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-日本昔風作り話-

-日本昔風作り話-「招かざる手」

作者: 活動寫眞

昔々、ある所に、田吾作<たごさく>という普通の男が住んでいた。

毎日、畑を耕しては、おいしい野菜を作っていた。

近所付き合いも良く、村でも好青年だと言われていた。

でもこれといって特徴がある訳でもないので嫁さんが居るわけでもない。

そんな時、体に異変があることに気づくのだった・・・飲みすぎ?

ある日のこと。

田吾作<たごさく>は今日も畑仕事を朝早くからやっていた。

それそろ時期的に次の季節の野菜を作るために収穫の終わった土地を耕そうと

鍬を持ち、狙いを定めて大きく天へと振り上げた。すると、本来の目線より

少し上あたり、遠くの方に何か黒いモノが見えた気がした。



カラスか何かが飛んでいるのか?寝ぼけ眼の所為で良く見えない

何か妙に気になってしまった。



田吾作は鍬をその場に置いき、少し黒いモノの方へと向かって見ることにした

カラスにしては動かんし、木に止まっているようにも見えん!

何かがあるが、微動だせず黒いモノはそこにある。



歩けども、歩けども、距離は一向に縮まる気配はない

もしかして目にゴミでもと擦ってみたものの、消えることは無かった

そんなことをしていると、隣に住む、桔治郎<けつじろう>が畑仕事をしながら

田吾作に声を掛けた。



「田吾作やーい!何をボーッと歩いとんじゃ?」



「ああ、桔治郎さん。

 何かわしにも分からんのじゃが、黒い何かがあの先に見えてな」



「うん?・・・なーんにも見えないぞ?」



「そうか、もしかしたらわしの目が病気にでもなったのかのぉ?」



「なら早めに村長の所に行くといい、畑は暇ができたら耕しといてやっから!」



「すまねぇ、恩に着る」



田吾作は、村長の家を訪ねた。

村長も朝からいつも通り、妻に言われた通りに庭掃除の最中だった。

そこへ田吾作は挨拶もそこそこに今までの経緯を説明してみた



「ああ、別に目に異常があるようには見えんが・・・」



「そうですかぁ・・・」



「気になるようならまた来なさい!

 医者の心得があるわしでもわからん事もある!

 今は掃除を早く終わらせんと妻にまーた朝飯抜きにされる

 だから帰ってくれスマン!」



田吾作は、そんな村長の優しい一言で少し安心をした。

明日にでもなれば黒モノも見えなくなっとるかも知れん

病は気から、気にしすぎるのも良くない!

そう思い、田吾作は畑仕事へと戻った。



翌日、雨が降った。

気になって家を扉を開けて遠くを眺めていた

雨の中を凝らして見ても黒いモノは見えなかった

もしかして気のせいだったのか、治ったのか、とりあえず安心をした。



さらに翌日、前日の雨で朝から深い霧が立ち込めていた

少し寒気を感じながらも陽が出ればマシになるだろうと

畑へと向かって歩き出した



田吾作は歩みを止めた。



おや?霧で良く分からないが先に影が薄っすらと見えている

もしかしてあの黒いモノなのか?前日の雨の中では見えなかったのに

霧で視界が悪いのに何故か見えている気がする・・・



田吾作はいきなり走り出した。



もし、何かあるのなら黒いモノに近づけるはず

目に異常があるなら、消えずにあり続けるはず

兎にも角にも気になって仕方が無い田吾作は走って、

また走って、村の端の川まで走り続けた・・・



小さい村とは言え、端の川まで来るのも大変である

肩で息はしながら田吾作は考えた。



走っても黒いモノに近づける気がしない

それ所か黒いモノは田吾作から離れて行く、

いや性格には一定の距離を保っている

その事は霧が教えてくれた。



田吾作の目の病なら黒いモノは見え方は同じ

だが、走ると黒いモノは田吾作の足に合わせる様に下がって行く

それは霧をかき分けていたからだった。



そして立ち止まった今、少しずつではあるが霧で覆われ始めた

田吾作は今度は来た道を引き返し走った

村の真ん中辺りに来た時に田吾作は又、立ち止まって振り返った。

やはり黒いモノは今度は田吾作と一緒に着いて来た!



