。これだけ湿度が高いのに、静電気などあるわけがない。もう一度、そっと戸に手をかけた。

「ごめんください」

 なるべく静かに戸を開けて、そっと声を掛けるが、残念ながら答える声はない。傘の雫をしっかりと払ってボタンで止める。体を中に滑り込ませ、中を見て驚いた。

「うわぁ」

 ぼんやりと明かりが灯る年代物のランプに、その光を受けて輝く棚の鉱石たち。立て掛けられた大きな柱時計のなかで、振り子がゆらゆらと揺れている。その奥にひっそりと佇む市松人形。しかし、テレビで見るようなお化け屋敷のような得たいの知れない恐怖はなく、何故か調和しているように見えた。

「なんと、珍しい。お客人か」

 声の方に視線を向けると、そこには紺の袴を来た男が立っていた。背が高く、短く刈られた髪に、つり上がり気味の目。整った顔立ちだが、表情が柔和なせいか、優しげに見える。

「お客人、そこの戸を閉めていただけるか? その戸は、この店にとって大切なものなのだ」

 告げられて、初めて戸が開けっ放しになっていたことに気づいた。慌てて閉めると、男は目を細めて笑う。

「ふむ、素直な良い子だな」

 良い子と言われると、反射で子供ではないと返したくなるが、どう見ても相手の方が年上なので、仕方なく頷く。

(くろがね)、客か?」

 トントンと軽やかな音を立てて、奥から姿を表したのは、若い男だ。此方は、シャツにベージュのチノパンといたって普通の姿だが(くろがね)と呼ばれた男の方が店内に馴染んでいるせいか、違和感を覚えたほどだ。

「ああ、(あるじ)。今、呼びに行こうと思っていた。我輩では、案内できんからな」

「案内なんて、いらないだろう?」

 ため息混じりに、若い男は呟いた。どうやら案内する気はないようで、柱に寄りかかって腕組みをしたまま此方を見下ろしている。

「そうとも限らんよ。どうやらお客人は、なにも御存知ない様子。少しぐらい教えてあげても良かろうよ」

「なにも知らないでこの店にくるなんて、運が良いんだか悪いんだか」

 再度つかれたため息に、ため息をつきたいのはこっちだと思わず顔を背ける。

「この店の事、本当に何にも知らないのか?」

「知らないわ。そもそも、お店はお客さんのためにあるはずなのに、こんなに小道の先に、看板も無しに隠れてたら知りようがないじゃない。店名はトウって読むの?」

「・・・これはまた、反応に困るな。因みに、あれはアカリと読む。古美術店『灯』(あかり)だ。」

 やる気のない顔が困惑顔になり、仕方無さげに男は話す。

「案内って?」

「店主は俺、そいつは従業員の(くろがね)。ここに来るのはみんな、この店の商品に縁のあるモノだけだ。」

 男はそういって此方を見るが、全く思いあたらない。呆然と立ち尽くすなか、男の視線だけが強く此方を射ぬいていた。

まだまだ、序章。登場人物の名前を早く紹介したい。

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