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Link ∞ Ring Online ~仮想学園の幸運剣士~  作者: 灯色ひろ
4th link

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《リンク・パートナー》

 さく、さく、と砂を踏みしめる音、静かな波音が聞こえてくる。

 隣を歩くひかりは、目を閉じてそれらの音にじっくり耳を傾けており、頭上の狐耳も嬉しそうにぴょこぴょこ動いていた。

 

「ん~……ユウキくん、風がとっても気持ちいいですねっ」

「だね。なんかもうLROの風も自然のものにしか感じないよ」

「あっ、そ、そういえばここってゲームの中なんですよね! わ、わたし今日はずっと忘れてましたっ」

「あはは。でも、たぶんひかりみたいな状態になるのを運営さんたちは望んでるんだと思うよ。僕だってたまに忘れるしね」

「そ、そうなんでしょうか」


 風は多少涼しくなって、遊び疲れて火照った身体に心地良い。潮の匂いだってリアルのそれと何も変わらない。そりゃあ忘れるのも当然かなって気はした。


「……あっ! ユウキくん見てくださいっ!」

「うん? おお……」


 そうして砂浜を歩いていると、少し先に小さな岬が見えてきて、大きな花のアーチと銀色の鐘、そしてそこに続く赤い絨毯、さらには左右にいくつかのベンチが置かれているという、まるで屋外挙式のような設備が整っている場所を発見した。その発見に後ろを歩いていたみんなも声を上げて驚き、僕たちの足は自然とそこへ向かっていた。



《海辺フィールド 祝福の岬》


「へぇ……こんなフィールドにこんなのがあるんだな」

「すごいですね、ユウキくんっ!」


 海に突き出した岬の式場。そこからは綺麗なLROの海が一望出来て、はるかな水平線がオレンジの空と海とを綺麗に分けている。

 この《海辺フィールド》は水着レンタルの店がある時点で観光地っぽいし、たぶん、こういうところに来るカップルのために作られているものなんだろう。本当に凝った作りのゲームだなぁ。メイさんたちもみんな盛り上がってるよ。


 すると、そこで花のアーチに触れながらひかりがそっと口を開いた。


「あの、ユウキくん」

「ん?」

「わたしって……良い相方さん、出来てますか?」

「え?」


 突然の質問。

 それはみんなの方にも聞こえていたようで、みんなどうしたのかとこちらへ集まってくる。

 どういう意味なのかと考える僕に、ひかりは風に揺れる髪を抑えながら続けた。


「わたし……ユウキくんに追いつきたくて、ユウキくんと一緒に戦えるようになりたくて、今まで『ひかり』を育ててきました。けど……やっぱり支援はほとんど出来ませんし、かといって、すごく戦えるわけでもないですし……GVGでも、あんまり役には立てなくて。時々考えるんです。ユウキくんはそのままでいいって言ってくれましたけど、でも、やっぱりちゃんと支援の出来る《クレリック》さんになっていたら、もっとユウキくんをサポート出来たのにって……」

「ひかり……」

「えへへ。弱気はダメですよね? 大丈夫、わかってます! でも、そんなわたしをずっと相方さんにしてくれていて、嬉しくて、だから、ちゃんとお礼を言いたかったんです。ユウキくん、ありがとうございました!」


 ひかりは僕の前にぴょんと飛んで、それからぺこっと頭を下げた。そして再び顔をあげたとき、ひかりはとびきり綺麗な笑顔を浮かべてくれる。

 メイさんとナナミもこちらを見ていて、メイさんは僕にいつものウィンクをして、ナナミは小さなため息をついた。生徒会のみんなも笑っている。

 そんな光景が……僕にはまだ信じられない。

 こんなに優しい人たちばかりのギルドに入れてもらえて、G狩りや、今日みたいなGイベントにも参加出来て、GVGではみんなで協力して戦って、レイジさんたちの生徒会ギルドに勝つことが出来てしまった。

 それは、あのソロプレイしていた頃からは想像もつかない思い出で。

 そして、こんな風に笑ってくれる相方がいる。

 思えば全部――あの日、ひかりに出会えたからだ。

 ひかりと出会えたから、僕のLROは始まったんだと思う。


「……こっちこそありがとう、ひかり」


 お礼を言うのは僕の方だ。

 ひかりにも、メイさんにも、ナナミにも。感謝してもしきれない。

 みんながいてくれなきゃ、きっと、僕はまだ一人でLROの世界を彷徨っていた。

 ひかりは「えへへ」と笑い、メイさんもナナミさんも微笑んでくれている。

 いつからか思っていた。

 僕も、ひかりに見合うような相方になりたい。

 だから、少し前からずっと考えていることがあった。

 それを今、伝えてみよう……!


「ひかり、あ、あのさ――」


 僕が勇気を出して口を開いたとき、


「ユウキくん。わたし、いつかユウキくんの《リンク・パートナー》にもなりたいです!」

「いつか僕と――え? い、今なんて?」

「え、えっと、ユウキくんの、《リンク・パートナー》になりたいですって……」

「え、え、ええ……っ!」


 目を点にする僕。

 まただ!

 またひかりに先を越されてしまった!