その事を、桔治郎に話してみた。

桔治朗さんは自分には見えないが、田吾作の見えている黒いモノを

自分が見てきてやる!と言い出した。

何が起こるか分からない恐怖があったが、互いに好奇心を抑えられず、

田吾作は頼み、桔治郎は向かった。



田吾作と声を掛け合いながらどのくらいの場所かを確認しながら桔治郎は進んだ

田吾作に見えている黒いモノの近くに桔治郎は近づいている

だが桔治郎には何も見えてもいなければ、

それに変わる何かが見つかる訳でもなかった



翌日、曇天の空を眺めならが田吾作は考えていた。

朝から黒いモノの確認の為に家を飛び出した田吾作、

そこには黒いモノが居た。だが、昨日と少し様子がおかしい

相変わらず向かえば下がる、下がれば向かってくる距離を保ってはいるが

田吾作の目には大きさが僅かではあるが大きくなった気がした



「あれは、おらが気づかない内に少しずつ近寄ってるのか・・・!?」



そして田吾作は桔治朗と二人揃って、村長に相談しに行く事にした。

だが、道中なにやら騒がし事に気づいた。

そしてそれは村長の家の方向からだった。

桔治郎が家の周りの野次馬に声をかけ、驚いた様子で帰ってきた。

どうやら村長が奥さんを殺めて行方不明になっていたらしい。

家の庭には奥さんが無言のまま荒縄を首にかけて吊るされており

男性の右腕がその場に落ちていた。

それはたぶん、村長の腕だろうという話だった。



その日から村から村長の捜索隊が作られ、方々探し回った。

しかし、何の手がかりも見つからない。もし村長の腕ならば血の跡があるはず

それに片腕を失くした人間がそう遠くまで行ける筈もない、

むしろ途中で行き倒れていてもおかしくない。



そんなこんなで、噂が噂を呼び、村には多くの人が訪れた。

珍しいもの見たさで来る者、村長を見つけて報酬を狙う者、

効果の分からない札を売る者、小さな村が連日騒ぎになった事で、

大名の命で配下が村長探しのために派遣されて来た

そのお陰で胡散臭い連中は村から消えたが、

大名軍の世話で村人は大忙しとなった。



そして問題の田吾作も黒いモノは何故か消えていた。



事件の翌日から一切、田吾作は黒いモノを見ることもなくなっていたのだった。

桔治郎も、何かしら病や祟りなどで無くて良かったと喜んでくれた。

数ヶ月が過ぎた頃、村長の情報が一切ないことから大名が配下を引き上げさせた。

そして村長が新たに選ばれ、何事もなかった様に静かな村へと戻ったのだった。



しかし、田吾作は気づいていなかった。

黒いモノ、確かに田吾作にしか見えない、他人には見えない。

その所為、田吾作の視界からは黒いモノは消えていたが

それは既に真後ろに存在したからであった。



遠くて姿かたちははっきりと見えなかったが、

その姿、返り血を浴びた如く赤黒く濁った肉の塊

そこから鋭い獣の爪が生え異臭が漂って来る様に見えた。




・・・数年後、村長の知り合いという旅の方が村を訪れた。




その方、遠く西国から旅をして来たそうだ。

そしてわしは聞かされた内容に驚きは隠せなかった。



村長は意識朦朧としながら西国の入り口辺りで倒れていた。

旅の方は、家に連れ帰り介抱したそうだ。

村長は苦しみながら少しの間、自分の事を語った



自分がある村で長をしていた事、妻を助けれなかった事、

自分の意思では体はいう事を聞かず、あちこちで暴れここに辿り着いた事、

それはすべて“田吾作”という男に“鬼”を見た日からの出来事だった事、



村長の家に田吾作は夜中に訪ねて来た。

どうしても目の事が心配で夜も眠れないというので

眠り薬を少しばかり渡して飲ませたそうだ



すると驚いた事に田吾作はその場に倒れて眠り込んでしまった。

薬に即効性などはないが、気が落ち着いて安心したのだろうと

妻と一緒に寝床を用意し寝かせた。



早朝、田吾作は奇声を発した!



