柔らか泡まみれサンドイッチ
「ユウキくん。どう? 痛くはないかしら?」
「あ、は、はいっ。大丈夫です」
左半身を洗ってくれている琴音さんに応える。すると琴音さんは肩の辺りを洗いながら言った。
「そう。……それにしてもユウキくん、意外に筋肉質なのね」
「え? そ、そうですか?」
「ええ。普段は細めのスタイルに見えるけれど、背中や肩、腕周りも思ったより筋肉がついているわ。服の上からじゃわからないこともあるのね」
「そ、そうなんですかね……自分じゃあんまりわからないですけど」
「そうなのね。私、あまり筋肉が好きというわけではないけれど……でも、ユウキくんが意外にたくましいんだってわかったら、少しドキッとしたわ。剣士だからというのもあるでしょうけど、やっぱり男の子は男の子なのね」
「えっ……」
なんてことを言われてしまうものだから、こっちこそドキッとしてしまう。琴音さんはさらっとこういうことも言えてしまう人なので嬉しいような困るような。
「さて、それじゃあ次は背中を洗うわね」
「えっ?」
「あっ! こ、琴音さんずるいですっ!」
「真剣勝負にズルはないわよひかり。彼をどう癒やすか、それがすべてなんだから」
「う、ううう~!」
あまりにも丁寧に洗いすぎてスピードの遅かったひかりが悔しそうな声を上げ、その間に琴音さんは僕の後ろに回って背中を洗い始めてくれた。普段自分では見えない部分だからちょっと照れたけど、琴音さんの心地良い手つきにすぐホッとしてしまう僕。
すると右手を洗っていたひかりが突然言った。
「うう……そ、それじゃあわたしは前を洗いますっ!」
「「えっ」」
ひかりはほとんど強引に僕の両手を引っ張って僕の体勢を変え、琴音さんが慌てて再び背中側に移動。
おそらく、前を洗うのは僕の方が照れるし、い、いろいろ問題もあるからと、そんな気遣いもあって琴音さんは背中を選んでくれたはずだ。
にもかかわらず、ひかりが大胆な行動に出たことに僕も琴音さんも、そしてメイさんたち審査員のみんなも驚いていた。けどナナミは「いいぞもっとやれ!」と盛り上がっている。ちょっとナナミ!
そして僕と対面する形になったひかりは、
「し、失礼しますっ!」
「ひ、ひかり? え、ほ、本気でっ!?」
ボディタオルをおそるおそる僕の胸元に当て、それから優しく優しく、赤ちゃんの肌を洗うような強さで僕の身体を洗い始めてくれた。こそばゆくて、あんまり気持ち良くはない。ていうか自然とひかりの身体が接近しまくっていてそれどころじゃない!
「ひ、ひかり……!」
だって、ひかりのむ、胸はあまりにもご立派で、バスタオルを今にもほどきそうなくらい押し上げているし、向かい合って座る僕からはその谷間が容易に覗けてしまう。自然と吸い寄せられてしまうその絶景は僕の目を釘付けにして離してくれない。
「ユ、ユウキくん。どうですか? 痛かったりしませんか?」
「う、うんっ。だ、大丈夫だよひかり」
「良かったです……あのっ、ちゃ、ちゃんと……し、下も、全部洗いますねっ!」
「あ、う、うん――って、えっ!?」
「え、ちょっとひかりっ!?」
僕だけじゃなく琴音さんも、そしてメイさんたちも『ええっ!?』と驚愕した。
ひかりのボディタオルがじりじりと僕の下半身の方へと下がっていく。
「ちょ、ひかり待って! そ、そっちはいいから!」
「い、いえっ、あ、洗わせてくださいっ!」
「いやいや! 勝負だからっていくらなんでもそんなことまでしなくていいんだよ! ていうかそんなことしてもらったらどっかの怪しいお店になっちゃう!」
慌ててそう言った僕に、しかしひかりは、
「そうじゃないんです!」
と、大きな声で返してきた。
その声に、僕たちはシンと静まる。
ひかりは声量を落として続けた。
「あ、ご、ごめんなさい。でも、勝負だから、そのためにしたいんじゃ、ないんです」
「……ひかり?」
少しの沈黙を挟んで。
ひかりは言った。
