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仮想学園の幸運剣士(ラッキーナイト) ~リンク・リング・オンライン冒険譚~  作者: 灯色ひろ
6th link

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英雄たちの帰還


「――はあああああああっ!」


 そこへ走っていたのは――レイジさんだ。

 僕よりも近い位置にいたレイジさんは、《クロノ・アビス》の効果が切れた瞬間に琴音さんの元へ走っていた。そして琴音さんの身体を突き飛ばし、


「ユウキくん! ――後は任せたッ!」


 爽やかに笑い、迫り来るボスへ向かって最後のスキルを放つ。


「《ランス・ポイント・エンド》ッ!」


 崩れた体勢からでは存分に威力を発揮出来ないとわかっていたんだ。レイジさんはランスの先を射出し、それは狙ったのか偶然なのかドラゴンの額の宝石に直撃。HPゲージがさらに大きく減り、ドラゴンが苦しげな声を上げる。だけどレイジさんも爪の直撃を受けて絶命してしまった。


『グオオオオオオッ……! 滅びよ! 滅びよっ!』


 ダメージを受けて叫ぶドラゴンは赤い瞳で琴音さんを睨みつけ、振り上げた尾を琴音さんの元へ叩きつけようとする。


「琴音さんっ!」


 走り出していた僕に、琴音さんは逃げることもなく杖を掲げて――


「――《プリエ》! 《ゴスペル》! 《エンゼル・フェザー》! 《ホーリィ・ブレス》! 《セイント・ヒム》! 《フェイス》!』


 連続で唱えた支援バフはすべて僕に向けられたもの。

 そして最後に、


「《グローリア》!」


 僕の頭上で鐘の鳴るエフェクトが発生。

 それはクリティカル攻撃のダメージを倍化させる呪文。

 琴音さんが、僕のためだけに取得してくれた貴重なスキル。想いの力。

 その直後に琴音さんは尾の直撃を受けてHPゲージを失い、倒れる。



「あなたに――祝福を」



 琴音さんは微笑んでいた。


 ひかりも、レイジさんもそうだった。

 みんなの気持ちを、僕は受け取った。

 ドラゴンの赤い目が僕を捉える。

 両手に力を込めた。

 ひかりが作ってくれたチャンス。

 みんながくれたこの瞬間。

 琴音さんがくれた支援の力。


 全部この双刀に込めて――戦うッ!



「ユウキくんっ!!」



 ひかりの声が聞こえた。

 迫り来るドラゴンのあまりにリアルなその形相さえ、ちっとも怖くなんてない。

 僕は今、たくさんのものを背負ってるから!



「これでラストだっ! ――《光輪円舞》!!!!」



 光の力を纏ったその剣の連撃でドラゴンを切り裂く。赤い滝のようなクリティカルダメージが視界いっぱいに広がっていった。


 そしてそのHPゲージは――



『グ…………グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』



 ――ついに。

 ついにHPの尽きた『暗黒時竜・カイザードラゴン』は断末魔の悲鳴と共に倒れ伏し、そして煌びやかな粒子と溶けて消えていく。


 瞬間、僕たちのレベルが一斉に上昇し、MVP獲得のエフェクトが発生。

 ボスの消えた場所には見たこともないドロップアイテムが一つだけ落ちた。

 それらを拾ったときにはまだ実感がなく、ぼうっとする僕。

 するとそのとき、LRO世界全体へ向けた運営からのチャットが流れた。



『LROの生徒皆さまへお知らせいたします。

 期間限定学園クエスト――『時を超えし竜』が初制覇されました。

 ファーストMVP獲得者は『ユウキ』さまとなります。攻略に携わった全ての皆さま、お疲れ様でした。予想以上の速さでの攻略、お見事でした。

 なお、期間が終了するまで本イベントは継続され、ボスモンスターは一日に二回ほど復活します。ボスモンスターは大変な強さを誇りますが、力を合わせることで退治は可能です。大変なレアアイテムも所持しておりますので、是非挑戦し続けてください』