それに驚き村長は直ぐに客間へと急いで行った。

村長がそこで見たのは倒れている田吾作の上に浮かぶ“鬼の手”だった。

すぐさま村長は庭の御神木へと走り寄った。



庭の御神木はかつて屋敷でもてなした僧侶が巻いた綱があった

それを解き“鬼の手”へと投げつけた

綱は生きている様に“鬼の手”に絡みつき縛り上げたのだった



村長は田吾作を起した

しかし、呻き声をあげるだけで目を覚まさない

そんな時、刀を持って村長の妻が来た

村長は刀を受け取り、鞘を捨て抜き身を“鬼の手”に突き刺した!

“鬼の手”は真っ黒に焼け焦げたかと思うと灰と化した。



わしは訪ねた。

“鬼の手”を退治したなら村長は何故、妻を殺して西国へ?



旅の方は答えた。

村長は後ろから腕を斬られた。村長は意識が薄れる中で事を見ていた。

“鬼の手”の動きを止めた綱で妻が首を絞められる姿、

村長の腕を斬ったのは“鬼の手”を刺した刀、その血が村長の体を奪った事。



わしは言った。

村長はそれで“鬼”となってしまったのかぁ、

村長を斬ったのは田吾作だったか!だが安心だぁ!

田吾作は去年、山で獣のに襲われて死んだ。祟りは戻って来るんだなぁ



旅の方「そう、人は人を恨む事で鬼となる。そして、あんたが全ての元凶。」



桔治郎「何を言ってんだぁ?わしは何も悪い事はしてねぇ!」



旅の方「田吾作は山であんたに襲われたと言っている。」



桔治郎「そんな事はねぇー!わしは・・・田吾作は生きてるのか!?」



旅の方「ああ、深手だったが無事だ。

    それに言い忘れたが私は西国で僧侶をやっている。

    かつて村長に世話になった。

    御神木の綱が人を殺める道具に使われるとは・・・」

  


桔治郎「それは鬼がやったことだ!田吾作も鬼だ!」



旅の方「残念だが、綱を触れるのは人のみ。

    人の手で、あんたの手で村長の腕を斬り、

    綱で奥さんを吊るしたのだ。

    村長はハッキリとあんたの顔を見ていた!」



桔治郎「!?」



旅の方「あとは人間の裁きを待つが良い」



そう言うといつの間にか近くに隠れていた大名配下の者たちが現れ

桔治郎を捕縛した。桔治郎は普段から田吾作を良く思っていなかった。

強い怨み嫉みが黒いモノとなり田吾作の目に見えるよ様になった。

桔治郎は村長の奥さんに惚れていた。しかし、自分の妻に成らない事から

黒いモノの力で田吾作を操り、屋敷で騒ぎを起させた。



僧侶の話では、村長に鬼が移ったことで、桔治郎には何の力もない

その事を確認しに村にやってきたのだった。



鬼は悪さをすると言われるが、それは人の負の力が具現化したもの。

閻魔大王は神であり、鬼は使者、人に迷惑をかけるのは人であり、

人より怖いものはない。



そして、この村に人はひとりも住んでいない。

事件以降、徐々に村人は土地から離れていった。

それでも田吾作は村に住む事にした。今は隣の家の空き家ではあるが、

いつか村が幸せで満たされる様、今日も鍬を持って畑を耕す田吾作。

だが、この村に人はひとりも住む事はなかった。

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