「ああああああ~!」

「え、え? ユ、ユウキくん?」


 頭を抱える僕を見て、メイさんが楽しそうに言った。


「おやや~これは驚いたよ! まさかひかりの方から言い出すなんてねっ。いわゆる逆プロポーズってやつかなぁ? ふふ、やっぱりこの場所と雰囲気がそうさせたのかにゃ?」

「いやまぁ、このバカップルじゃいずれそうなるだろ」

「はは、この場所にぴったりの展開じゃないか。僕も心からお祝いするよ!」

「ふん、男が浮つきすぎるな」

「あらあらあら~~~♪ なんだか甘酸っぱいイベントに直面しちゃったわね~~~♪」

「わ、私たちもここにいていいんでしょうか?」


 メイさんがワクワクしたように言って、ナナミは雑につぶやき、レイジさんは喜んで拍手をしてくれて、ビードルさんは腕を組んだまま口を一文字に結んで、楓さんはぴょんぴょん跳ねて、るぅ子さんがちょっとうろたえている。


 ――《リンク・パートナー》。

 それは、お互いの絆が高まったとき――具体的には、お互いへの『リンク値』が上限に達したときに使用出来るようになるというパートナー契約システム。他のMMORPGでいう、いわゆる《結婚システム》のようなものだ。だからメイさんは逆プロポーズなんて言い方をしたんだろう。

 最近見つかったばかりのこのシステムは、プレイヤー同士のリンク値を上限まで上げ、教会などの特定の場所で告白行為を行うことで契約イベントが発生する――と言われている。

 けど、プレイヤー間同士に設定されたリンク値がどんな条件で上昇するのか、上限はどの程度なのか、そもそもそのリンク値は確認することも出来ないし、検証は最近始まったばかりだから詳しいことはまだわからない。

 というのも、以前にひかりのクエスト関係で王都の教会に行ったとき、そこで偶然デートをしているカップルを目撃して、そこで男子生徒の方から恋人になってほしいという告白をして、それに女子生徒が答えたとき、二人の前に《リンク・パートナー契約》のウィンドウが突如出現したらしい。

 そして二人がそれを承認すると、二人の左手――その薬指に《リンク・リング》が自動的に移動してさらに宝石が輝き、周囲にはクラッカーや紙吹雪のエフェクトが発生して、二人はシステム上の《パートナー》となった――という事実があり、当時は大騒ぎになった。そこで初めて、どうやらリンク値を参照した隠れシステムだということが判明したんだっけ。


 あのカップルを見たとき、僕は思った。

 出来ることなら、これからもひかりと一緒にいられたらな、と。

 だから、今度は僕の方から言おう。《リンク・パートナー》になってほしいと。


 ――なのに、また先に言われてしまった! ああああ~!

 なんて動揺していた僕に、ひかりは言った。


「《リンク・パートナー》になれば、お互いがいる場所にワープしたり、ステータスを共有したりも出来るんですよね? そうなれば、わたしでも少しは役に立てそうですっ」

「ひかり……」

「だ、だから、もしよかったら、わ、わたしと、なってくれたら、嬉しいなぁって思ったんですけど……ど、どうでしょうか……?」


 少しだけ脳裏によぎった。

 もしかしたらひかりは、《リンク・パートナー》のメリットを得るために――僕の役に立ちたいという、その奉仕の気持ちのためだけにそう言ったのかもしれないと。だから別に僕のことを特別何か想っているわけでなくて、深い意味はないのだと。

 でも……

 ひかりの瞳は、今にも泣きそうに濡れている。

 呼吸は浅く、早くなり。

 よく見れば、その身体もわずかにだけ震えていた。

 ひかりが、いったいどんな気持ちで言ってくれたのかは想像するしかない。

 別に恋人同士の告白でもない。本当のプロポーズでもない。

 けれど……今、僕の目の前で震える小さな女の子が、ものすごく勇気を出してそう言ってくれたことだけはわかったから。

 僕もまた、真剣に答えないといけない。


「……ひかり」

「は、はい」

「さすがに僕も……その、男として、少しくらいは、プライドがあってさ……」

「……え?」

「だから……お断りさせてください!」


 と、そう言ったときのひかりの顔は見られなかったから、僕はすぐに言葉を繋げた。


「そしてちゃんと僕の方から改めて言わせてください! ひかり! いつか僕たちのリンク値が溜まったら……僕と《リンク・パートナー》になってください!」


「…………え?」


「けど! それは《リンク・パートナー》になることで得られるメリットがどうとか、そのためじゃないですから! 僕にとっての相方はひかりで、パートナーになる人はひかり以外考えられないからひかりになってほしいと思うわけです! だから、も、もももももしよかったらよろしくお願いしまぁす!」


 恥ずかしすぎて早口に言い終えた僕は、頭を下げてバッと手を伸ばす。

 それからおそるおそる頭だけを上げる。

 ひかりは、当たり前だけど呆然と僕を見下ろしていた。


「や、ち、違うんだ! 断ったのはその、ぼ、僕の方から言いたかったから! ていうかひかりいきなりすぎるし言うのが早いよ! 僕だってずっとそう思ってて、ちゃんと頃合いを見て、僕の方から言おう言おうって思ってたんだ! な、なのに急に先に言われたからちょっと動転して……け、けど断ったのは嫌だって意味じゃないよ!? むしろお願いしたいのは僕っていうか! だ、だからその……お願いしまあああああす!」


 後はただ、この手を伸ばすのみ。

 ひかりが今、どんな顔をしているのかわからない。

 心臓は今までにないくらい速く動いていた。

 人生でここまで緊張したことがあっただろうか。いやない!

 メイさんとナナミはきっと笑いをこらえてるんじゃないだろうか。つーか今ちょっと笑い事聞こえたぞ!

 なんかもうドキドキしすぎて頭の中が真っ白になっていて。

 そして、しばらく待った後――

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