『――やったあああああああああああああああああああっ!』



 そんな運営の連絡チャットを見て、僕以外の倒れていた全員が大声を上げ、僕はびくっとみんなの方を振り返る。

 そして遅れてやってきた喜びと高揚感に、僕も思わず叫んでしまった。


「――よっしゃあああああああ!」


 ガッツポーズを取って、周囲から大きな歓声が上がる。

 僕はすぐにひかりの元へ走った。


「ひかり! やったよ! 倒した! 倒せたんだっ!」

「ユウキくん……はいっ! MVPおめでとうございます!」

「ひかりのおかげだよっ! それに……みんなのおかげなんだっ! MVPなんてどうだっていい! みんなで倒せたから……めっちゃくちゃ嬉しいっ!」


ひかりはキョトンとまばたきをして、それから「はい!」と笑顔を見せてくれた。

メイさんもナナミもレイジさんもビードルさんも楓さんもるぅ子さんも、みんなが笑顔を浮かべて抱き合う。その瞬間、僕はみんなと心が一つになったことを確かに感じた。例えゲームの中だろうと、こうして心を通わせることは出来るんだって、繋がることが出来るんだってそう思った。


 そうしてイベントの初制覇者となった僕たちは、みんな笑顔を浮かべたまま、しばらくそこで勝利の余韻を味わっていたのだった――。



 *****NOW LOADING*****



 しばらくして街に戻った僕たちを待っていたのは、たくさんの生徒たちと歓声。


「おめー!」「やったな!」「アナウンス聞いて待ってたよ!」「つーか攻略早えよ!」「すげぇ強いボスだったんだろ!?」「どんなレアアイテム出たのっ?」「話聞かせて聞かせてー!」「さっすが生徒会だよねー!」「いやメイさんのギルドもすごいよ!」「夏休み前に終わらせるとかすごいな!」「スクショ撮ってたら見せてよー!」「ボスどうやって倒したか教えてくれー!」


 以前からずっと僕たちを応援してくれていた人たちと、競い合ってきた人たち。多くの人たちが僕たちを祝福してくれた。中には先生たちの姿もある。

 そんな大歓声と人混みに吞み込まれた僕たちは、しばらくその騒がしい世界から逃げられなかったけど、やがて先生たちと生徒会のレイジさんたちが上手くみんなをなだめてくれて、ようやく落ち着いてギルドのたまり場まで戻ってくることが出来た。


「――みなさん、お疲れ様でしたっ!」


 ひかりのねぎらいの声に、みんなも『お疲れ様!』と一斉に返す。そして思い思いに喋りだした。


「ふぅ、やっと休めるわね。メイが調子に乗ったせいで、みんな盛り上がりすぎよ」

「あははごめんねぇ琴音。それにしてもすごい人だかりだったね~! メイさんたち、まるで魔王をやっつけた英雄みたいっ!」

「大げさなんだよ……こっちは疲れて帰ってきてんだから休ませてくれっての……」

「だけどみんなの気持ちもわかるよ。僕だって、まだ興奮が止まらないからね! あの瞬間が忘れられないよ!」

「ふん、オレもあそこまで昂ぶったのは初めてだ」

「そうねぇ~♪ ところでユウキちゃん、どんなレアアイテムが出たの~?」

「あ、私も気になるところです。教えてくださいユウキさん」

「あ、はいっ」


 そこで僕はインベントリにしまっておいたドロップアイテムを取り出し、みんなに見せた。

 あのボスが落としたアイテムとは、これだった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


《時の砂時計》

 備考:遙か古に生きたという、時を司る竜の鱗を粉にして作られた砂時計。

    逆さまにすれば、わずかな間だけ時の流れを操ることが出来るという。

    自らと対象の〝絆〟を上限まで増加させる。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


『おお~……』


 感嘆したような声が上がる。

〝絆〟というのは、おそらくリンク値のことを指している。

つまりこれは、なんとリンク値を上げることが出来るという品だった。そもそもマスクデータであるリンク値は存在することすら明確にされていないため、使いどころは難しいという印象はあるけど……でも、リンク値を使ったシステムは、現在でもいくつか解明されてきている。


 そのうちの一つは――そう、《リンク・パートナー契約》である。


 メイさんが言った。


「ねぇみんな、ちょっと相談があるんだけど……このアイテムは、ひかりにプレゼントするのはどうかな?」


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