「……琴音さんを見ていて、その、すごいって、思いました」
「私が?」
「は、はい。琴音さんは、ちゃんと自分の想いを口にして、行動の出来る人で、すごく、尊敬します……っ! それでわたし、自分が今までユウキくんに何もしてあげられてなかったんだって気づいて……相方なのに、そんなことにも気づいていなかった自分が、子どもっぽく思えて、悔しかったんです。だからもっと、ユウキくんのために、何でもしてあげたいって……」
そんなひかりに、僕は言葉を失っていた。
ひかりがそこまで考えてくれていたことに驚いて。そして、それが嬉しくて。
ひかりはわずかに震えながら言った。
「だ、だから……そのっ、ユ、ユウキのためなら、わたし、何でもしますっ!」
「え……ひ、ひかりっ!? だからそれとこれとは話が別で! ダ、ダメーッ!」
ひかりは僕の下半身へと手を伸ばしてきて、僕は慌てて身を引こうとしたけど後ろには琴音さんがいて逃げられないことに気づいて混乱。けれどその間にもひかりはそのまま勢いよく僕の方に向かってきて、
「わ、わーっ!!」「きゃっ!」「ちょ、何っ!」
その場でもみくちゃになる僕たち。
思わず目を閉じた僕は――そっとまぶたを開いて現状を確認する。
まず見えたのは、風呂場の天井。
そして、僕の後頭部や上半身、下半身、全身を包み込むスベスベとした魅惑の感触と、シャンプーや石けんの香り。
中でも僕の右手に吸い付くように感じたのは、大きなマシュマロのような柔らかさと、少しだけ硬くなっている何か。そっと手を動かすと、ひかりが「んっ」と艶めかしい声を上げた。大きさは違うけど、背中にも同じように柔らかな感触が二つある。僕が軽く動いてしまうと、背中で琴音さんが「あっ」と色艶のある声を上げた。
それでわかった。
僕はひかりに押し倒されるように後ろへ――琴音さんの方へ背中から倒れてしまったのだと。そして今、サンドイッチの具の状態と化した僕が感じているのは、二人の身体そのものの感触で。
本能で悟った。
たぶん、これは最高で最悪の状況だと。
そして理性が叫んだ。
おい、これはヤバイぞ、と。
「うう……あっ、ご、ごめんなさいっ。ユウキくん、大丈夫ですかっ。琴音さんも大丈夫ですかっ、ごめんなさいっ!」
僕に馬乗りする形になっていたひかりが、天井を隠すようにして僕の眼前に現れ、その鼻の頭についていた泡がぽと、と僕の頬に落ちてくる。
けど、僕は何も言えなかった。
「ユウキくん?」
ひかりがそっと僕の名前を呼ぶ。
艶やかなひかりの髪と、長い睫毛、大きな瞳、ほんのり赤く染まった頬と、可愛らしい桃色の唇。滑らかな陶器のような肌は白く、そしてひかりが先ほどまで身に着けていたはずのバスタオルは――装備はなぜか解除されていて、それは床に落ちてしまっている。
つまり、全部見えてしまっていた。
ひかりの大きな二つの膨らみも、桜色の頂きも。
なのに、僕はひかりから目が離せないでいた。
いけないと頭ではわかっているのに。
どうしても、僕はひかりから目を離せなかった。
そして不思議と冷静な頭で色んなことを考えた。こういうのって、異性に対してはフィルタリングをかけたほうがいいんじゃないかなとか。やっぱりさっき手に感じたひかりのもの感触だったのかなとか。LROではそういう行為もリアルと同じように出来るのかなとか。
そのうちに、ひかりがようやく気づく。
「ユウキくん? もしかしてどこか痛め――――あ」
ひかりが自分の身体を見下ろしてそんな声を上げた。
けれど、ひかりは身体を隠すことも、僕の上から退くこともしない。
みるみるうちに真っ赤になったその顔で、瞳で、僕を見つめた。
「ユウキ、くん……」
「ひかり……」
「………………わ、わたし、ユウキくんに、なら…………」
ひかりはとろんとした瞳で、静かに僕を見つめている。
周りの音が聞こえなくなっていって。
もう、ひかりのことしか見えなくなっていく。
そして僕の手は、自然とひかりの方に伸びて――




